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世にも不思議な物語。
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一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

16.夏祭り

2005年07月23日 | 夏の物語
 ワッショイ、ワッショイ。威勢のいいかけ声が響いた。今日は一年に一度の夏祭り。
 この日の為に炭坑節の踊る練習を一生懸命していた。不器用だったタケシは振り付けを憶えるのに三ヶ月くらいかかった。町内で一番やんちゃなタケシだったが、隣町のカオルが来るということもあり張り切っていた。
 カオルは、今年高校三年生。ハッピ姿が似合っていて、粋な感じがする。祭りではいつも太鼓を叩いていた。その姿を見て、タケシは、好意を抱くようになった。タケシは、中学三年生だ。文句は人一倍言うのだが、幼い顔をしていた。
 カオルが太鼓を叩くイベントが終わり、いよいよ俺達の炭坑節が始まる。アナウンスの掛け声と共に炭坑節の歌が流れてきた。
 タケシが踊っていると輪の中にカオルが入ってきた。
「たけちゃんうまくなったね」踊りながら、カオルは汗が滝のように流れていた。太鼓を叩くのはそれだけ体力がいることなのだろう。
「あたぼうよ」ちょっと強気で言ってみた。練習をしていたなんて口が裂けても言えなかった。カオルの横顔を見た。キラキラと輝いていた。汗で輝いて見えたのかもしれない。
 そろそろ、歌が終わりかけた頃、カオルの隣に見かけない男の人が来ていた。
 カオルよりは背が高く、眉毛が濃い色黒の男の人だった。近寄って来てタオルを差し出していた。
「遅かったね。何してたの?」カオルは、タオルで顔を拭いて、眉毛をへの字に曲げていた。
「ちょっと車が渋滞してて」男の人は照れ笑いを浮かべていた。
「もう。そんな言い訳ばかりして。私の太鼓見るって言ってたじゃない」
「ごめん。ごめん。」俺は、二人の会話を聞いて、悲しくなった。涙が出そうになったが、ぐっとこらえた。屋台の明かりがボンヤリとしていた。
 夜空を見上げたら大きな月が出ていた。真っ暗な空にポッカリ穴が開いているみたいだった。俺の心にも穴が一つ開いたみたいだった。
 二人とも俺の存在に気付いて、カオルが男の人に紹介していた。俺は嫌になり、逃げるように走ってその場所から出て行った。
 「ちくしょう」くやしくて涙が止まらなかった。
 遠くから、炭坑節の歌のアンコールが流れていた。立ち止まって聞いていると、赤とんぼの群れが水を探して飛んでいた。短い夏が終わるかと思うと、また奥の方から涙が溢れでてきた。
 
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