《本記事のポイント》

  • 「第3の歴史決議」は習氏3期目への布石
  • 毛沢東独裁につながった「第1決議」と否定した「第2決議」
  • 習近平の「個人崇拝」「第二文革」肯定につながる「第3決議」

 

11月8日、中国共産党は第19期6中全会(中国共産党中央委員会全会)を開催した。そして、同11日、同党は「第3の歴史決議」(王滬寧政治局常務委員の発案か)を採択し、閉幕した。

 

従来、政治局常務委員の定年は68歳と定められていた。来秋、習近平総書記は69歳になり、定年退職の予定である。ところが、「第3の歴史決議」によって、習総書記が2022年以降(第3期目)も政権を担当する公算が強まった。今度の決議はその道を切り拓くためのモノに過ぎないのではないか。

 

ただ、来年の第20回党大会まで、あと1年近くある。場合によっては、党内闘争(宮廷クーデター等)の末、「第3の歴史決議」が覆る可能性も排除できない。

 

 

毛沢東独裁につながった「第1決議」と否定した「第2決議」

さてここで、これまでの「歴史決議」を振り返ってみよう。

 

1945年4月、共産党では毛沢東による「第1の歴史決議」が出された。当時はまだ第二次大戦中(日中戦争中)であり、蒋介石率いる中国国民党(以下、国民党)が大陸を統治し、中国共産党はまだ野党に過ぎなかった。

 

「第1の決議」は、その時点での中国共産党内部で起きた路線闘争の総括である。

 

「第1の歴史決議」採択後、まもなく毛沢東は党主席となり、その後、死ぬまで党主席を務めた。一時、毛党主席は、国家主席を兼任する(もともと、中国では党主席の方が国家主席よりも上に位置する)。

 

その後、毛国家主席は「大躍進」運動の失敗で責任を取り、劉少奇に国家主席を譲った。

 

ところが、毛沢東党主席をはじめ「四人組」が劉少奇やトウ小平(トウは、登におおざと)」などの「実権派」の打倒を企て「文化大革命」(以下、「文革」)を発動した。そのため、共産党幹部をはじめ、膨大な数の人々が犠牲になった。

 

1981年6 月に発布された「第2の歴史決議」では、「文革」が否定され、党の「集団指導制」が確立されたのだった(なお、毛沢東への評価は、「功績が第一で、過ちが第二」とした)。

 

 

習近平の「個人崇拝」「第二文革」肯定につながる「第3決議」

だが今度の「第3の歴史決議」は、事実上「第2の歴史決議」の内容を覆すものである。

 

今回の決議は、中国共産党100年の歴史の総括である(1989年の「天安門事件」は「民主化」を求めた学生・民衆らによる「動乱」への"正当な武力鎮圧"とされた)。今回、第18回党大会(2012年~現在)以降の習政権の功績について重く扱われた。それは、「習近平新時代の中国的特徴を持つ社会主義思想」と表現され、習政権の政策を包括的に肯定している。

 

その結果、党の「集団指導制」よりも習近平主席への「個人崇拝」が容認され、習主席が発動した「第二文革」も肯定されている。習政権は「第3の歴史決議」で、今までの「トウ小平路線」を完全に否定したと考えられるだろう。

 

周知の如く、毛沢東は「建国の父」である。外国勢力を中国国内から一掃した"実績"は大きい。また、最高実力者と謳われたトウ小平は「改革・開放」で中国経済を成長させた。現在、中国の発展も、トウ小平の"実績"だと言っても過言ではない。

 

 

中国を自滅に追い込む習政権

では、習近平主席には、毛沢東やトウ小平に匹敵する実績があるのだろうか。強いて挙げるとすれば、王岐山と一緒に敢行した「反腐敗運動」くらいである。ただし、この"恣意的" な「反腐敗運動」は、習主席が政敵を打倒するための手段だった。

 

他方、習近平政権が誕生以来、中国経済は右肩下がりで低迷している。(1)「混合所有制」改革を導入し、(2)「第二文革」を発動し、(3)「戦狼外交」を展開しているからに他ならない。

 

また、近年、習政権はIT関連企業、芸能界、果ては学習塾も叩いている。今更、「共同富裕」を言い出しても、国内では絶望的な貧富の差が生じている。結局、共産党は「第3の歴史決議」を公にし、"自滅への道"を暴走しているのかもしれない。

 

 

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

 

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