蝉の声も徐々に衰え始め、冷たい風が朝夕吹いている。その風に誘われ窓の外に吊り下がっている風鈴が居心地いい音を鳴らしていた。
高校に入ってからのヨシコは、見るもの全部違ってグレていた。タバコを吸うようになったし、髪も茶色に染めた。
母親が癌で死んでからというもの荒れてしかたなかった。どうしたものかと頭を叩いてもどうにもならなかった。
私が母親代わりの様に女の人を家に連れて来るのも気に入らない様子だった。この子には母親が必要かなと思って連れて来るのだが、ヨシコの本当の母親はただ一人なのである。その母親には、二度とこの世では逢えないかと思うと寂しくなった。運命というモノをよく考えるが、母親は早すぎる死だった。
ある時、ヨシコと大喧嘩をした。学校の帰りが遅かったので注意したら、何も言わず部屋に行こうとしたので、引き止めたのが気に入らなかったようだ。
その後、私が家を出て行けと言った。ヨシコは、プィとした顔をして「二度と帰るかバカヤロー。」と言って出て行った。
横顔が死んだ母親と似ている事がせめてもの救いだった。
ドアを出て行ったが、私は止めなかった。ヨシコが行く所は大体検討がついている。高校の友人の所か、母親の兄の居酒屋だろう。
「おじさん。今日泊まらせてくれる?」古風な作りの居酒屋は、ラジオからは演歌が流れていた。ヨシコがいきなり入って言うから、おじは目を真ん丸くしていた。
「また、親父さんとケンカでもしたんか。」
「その通り。」
「しょうがねぇな。髪も茶色くなって、美人が台無しだよ。妹がその姿を見たらきっと悲しむよ。」
「そんな事言ったって、あのくそ親父何も分かってくれねぇんだよ。」
「親父さんは親父さんなりに色々考えているんだと思うよ。それが父親というものだ。」話していると店のドアがガラガラと開いて、サラリーマン風の若い男女が入って来た。
おじさんは、「いらっしゃいませ。」と言うとヨシコに二階でゆっくりしていきなよと囁いた。
二階の部屋に入ると、ヒマワリの様な、温かい母親の匂いがする。遠い昔に忘れていた匂いだった。
制服を脱いで、母親が着ていた赤色のパジャマを着た。母親が病室で着ていたものだ。少しサイズが合わなかったが、お気に入りだった。下ではガヤガヤした声が響いていた。
店が終わり、おじが様子を見に来た。
「ちゃんと寝てるようだな。関心関心。」ヨシコは布団の上に寝そべって、雑誌を読んでいた。雑誌を置くと、意味深な顔を浮かべたのでおじが聞いた。
「どうかしたのか。」
「おじさん。お母さんってどんな人だった?」
「そうねぇ。兄の俺が言うのもなんだけど、いい妹だったと思うよ。そういえばヨシコの親父さんと出会ったのも丁度今のヨシコくらいだったかな。」
「えぇ。うそ。」
「本当だ。確か親父さんが大学生で、妹が高校二年生だったかな。妹が変な人がいると俺の居酒屋に来てな。俺が見に行くと、ウジウジした親父さんがいて、妹に一目惚れをして、家までついて来たというんだ。」
「へぇ。あの親父が一目惚れね。」ヨシコはあの親父が人を好きになるという事が意外だった。だけど、結婚しないと私も生まれてはいないだろう。
「恋は盲目とはよくいったもので、しょうがねぇから、一度デートをさせてやったんだ。そのデートもあって、何回か逢ううちに妹の方も好きになっていった。それから、結婚して、ヨシコという愛の結晶が生まれたというわけだ。」話しが終わる頃には、ヨシコはスヤスヤと寝ていた。
今日は疲れたのだろう。寝顔を見てると妹にそっくりで、茶色い髪とルーズソックスを除けたら本当にいい子だった。
妹が生きていたら喜んだろうな。
「ヨシコも恋をして、うんと幸せになるんだよ。」
「お母さん。」ヨシコは涙を流していた。夢でも見ているのだろう。この歳にはやはり母親は必要だった。
ヨシコは、次の日おじと一緒に家に帰ってきた。
私は「お帰り」と言うと、ヨシコも「ごめんなさい。」と素直に謝った。
「いい子だと思うから、怒るなよ。」隣で見ていたおじが言った。私もよく分かっている。ヨシコは母親に似ていい子に間違いはない。今は少し荒れている時期なのだ。おじがヨシコの頭を撫でると、ヨシコは俯いて何も言わず部屋に戻った。
「色々世話になりました。ありがとうございました。」私はお礼を言って、母親の思い出を語り、ヨシコの事も話した。
背戸風に誘われ風鈴がチリンチリンと揺れていた。風鈴の静かな音色が母親の優しい声に聞こえていた。
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高校に入ってからのヨシコは、見るもの全部違ってグレていた。タバコを吸うようになったし、髪も茶色に染めた。
母親が癌で死んでからというもの荒れてしかたなかった。どうしたものかと頭を叩いてもどうにもならなかった。
私が母親代わりの様に女の人を家に連れて来るのも気に入らない様子だった。この子には母親が必要かなと思って連れて来るのだが、ヨシコの本当の母親はただ一人なのである。その母親には、二度とこの世では逢えないかと思うと寂しくなった。運命というモノをよく考えるが、母親は早すぎる死だった。
ある時、ヨシコと大喧嘩をした。学校の帰りが遅かったので注意したら、何も言わず部屋に行こうとしたので、引き止めたのが気に入らなかったようだ。
その後、私が家を出て行けと言った。ヨシコは、プィとした顔をして「二度と帰るかバカヤロー。」と言って出て行った。
横顔が死んだ母親と似ている事がせめてもの救いだった。
ドアを出て行ったが、私は止めなかった。ヨシコが行く所は大体検討がついている。高校の友人の所か、母親の兄の居酒屋だろう。
「おじさん。今日泊まらせてくれる?」古風な作りの居酒屋は、ラジオからは演歌が流れていた。ヨシコがいきなり入って言うから、おじは目を真ん丸くしていた。
「また、親父さんとケンカでもしたんか。」
「その通り。」
「しょうがねぇな。髪も茶色くなって、美人が台無しだよ。妹がその姿を見たらきっと悲しむよ。」
「そんな事言ったって、あのくそ親父何も分かってくれねぇんだよ。」
「親父さんは親父さんなりに色々考えているんだと思うよ。それが父親というものだ。」話していると店のドアがガラガラと開いて、サラリーマン風の若い男女が入って来た。
おじさんは、「いらっしゃいませ。」と言うとヨシコに二階でゆっくりしていきなよと囁いた。
二階の部屋に入ると、ヒマワリの様な、温かい母親の匂いがする。遠い昔に忘れていた匂いだった。
制服を脱いで、母親が着ていた赤色のパジャマを着た。母親が病室で着ていたものだ。少しサイズが合わなかったが、お気に入りだった。下ではガヤガヤした声が響いていた。
店が終わり、おじが様子を見に来た。
「ちゃんと寝てるようだな。関心関心。」ヨシコは布団の上に寝そべって、雑誌を読んでいた。雑誌を置くと、意味深な顔を浮かべたのでおじが聞いた。
「どうかしたのか。」
「おじさん。お母さんってどんな人だった?」
「そうねぇ。兄の俺が言うのもなんだけど、いい妹だったと思うよ。そういえばヨシコの親父さんと出会ったのも丁度今のヨシコくらいだったかな。」
「えぇ。うそ。」
「本当だ。確か親父さんが大学生で、妹が高校二年生だったかな。妹が変な人がいると俺の居酒屋に来てな。俺が見に行くと、ウジウジした親父さんがいて、妹に一目惚れをして、家までついて来たというんだ。」
「へぇ。あの親父が一目惚れね。」ヨシコはあの親父が人を好きになるという事が意外だった。だけど、結婚しないと私も生まれてはいないだろう。
「恋は盲目とはよくいったもので、しょうがねぇから、一度デートをさせてやったんだ。そのデートもあって、何回か逢ううちに妹の方も好きになっていった。それから、結婚して、ヨシコという愛の結晶が生まれたというわけだ。」話しが終わる頃には、ヨシコはスヤスヤと寝ていた。
今日は疲れたのだろう。寝顔を見てると妹にそっくりで、茶色い髪とルーズソックスを除けたら本当にいい子だった。
妹が生きていたら喜んだろうな。
「ヨシコも恋をして、うんと幸せになるんだよ。」
「お母さん。」ヨシコは涙を流していた。夢でも見ているのだろう。この歳にはやはり母親は必要だった。
ヨシコは、次の日おじと一緒に家に帰ってきた。
私は「お帰り」と言うと、ヨシコも「ごめんなさい。」と素直に謝った。
「いい子だと思うから、怒るなよ。」隣で見ていたおじが言った。私もよく分かっている。ヨシコは母親に似ていい子に間違いはない。今は少し荒れている時期なのだ。おじがヨシコの頭を撫でると、ヨシコは俯いて何も言わず部屋に戻った。
「色々世話になりました。ありがとうございました。」私はお礼を言って、母親の思い出を語り、ヨシコの事も話した。
背戸風に誘われ風鈴がチリンチリンと揺れていた。風鈴の静かな音色が母親の優しい声に聞こえていた。
年頃の子供を持っている親は、色々考えて大変だと思います。
私もそろそろそういう歳になって来たかな(笑)
そうですね~。理解すると言う事がお互い大事だと思います。
友達だってそうですよね。
また一つ、しんみりした物語が書けて私もうれしかったです。
表現がすごくうまいですね。場が汲みとれます。
さて、やっぱ難しいですよね。年頃というのもあるのかもしれません。
良かれと思ってすることでも時に傷をつけかねない。でも"理解"の先に導くものがある。
すばらしいw