学校がやっと終わり、帰ろうと思って、玄関に立って大粒の雨を見ていた。
目の前には、紫陽花が咲いていて、綺麗だなと見とれていると隣にクラス一の美女が佇んでいた。
私は、密かに片思いをしていた。
水色の制服は、他の女子が着ているとダサく見えるが、彼女が着ていると、まさに校庭に咲く一輪の紫陽花の様だった。
彼女が大きな目を丸くして、空から降っている大粒の雨を見て、「傘がないと帰れないなー。」と . . . 本文を読む
営業の仕事の帰り、駅のホームで、ネクタイを緩め、電車を待っていると、一匹の蛍がやってきた。
近くにいた坊主の少年が、「あっ蛍だ!」と叫んで、手で捕まえようとしている。白線を飛び越えようとしたら、隣にいた母親が「危ないからやめとき。」と少年の腕を叩いた。
周りはすでに暗くなり、長椅子の所に止まり、蛍の光がチカッチカッと輝いている。
私は、一時蛍の光を追いかけるように見ていた。
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傾き剥げた駐車場の看板が取り外された。
昨年の大きな台風が二回きて、お風呂屋の屋根が半分飛ばされて、穴がぽっかりと開いている。
上を見ると、大きな穴から空が見えてる。夜は星が見えて、望遠鏡でもあったらなと、神秘的な感じもするが、雨の日は、最悪で、滝のように風呂の方へと雨が流れ込んでくる。
雨をモップで奥にやるのが来てからの仕事である。
それから、フロントに立っていると、券売機の横に「今月 . . . 本文を読む
毎年毎年なんで、クリスマスイブに、働かなければならないんだ。
しかも一年に一回って、どれだけブラック企業なんだ。
年々太っている髭面のサンタを乗せて、引っ張って行かなくちゃならない。いつも首がもげそうである。
しかもエサが段々経費ケチって、その辺の草になっている。
もうこうなりゃ、ボイコットしてやる。
12月23日サンタが寝始めたころ、トナカイは、荷物をまとめて、机の上に【お世話になり . . . 本文を読む
花火の賑やかさも落ち着き、屋台の人たちも暖簾を下ろしたり、後片付けをしている。
生暖かい風が吹いて、祭りのあとって、いつも切なくなってしまう。
ヨウコを探していると、サトルを見失ってしまった。
それにしても人が多すぎである。
駅の方に歩いていると、浴衣を着ている女の子二人いた。一人は、祭と書いてある団扇を帯にさしている。
後姿がヨウコに似ている。走って前に見に行く。
「おー。ヨウコじ . . . 本文を読む
祭り会場に着いたのはいいが、人が多くて、ヨシオと途中ではぐれてしまった。
先にヨウコを探しているのかもしれない。
【ここから先祭り会場入り口】という看板を通り、中に入ると、当たりくじや焼きそばなど屋台がずらっと並んでいて、プーンとたこ焼きのソースの焦げた匂いがしてきた。
ドーンドーンと海に近い奥の方で、花火が上がっている。
真下で見る花火は、迫力があり、綺麗だった。
ボーと夜空に咲く花 . . . 本文を読む
ヨシオとサトルは、夏休みという事もあり、市民プールに来ていた。
太陽がメラメラと照らす炎天下の中、子供用プールを出たヨシオが「隣に行こうぜ!!」と言って、プールサイドを小走りに走り出した。子供用のプールは、小さいので、飛び込むときすぐ足がついて面白くなかった。
隣に行く時、タイルが熱くなってて、二人とも「アチッアチッ。」と言っている。
先に大人用のプールにヨシオが飛び込むと気持ちよさそうに . . . 本文を読む
私が子供の頃、叔母ちゃん家に泊りに行くことになった。2階建ての大きな家に一人で住んでいた叔母は、快く迎えてくれた。玄関先には、吹き抜けがあり、入り口の所にフランス人形が50体くらいあった。金色の髪、青い大きな目、ドレスを着た人形が、ずらっと並んでいる。一度も結婚することもなく、一人暮らしが長い叔母は、子供もいなくて、その寂しさをフランス人形で補っているようだった。
私が「どうして人形集めるの? . . . 本文を読む
子供の頃、真夏の暑い日、山奥のばぁちゃん家の帰りに父と歩いていると大きな水溜まりというか、川みたいな所がある。
それを見た父が呟くように言った。
「今日は河童はいないなー。」
私は不思議に思って聞き返した。
「この川に河童いるの?」
「昔、よくここで泳いでいたら足を引っ張られて、水の中に河童が二匹いた。」私は本当にいるのかどうか、上から水の中を覗き込んだが、薄汚い水は見えなかった。
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子供の頃、一度だけ天狗を見たことがある。
真夏の暑い日、山の中のじいちゃん家に泊っていた時、夜中の3時頃、無性におしっこがしたくなって、便所が家の外にあった。小屋みたいな所にあって、五右衛門風呂も隣にある。家から出て、便所がある小屋まで、子供の足で歩くと結構な距離である。
やっとついて、眠い目を擦り、おしっこを済ませ、月の光が明るかったので、じいちゃん家の屋根上を見上げると、丸い月を背に赤い . . . 本文を読む
今日も、お風呂のフロントに立っていると、おかしな客が入ってきた。
券売機の前に立ってて、ずっと指と券売機を見ている。
女の人で、歳は40代後半だろうか。黒い長い髪、鼻の所に大きなほくろがある。
物まねタレントのコロッケが真似をするちあきなおみに少し似ている。
30分~1時間たっても、券売機の前から動こうとしない。何をそんなに悩んでいるのだろうか。
「ここのボタン押すんですよね。」女の人 . . . 本文を読む
私が温泉施設のフロントに立っていると色々なお客さんが通っていく。
二階に行く階段があるのだけど、初めての若い大男のお客さんで、お金を財布に入れようとして、下ばかり見ていて、階段の角で、思いっきり頭をぶつけた。
ドォォォンっという音が温泉施設中に響いたので、それは痛かっただろうと思ったが、そのまま暖簾をくぐったところで、早足で、フロントに戻って来て、「ワオッ血が流れてきた。」と頭から血が滝のよ . . . 本文を読む
私がお風呂のフロントに立っていると、ザンバラな白髪で、白雪姫に出てきそうな70歳くらいの魔女が話しかけてきた。
お風呂の入浴券が毒リンゴに見えた。
そのおばさんは、家のドアで中指をザックリ切って、12針縫っていた。
フロントで、ずっと話しかけてくるから、めんどくさい。
「指をお湯につけると、血が出るからつけられない。」といって指を見せる。先週も同じ話を聞いている。
「そうなんですね。気 . . . 本文を読む
8号線の道路に入り込むと、パチンコ屋があり、信号機がある。信号機を右に曲がり、小さな道路を進むと、ローソンがあり、目の前に古びた温泉施設がある。
剥がれた看板は傾き、夜になると電球は、片方しかついていない。大通りから見たら電球が消えているので、お風呂がいつも閉まってると勘違いをされてお客さんから怒られる。
脱衣室では、雨になると滝のように雨漏りがして、清掃スタッフが「バケツ、バケツ。」と呟き . . . 本文を読む
クリスマスイブの日に何でいつもアルバイトをしなければならないのだろう。
きっと、独り身だからいけないのではないのだろうか。
町中を見渡せば、カップルだらけで嫌になる。
ラブホテルもたくさんの人が入ってて、この日ばかりは、ホテルが傾くと例えるほどだ。
店内でも、ラブソングがたくさん流れている。
広瀬香美に山下達郎って、いつの時代の歌だよと思いつつ、浸ることができるのはなぜだろう。
昔 . . . 本文を読む