恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

15.ゴールデンレトリバー

2005年07月21日 | 身近な恋
 私が海沿いを歩いていると、女の人が手を振っていた。初めは、誰に手を振っているのか分からなかった。よく見ると近くにゴールデンレトリバーがいた。大人のレトリバーだ。目がトロンとして、退屈そうに飼い主を見ていた。
 女の人は、ジーパンに白いTシャツを着ていた。髪は後ろで一つに結んでいた。
 犬を置き去りにしようとして冗談で、手を振っているみたいだった。犬も分かっているらしく、退屈そうに前足で顔をかいていた。女の人が「もう」などと独り言を呟いていた。
 私は、犬と女の人のやり取りに夢中で見ていた。海の光でキラキラと輝いていたのだ。太陽は少し沈みかけていた。
 それから、女の人がボールを取り出すと遠くに投げた。犬はハァハァと言ってボールを取りに行く。二、三回目で私の所にボールが飛んできた。
 私は投げ返そうか迷ったが、犬にまかせようとその場所に一回拾って置いた。犬もすぐ走ってきて、じっと私を見た。何者かと思われているような気がした。私をそんなに見つめてもボールは下に置いたよと言った。
 そんなやり取りを犬としていたら、女の人がそばによって来て笑って「すみません」と犬の首をなでていた。ついでにボールも取った。
 「この犬かわいいですね」何を話していいか分からず、適当に話した。
 「この子はお茶目だから」二人の間に犬がフーンとすました顔で見ていた。これが人間の会話なのかと思っているに違いない。
 「この辺よく来るんですか?」
 「毎日来てますよ。あなたもよく来てますね」
 「えっ」私は知らなかったのに相手が知っている事に驚いた。私は、悲しい事やうれしい事があると、この海沿いを歩くのが日課になっていた。
 「見られていたなんて、ちょっと恥ずかしいな」
 「私が見ていたんじゃなくて、この子が見ていたの。いつもあなたの方ばかり見ているからなんだろうなと思って見ていたの。この子好きみたいよ」女の人は犬の頭を撫でていた。
 私は、何と言っていいかわからず、好きなのかと言って頭を撫でた。目を細めて気持ち良さそうにしていた。三十分くらい犬と女の人と遊んだ。遠くから見たら家族だと思われていたのかもしれない。太陽が沈んで少し薄暗くなっていた。犬もボールがどこにあるのか見ずらそうだった。
 「それじゃ」と言って女の人と別れた。犬が寂しそうにクーンと泣いていた。私も女の人と別れたく無かった。犬のように私が泣きたいくらいだった。
 犬と女の人の帰る後ろ姿を見て、また会えたらいいね。と呟いた。
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2 コメント

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夕暮れの海で…きれいに描かれてる (papie)
2005-07-26 09:41:37
キーボーさんの作品って、本当に、情景が鮮明に目の前に浮かび上がるくらいの描写がなされていて、実際に自分がその場にいるような錯覚にとらわれてしまうほどです。犬の気持ちがわかる人はいるけれど、こうやって表現できるのは才能としか言えません。

「犬が寂しそうにクーンと泣いていた」が「鳴いていた」でないのがリアルで効果的です。
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情景って難しいですね。 (キーボーです。)
2005-07-26 19:47:33
 なかなか情景って書くのは難しいです。実際行った事のある情景はありありと思い浮かべる事が出きるのですが、想像ではうまくいかないものです。

 ゴールデンレトリバーがとても好きなのでよかったのかなと思います。将来は絶対飼いたいと思ってます。暖炉のある部屋で…。
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