１４．踊る姉

　私には姉が一人いる。三十三歳で独身だ。いわゆる女で言う負け組というやつだ。
　しかし、姉はとても頭がよく、趣味も豊富だ。
　旅行が趣味で、ニューヨーク、香港、バリ島など海外によく行っている。海外に行っているかと思えば、毎週行きつけのクラブで踊ったりもしている。
　姉は、踊るのが好きなようだ。家で悲しいときやうれしい時はいつも踊っている。
　この前、朝っぱらからマリアカラスのオペラを大音量で聞いていて、踊っていたのには少しビックリした。
　姉の仕事は、弁護士事務所の事務員をしている。
　そこで、この前まで恋をしていた。私が話しかけても何も答えず、悲しい顔をしていた。私が問いかけると検事に恋をしていると言った。姉も恋をするのかと複雑な気持ちになったが、検事ってレベルが違いすぎるだろうと思った。
　その検事さんは、五ヶ国語くらい話せて、お父さんがパイロットでお母さんはスチュワーデスだったらしい。そんな話を聞いて、私の家は自営業で今にもつぶれそうな店なのに、天と地くらいの差だから、無理だとアドバイスをした。
　姉は忠告を聞かず、東京まで検事を追いかけて行ったのだが、携帯もつながらず、しぶしぶ悲しく帰ってきていた。高級ホテルのバーで悲しく一人で、お酒を飲んでいる姿が目に浮かんだ。
　帰って来てから、さすがに踊る気力も無く落ち込んでいた。私も慰めるように話しかけた。女が恋する時ほど、盲目なものはないなと思った。
　三日後、マリアカラスの歌声が家中響いていた。悲しい歌声と共に、また姉が踊っているなと部屋の中で思った。