中野一男は、天然パーマの髪をスプレーの白で塗り潰し、100円ショップで買ったサンタセットの服を着て、帽子を被り、白髭をつけ、眉毛も白のテープを貼って、鏡を見た。
「オッほっほー。私はサンタのおじさんだよ。」ポーズをすると同じように鏡に写り、自嘲気味に笑った。
今日は、イブなので、サンタの格好をして、彼女の家にプレゼントを持っていく事にしていた。真夜中12時に彼女の家の窓から忍び込み、枕元にプ . . . 本文を読む
クリスマスイブ、ケーキ屋の店内は女性客が多く、賑やかで、カウンターの上には、小さなクリスマスツリーが飾られてある。
ラジオからは、BENIが歌う英語バージョンのクリスマスイブが流れている。山下達郎の声も好きだけど、BENIもいいなと思って歌を聴いていると、今から会う彼氏の顔を想像していた。聖なる夜を一緒に過ごすのだ。
並んでいる順番が回ってきて、まつ毛がクリッとした目の大きい愛想のいい店員か . . . 本文を読む
深夜の工事現場。今日はクリスマスイブなので、監督をはじめ、ヘルメットの上に、サンタの赤い帽子を被り、作業着も赤と白で統一している。トナカイの角をヘルメットに着けている者もいる。
交通誘導員も帽子は赤い帽子と長い白髭をつけて、車を誘導させている。誘導棒も赤と緑、グルグルと光っている。
約600メートルの道路は、オレンジや茶色、色とりどりのランプが四方八方で垂れ下がり、北風が吹くとランプを揺らし . . . 本文を読む
30代半の中野一男は、天然の髪を肩まで伸ばし、人から聞かれたら「ドレッドをしている。」と答える様にしていた。
今まで、パーマをあてた事もなく、髪の先がクルクルと回ってて、ドレッドをしているように見えない事もなかった。
雨の日は、ドレッドどころではなく、アフロみたいに髪が爆発して、「キノコ爆弾みたい。」や「昔の井上揚水やつるべぇみたいだね。」等と笑われたりもする。
鏡で髪の毛を見れば、曇りと . . . 本文を読む
小学生の頃。真冬でも半袖、半ズボンで、頭は坊ちゃん刈りで、常に鼻水を垂らしている吉田くんがいた。
強烈なイメージとしては、男女関係なくカンチョウをしていた。両手をピストルのような形でくみ、女の子がスカートでもズボンでもお構いなしにカンチョウをして、「ウホッウホッ。」と笑って喜んでいた。
顔もどことなくゴリラに近いような顔をしていた。
ある時、渡り廊下で、サッカー部のクニオが窓越しに女の子と . . . 本文を読む
家の近くを散歩してて、ふと見上げると秋の空を渡り鳥の群れが旋回している。
昼は温かいが、夕方になるとヒンヤリとした風が吹き抜けている。
そんな時、好きだった人の事を思い出す。あれから、何年経っただろうか。何十年かもしれない。まだ心の奥の方で、むずかゆい恋の気持ちがあった。
仕事をしてても、取引先の社長に怒られていても、駅で電車を待っている時でも、喫茶店でコーヒーを飲んでても、朝新聞読んでい . . . 本文を読む
無精ひげを生やし、ボロボロの服を着たうだつの上がらない男は、土手の川沿いで風景の絵を描いている。
ススキとトンボを描き、橋を後ろに描いている。川も入れるか入れないかどうか考えている。
今日は、日も暗くなったので帰る事にした。
橋を渡ると、目の前に質屋がある。看板は傾き、蜘蛛の巣が窓の外に張り巡らされている。丁度蛾が飛んできて、蜘蛛の巣に引っかかった。その姿を見て、男は社会の縮図だなと感じた . . . 本文を読む
サマーホテル23階の会場で、高校の同窓会があった。30年ぶりに見る顔は、白髪と顔には皺が目立つ同級生が多い。
私は、昔から老けているように見られていたから、今は少しだけ若く見えるのかもしれない。
隣で、ビールを飲んでいるサトルが話しかけてきた。昔は坊主だったが、今は茶髪に染めている長い髪が印象的だ。
「飲んでるか?」
「あぁ、飲んでるよ。」グラスとグラスを重ねた。重ねるときパきっという音 . . . 本文を読む
トモミとスーパーにより、ビールとつまみと御菓子を買った。レジの横で子供が集まっていたので、覗き込むと花火セットが山のように置いてあり、一人の子供が「パパかってよ」と父親に促している。
子供ではないが、自分も花火セットをカゴに入れた。
トモミがなぜか嬉しそうにして、「子供みたいだね。」と呟いた。
大学に通うトモミは、ちょうど長い夏休みに入ったみたいだった。スーパーを出ると生暖かい夜の風が通過 . . . 本文を読む
喫茶店の窓際の席で、何気なく外を見ていた。
ゆっくりと雨が降り出して来た。
新聞紙を頭にかざし、雨をよけようとしているサラリーマン、折りたたみ傘を広げている禿げたおじさん、ハンカチを頭にあてて、雨に濡れないようにしている細い女性が足早に通っている。
まるで、四角い窓が映画のスクリーンのように鮮明に映し出されている。
私がその女性を思い出す時は、決まってこんな雨の夕暮れだった。
静かな . . . 本文を読む
幼い頃の思い出は、大人になった頭の片隅に残っている。
幼稚園の先生に恋をしていたのを思い出した。ブランコで遊んでいた時、ジャンプをして転んでしまった。膝とオデコを擦り剥き、ワンワンと泣き叫んでいたら、水色のエプロンをしたポニーティールの女の先生が手当てをしてくれた。
「また、転んで。」保健室で、絆創膏を貼ってくれた。その後に「痛いの痛いの飛んでけ。」と言っておまじないをしてくれた。先生の笑顔 . . . 本文を読む
車の窓を開けると、暖かい風が横を通り過ぎていく。君に会うのは今日で3回目。待ち合わせはいつも彼女の家の前だ。私が車で迎えに行くのが日課になっていた。
私が、車の中から手を振ると彼女も手を振っている。今日は、チェックの丸い帽子を被り、白の長袖のシャツに紺色の長めのスカートを履いている。肩からショルダーバッグをかけていた。
「待った?」
「そんなに待ってないよ。」
「車に乗りなよ。」
「は . . . 本文を読む
北の方にある小さな町にサンタクロースが働いている所がありました。もうすぐクリスマスとあって、忙しそうです。
「これで、全部か。プレゼントたりるのか。」メガネをかけた細身のサンタAが言いました。三人グループのリーダー的存在です。
「たりると思うわ。」トナカイのソリに荷物をひもでまとめているのが、女性のサンタBです。穏やかな口調で話します。
「ウホッーホッーホッ。」大きな体で、おっちょこちょい . . . 本文を読む
12月になり、慌ただしく車も通り過ぎ、人々が忙しそうに歩いている。一年を振り返り、何かを忘れてるかのような気持ちになり、夜になると街のイルミネーションが煌びやかに点灯しはじめる頃、二人は寄り添うようにティファニーの店内を見ていた。
「わーこのネックレスかわいい。」彼女が様々な品物から一つを指差して、子供の様に嬉しそうにはしゃいだ。
その声を聞いた女の店員が、待ってましたとばかりに駆け寄 . . . 本文を読む
学校をさぼるなんて私らしくない。通学途中で、足が止まった。父親の期待を背負って、近所で有名な進学高校に入ったのはいいが、私より頭が良い友達と話が合わなくなり、うまくいかなくなった。そして、今日は期末テストで、高校2年生では大事なテストだった。昨日は徹夜で、勉強をした。クラスで中間くらいの成績では、いい大学に入れない。がんばって勉強してるが、無理がある。
学校に向かう途中、他の生徒の団体が、教科 . . . 本文を読む