夜になると町中が光り輝き、ビルとビルとの間には、点灯している巨大なツリーが飾ってある。
そのツリーを見上げる男の子と女の子、二人とも赤いマフラーを巻いて、黄色のニット帽をかぶっている。
隣には、若い20代のカップルが手を握ったり、肩を抱き寄せあったりして、ツリーを眺めている。
通りかかった女性3人組は、ツリーをバックに、スマートフォンを取り出して、カメラで自撮りをしている。
「インスタに . . . 本文を読む
もうすぐ3時間目の国語が始まる。
窓から、校庭の運動場を見るとどんよりとした薄暗い曇り空から雨が降っている。
まったく雨の日は嫌いだ。じめじめと蒸し暑くなり、サウナに入ったような感覚に陥る。
国語の児玉先生がドアをガラガラと入って来た。
「ハイ。今から授業を始めます。」細長い男の先生だ。
先生が黒板に問題を書いて、「誰か分かる人~」と聞いてきた。
みんな分からないから俯いているのを見 . . . 本文を読む
小学3年生の頃、病気がちだった。遠足の前は必ず熱が出るし、修学旅行なんて、とてもじゃないが、考えるだけでも風邪を引いた。母親は、知恵熱とか言うけど、自分でもよく分からなかった。
今日も、学校で体育の授業の前に、熱が出て、保健室に行った。
「また、熱が出たの?」と先生が言って、心配そうな顔をして、オデコに手をやり、体温計を私の胸に指した。
保健室の先生の顔を見たい気持ちがあって、体が勝手に熱 . . . 本文を読む
深夜3時、目覚まし時計が鳴り響いて止めた。寒くなってきて、起きるのが辛い。
一時、ボケっとして、ダウンジャケットを着る。
自分の原付に前と後ろに朝刊を載せて、家を回って、配る。
凍てつく寒さに体が震える。軍手をはめていても、手がジンジンと響く。
こんな寒いのに、新聞を待っている人もいる。
新聞をポストに入れたと同時に向こう側で、引っ張る人がいてビクッとする。
一時間くらい配ったところ . . . 本文を読む
ジャラジャラジャラジャラ。麻雀牌を混ぜる音が部屋中響いている。
ケンジとツナヨシとカズと私で、麻雀をしていた。
銀色の灰皿が潰れたタバコでいっぱいになり、ツナヨシが缶コーヒーの缶に吸った煙草を押しつぶすように入れた。周りは、煙で充満していた。
くわえたばこで、「ポン」とケンジが叫んだ。その後、隣に座っていたツナヨシがリーチ一発とつぶやいた。
「やられたー。」ケンジがリーチ棒を横で投げるよ . . . 本文を読む
昼は温かいが、夜になるとヒンヤリとした風が部屋の隙間から入り込んでくる。
アパート四畳半の狭い部屋、薄い壁から甲高い声で、怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前なんか生まなきゃよかった。どっかに行ってろ。」ガタンと机をひっくり返すような音が響いた後、錆びれた玄関のドアが開いた音がした。そっとドアを開けて見ると、耳が片方ちぎれたウサギを抱いて、裸足の少女がいた。涙目で、じっとこちらを見ている。
隣 . . . 本文を読む
金曜日の夜、久しぶりに居酒屋に寄り道をして、課長と酒を少し飲んだ。
部下の愚痴を言い合いしたのを思い出しながら、電車に乗る。家までは、特急で二駅だ。暖房がきいた電車から降りると、ヒンヤリとした北風が吹きつける。コートの襟を立てて、改札口を出た。
それに輪をかけたように、粉雪がちらついている。
自宅まで歩いて帰る。人気がない山道をいくと、大きな池がある。昔は、河童がいたと父親からきいた事があ . . . 本文を読む
昨日は、クリスマスイブという事もあり、豪華なパーティーで盛り上がった。
シャンパンをがぶ飲みし、頭が痛い。飲み過ぎた。リビィングを見渡すと、クリスマスツリーが倒れて、コップとケーキの皿がザンバラに散らかっている。
ベッドでは知らない女が、いびきをかいて寝ている。
窓のカーテンを開けると、陽射しがまぶしくて、目を細めた。目の前の道路をゴミ収集車が通ってて、走ってサンタクロースが空き缶やゴミを . . . 本文を読む
ソフレとは添い寝フレンドの略である。一線を越えないという事が、見えない決まりの様なものがある。
今の彼氏とは、合コンで知り合い、付き合って二年ほど経つ。お気に入りの喫茶店で、ご飯を食べて、近くにあるシティモールで、洋服店を見て回り、たわいもないない会話をして、モールを出る。
午後9時いつもの様に、「明日会社だから。」と言い、お互い自分の家の方角へと足を向ける。
彼氏に気を使っている訳で . . . 本文を読む
とある高級ホテルの23階。長いカウンターがあり、高級なお酒が綺麗に並べられている。カウンターの中には二人の若いバーテンダーがグラスを拭いている。
その横では、六人のオーケストラのジャズの生演奏が奏でている。静かなモノトーンの音色に酔いしれているお客達。向かい側には、ガラス窓があり、夜色の中に街の光が映し出されていた。
カウンターの席に座っている綾小路寿久。ピンクのシャツに黒のジャケットで、薔 . . . 本文を読む
生温かい南風が通り過ぎた。体育館の側にある咲いている桜が所々揺れている。
今日は卒業式。体育館に集まり、整列をしている卒業生90名、贈りだす在校生73名。
バーコードというあだ名を誰かがつけていた禿げた校長先生の挨拶が終わり、大ちゃんの父親がPTA会長の挨拶をしている。
後ろで膝かっくんをしてきたヨウジが話しかけてきた。
「おい。アヤが見てるぜ。」
「嘘つくなよ。」
「今日卒業式で、 . . . 本文を読む
営業先で、母親から父親が危篤と電話が入り、会社を早退し、近くの駅から電車に飛び乗った。
今日は30年ぶりの雪が降ってて、3センチほど線路の上にも積もっている。
電車の終着駅まで約2時間くらいかと時計を見る。
一時走っていると、キキッーキキッーと電車のブレーキ音が響いた。
「雪の為、急停車いたします。」電車のアナウンスがなり、ガクンと電車が止まった。
「まったく。」隣の学生服を来た男が舌 . . . 本文を読む
浮気ばかりしていた彼氏と別れてやった。電信柱に張ってあるチラシにレンタル彼氏という気になる記事を見つけた。
かっこいい男がたくさん載っている。この中から選んでデートをしてくれるという事だった。ホストとは違うみたいだ。
早速電話した。アナウンサーの様な声の男が受け答えをしている。
次の週の日曜日にタクヤと待ち合わせをした。予約ナンバーワンの男みたいだ。確かに、見た目は26くらいかな。金額は、 . . . 本文を読む
「お電話ありがとうございます。レンタル彼女のノブナガと申します。」アナウンサーの様な話し方の男の声だった。
「チラシを見て電話したんですけど。」
「そうでございますか。早速ですが、チラシを見てもらうと分かると思いますが、どちらを希望ですか?」隣でも電話で答える声がしている。複数の電話がある会社の様だ。チラシに載っている女の子たちを見た。
「ショートカットで黒髪の目がクリッとしたアユミを希望 . . . 本文を読む
97歳の老婆は、点滴を打ち、病院で眠っている。
ピンクのパジャマを着て、皺くちゃの顔と痩せ細った小さな体を見ると眠り姫の様だ。
時々目がパッと明いて、天井をジッと見ている事があるが、その目は、焦点が定まらず、現実なのか、夢なのか、意識が飛んでいるみたいだ。
私たちが声をかけても、ぽかーんとして、何を言っているんだろうという顔をしている。
たまに見せる微笑みが救いだった。
真面目なあ . . . 本文を読む