「お電話ありがとうございます。レンタル彼女のノブナガと申します。」アナウンサーの様な話し方の男の声だった。
「チラシを見て電話したんですけど。」
「そうでございますか。早速ですが、チラシを見てもらうと分かると思いますが、どちらを希望ですか?」隣でも電話で答える声がしている。複数の電話がある会社の様だ。チラシに載っている女の子たちを見た。
「ショートカットで黒髪の目がクリッとしたアユミを希望したいのですが。」
「ありがとうございます。御眼が高いですね。ただいまアユミは、レンタルナンバーワンでして、予約が大変混んでまして、二週間ほど待っていただいている状況です。」
「そうなんですか。」肩を落とした。
「ただ、一万円ほどレンタル料をプラスしていただけますと、3日ほどで、何とかなるかと思います。」
「そうなんですか。是非、一万円プラスでアユミをレンタルしたいんですが。」
「分かりました。それでは、基本料金三万五千円+一万円、それに出張料、交通費込めまして、8時間5万円となっております。」
「仕方ないですね。それでお願いします。ただ、一度も女の人と話した事がないんですけど、私でも大丈夫ですか?」
「大丈夫です。引きこもりの人や奥様がいらっしゃる方、そんなお客様は多くいらっしゃいます。アユミの方も十分に接客の方を勉強しているので、大丈夫かと思います。」
「そうなんですか。それを聞いてとても安心しました。」
「今、アユミの方と連絡がつきまして、三日後の午前11時に朝日遊園地の時計台の下にて、待ち合わせというのは、どうでしょうか?」
「もう連絡がついたんですね。それで大丈夫です。」心が躍った。
「アユミのレンタルは、午前11時から午後7時までという事で、お願いします。料金の方は、終わり次第アユミの方に渡してくださいませ。それでは、失礼いたします。本日はありがとうございました。」電話が切れた。引きこもって10年という月日が経ち、彼女がいなのも歳と共に過ぎてしまった。この人生から抜き出せるきっかけになればいいかなと思って電話したのだった。
三日後。朝日遊園地、10時50分。
「はじめまして。正文君ですか?」正文が振り返ると、黒髪のショートカット、目が大きくて、自分より背が小さいアユミがいた。服も質素で、アニメでよく出てくるような感じの可愛らしい女の子で、自分の好みだった。
「そうです。はじめまして。」女の子と話すのは、久しぶりで、ドギマギした。
「今日は、よろしくね。緊張しないで、楽しくしようね。」この受け答えもマニュアルに載っているのだろうか。アユミが、手を出して、握手を促した。
「どうも。」握手をした。
「手冷たーい。私が温めちゃう。」と言って上目づかいで、手を擦った。
「うわっ。」そんな事されたことがないので、正文は戸惑った。それから、腕を組みアユミが「最初、何乗る?」と聞いた。
「遊園地も久しぶりで、緊張する。」
「私がいるから大丈夫ですよ。」正文の腕を引っ張った。
「今日は、私は正文の彼女なんだよ。」
「そうだった。」こんな可愛い彼女が側にいるだけでも楽しい。人生がこんなにも明るいものかと改めて思った。
最初は、メリーゴーランドに乗った。
それから、カーチェイスに乗り、イベントのサーカスを見る事にした。
ピエロが司会をして、空中ブランコが行われている。会場の椅子に座った。
「ピエロ、何だか楽しそう。」アユミが呟いた。
「ピエロって、涙が一筋流れてる意味知ってる?」正文が答えた。
「知らない。」
「それはね。大好きな人から、好きな人の相談を受けて、どうする事も出来なくて、大好きだった人を殺したんだ。それから、好きな人を次から次へと殺して行った。人を殺す事でしか愛を表現できないんだよね。だから、顔に書いてあるのは、心の涙なんだ。」
「哀しい話しだね。分かる気がするけど、怖い話だね。正文って物知り。」
「そういう気持ちって男にしか分からないかもね。」その時、ピエロが、ムチをパチンと鳴らした。像が玉乗りをゆっくりとしている。
「お腹すかない?」アユミが言った。
「少しすいたかも。」
「私、正文の為にお弁当作って来たんだ。」アユミがバックの中から弁当箱を取り出した。
正文が弁当箱を開けた。卵焼きやタコ型のウィンナー、ご飯の上にハート型の海苔でLOVE MASAHUMIと書かれてあった。
「すごい。食べるのがもったいないね。」
「朝五時に起きて、お母さんと作った。」正文が卵焼きを一つ食べた。
「そうなんだ。この卵焼きすごくうまい。」
「本当に。うれしい。」アユミが嬉しそうに笑った。笑う時口元に笑窪が出た。
あっという間に、正文は弁当を食べつくした。
「正文美味しそうに食べるんだね。作ったかいがあったよ。」と言って、正文の口元についているご飯粒を取り、アユミが食べた。これもマニュアルに載っているのだろうか。時々抱きしめたくなる。アユミが本当の彼女だったらいいのになと思った。
「観覧車乗ろう。」今度は正文から言い出した。
「うん。」腕を組む二人は、どこから見てもカップルの様だ。
観覧車に乗り込む。二人だけの時間。何を話したらいいのか分からない。本当の彼女なら、頂上でキスしたりするんだろうかと思っていると、アユミが「隣に座っていい?」と聞いた。
「もちろん。」ドキドキと胸が締め付ける。手が汗で湿っている。アユミが、手をぎゅっと握り正文の肩に顔を預けた。
「男の人って、こういう時って、どうすればいいのかな?」
「うーん。手をぎゅっと握って男らしくしていればいいと思う。」
「そうか。キスとかするのかな。」
「多分。正文もキスしたい?」
「出来れば。」
「ダメだよ。それは本当の彼女にしてあげて。」そうだった。これは、仮想の彼女だったんだ。時々、現実か分からなくなる。きっとこの彼女も仮想なんだろう。
調度一周が終わり、ガタンと観覧車が止まって、降りた。
肩を組み歩いていると、時計台の真下に着いた。時計が午後7時を合図した。
合図と同時に腕を組んでいたアユミが離れて「今日はありがとうございます。料金が五万円になります。」と言った。
「何?」仮想の世界から現実を投げかけられて、戸惑った。やっぱり、これはレンタル彼女だったんだ。彼女は、仕事で接していただけだった。
「そうだった。ありがとう。また、会えたりしないかな?」財布から五万円差し出した。
「ありがとうございます。それでは、またのご利用お待ちしています。」と言って、先ほどの感情があるアユミはいなかった。マニュアル通りの受け答えをして、アユミは去って行った。正文は、後ろ姿を見送る。
「いったいなんなんだ。この喪失感は。」正文は、本当の彼女を心から作りたいと思った。
「うぉーー。」と叫びながら走って遊園地を帰った。
「お電話ありがとうございます。レンタル彼氏のノブナガと申します。」彼氏と別れたばかりの女がチラシを見て電話していた。
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「チラシを見て電話したんですけど。」
「そうでございますか。早速ですが、チラシを見てもらうと分かると思いますが、どちらを希望ですか?」隣でも電話で答える声がしている。複数の電話がある会社の様だ。チラシに載っている女の子たちを見た。
「ショートカットで黒髪の目がクリッとしたアユミを希望したいのですが。」
「ありがとうございます。御眼が高いですね。ただいまアユミは、レンタルナンバーワンでして、予約が大変混んでまして、二週間ほど待っていただいている状況です。」
「そうなんですか。」肩を落とした。
「ただ、一万円ほどレンタル料をプラスしていただけますと、3日ほどで、何とかなるかと思います。」
「そうなんですか。是非、一万円プラスでアユミをレンタルしたいんですが。」
「分かりました。それでは、基本料金三万五千円+一万円、それに出張料、交通費込めまして、8時間5万円となっております。」
「仕方ないですね。それでお願いします。ただ、一度も女の人と話した事がないんですけど、私でも大丈夫ですか?」
「大丈夫です。引きこもりの人や奥様がいらっしゃる方、そんなお客様は多くいらっしゃいます。アユミの方も十分に接客の方を勉強しているので、大丈夫かと思います。」
「そうなんですか。それを聞いてとても安心しました。」
「今、アユミの方と連絡がつきまして、三日後の午前11時に朝日遊園地の時計台の下にて、待ち合わせというのは、どうでしょうか?」
「もう連絡がついたんですね。それで大丈夫です。」心が躍った。
「アユミのレンタルは、午前11時から午後7時までという事で、お願いします。料金の方は、終わり次第アユミの方に渡してくださいませ。それでは、失礼いたします。本日はありがとうございました。」電話が切れた。引きこもって10年という月日が経ち、彼女がいなのも歳と共に過ぎてしまった。この人生から抜き出せるきっかけになればいいかなと思って電話したのだった。
三日後。朝日遊園地、10時50分。
「はじめまして。正文君ですか?」正文が振り返ると、黒髪のショートカット、目が大きくて、自分より背が小さいアユミがいた。服も質素で、アニメでよく出てくるような感じの可愛らしい女の子で、自分の好みだった。
「そうです。はじめまして。」女の子と話すのは、久しぶりで、ドギマギした。
「今日は、よろしくね。緊張しないで、楽しくしようね。」この受け答えもマニュアルに載っているのだろうか。アユミが、手を出して、握手を促した。
「どうも。」握手をした。
「手冷たーい。私が温めちゃう。」と言って上目づかいで、手を擦った。
「うわっ。」そんな事されたことがないので、正文は戸惑った。それから、腕を組みアユミが「最初、何乗る?」と聞いた。
「遊園地も久しぶりで、緊張する。」
「私がいるから大丈夫ですよ。」正文の腕を引っ張った。
「今日は、私は正文の彼女なんだよ。」
「そうだった。」こんな可愛い彼女が側にいるだけでも楽しい。人生がこんなにも明るいものかと改めて思った。
最初は、メリーゴーランドに乗った。
それから、カーチェイスに乗り、イベントのサーカスを見る事にした。
ピエロが司会をして、空中ブランコが行われている。会場の椅子に座った。
「ピエロ、何だか楽しそう。」アユミが呟いた。
「ピエロって、涙が一筋流れてる意味知ってる?」正文が答えた。
「知らない。」
「それはね。大好きな人から、好きな人の相談を受けて、どうする事も出来なくて、大好きだった人を殺したんだ。それから、好きな人を次から次へと殺して行った。人を殺す事でしか愛を表現できないんだよね。だから、顔に書いてあるのは、心の涙なんだ。」
「哀しい話しだね。分かる気がするけど、怖い話だね。正文って物知り。」
「そういう気持ちって男にしか分からないかもね。」その時、ピエロが、ムチをパチンと鳴らした。像が玉乗りをゆっくりとしている。
「お腹すかない?」アユミが言った。
「少しすいたかも。」
「私、正文の為にお弁当作って来たんだ。」アユミがバックの中から弁当箱を取り出した。
正文が弁当箱を開けた。卵焼きやタコ型のウィンナー、ご飯の上にハート型の海苔でLOVE MASAHUMIと書かれてあった。
「すごい。食べるのがもったいないね。」
「朝五時に起きて、お母さんと作った。」正文が卵焼きを一つ食べた。
「そうなんだ。この卵焼きすごくうまい。」
「本当に。うれしい。」アユミが嬉しそうに笑った。笑う時口元に笑窪が出た。
あっという間に、正文は弁当を食べつくした。
「正文美味しそうに食べるんだね。作ったかいがあったよ。」と言って、正文の口元についているご飯粒を取り、アユミが食べた。これもマニュアルに載っているのだろうか。時々抱きしめたくなる。アユミが本当の彼女だったらいいのになと思った。
「観覧車乗ろう。」今度は正文から言い出した。
「うん。」腕を組む二人は、どこから見てもカップルの様だ。
観覧車に乗り込む。二人だけの時間。何を話したらいいのか分からない。本当の彼女なら、頂上でキスしたりするんだろうかと思っていると、アユミが「隣に座っていい?」と聞いた。
「もちろん。」ドキドキと胸が締め付ける。手が汗で湿っている。アユミが、手をぎゅっと握り正文の肩に顔を預けた。
「男の人って、こういう時って、どうすればいいのかな?」
「うーん。手をぎゅっと握って男らしくしていればいいと思う。」
「そうか。キスとかするのかな。」
「多分。正文もキスしたい?」
「出来れば。」
「ダメだよ。それは本当の彼女にしてあげて。」そうだった。これは、仮想の彼女だったんだ。時々、現実か分からなくなる。きっとこの彼女も仮想なんだろう。
調度一周が終わり、ガタンと観覧車が止まって、降りた。
肩を組み歩いていると、時計台の真下に着いた。時計が午後7時を合図した。
合図と同時に腕を組んでいたアユミが離れて「今日はありがとうございます。料金が五万円になります。」と言った。
「何?」仮想の世界から現実を投げかけられて、戸惑った。やっぱり、これはレンタル彼女だったんだ。彼女は、仕事で接していただけだった。
「そうだった。ありがとう。また、会えたりしないかな?」財布から五万円差し出した。
「ありがとうございます。それでは、またのご利用お待ちしています。」と言って、先ほどの感情があるアユミはいなかった。マニュアル通りの受け答えをして、アユミは去って行った。正文は、後ろ姿を見送る。
「いったいなんなんだ。この喪失感は。」正文は、本当の彼女を心から作りたいと思った。
「うぉーー。」と叫びながら走って遊園地を帰った。
「お電話ありがとうございます。レンタル彼氏のノブナガと申します。」彼氏と別れたばかりの女がチラシを見て電話していた。
楽しくて、切なくて…短かい物語なのに、沢山ページをめくった様な気がします!五万は安いです!
私もおもしろいの書くぞ~っと!
ありがとうございます。
五万円って、男からしたら高いかなと思ったんですけど、女の人からすれば、安いんですかね(笑)
nikoさんも楽しくて、切なくて、面白い物語を書いてください。
私の短編小説は、実は裏ワザを使っていますよ~。
多分分かると思うけど(笑)
実は、季節とか周りの描写を多く使っています。
そうすれば、自然とまとまるんですよね。
是非参考にしてください。(笑)