アラビアンナイト 三千年の願い/ジョージ・ミラー監督
考古学や神話の研究をしている女性が、イスタンブールで古いガラスの小瓶を買う。ホテルの部屋に入ってその瓶をこすると、中から魔人が出てきて、三つの願いをかなえてやるという。まさに神話の世界の話なのだが、魔人は3000年にも渡る歳月、魔法で閉じ込められる人生を送っており、その時代時代で、さまざまな体験をしてきたという物語を語るのだった。
不思議な体験を映像の世界で体験するという、映画ならではのおとぎ話である。最初から何か不思議な魔力に満ちた者たちが、時折彼女の周りに現れてきており、なにかが起こる予感はしていた。しかし実際に魔人が現れて不思議な話を聞かせてくれると、何やら彼女は落ち着いて物事を考えられるようになり、ちょっと不思議な選択をすることになる。
おとぎ話が現実になると、このように頭のいい専門家の女性はどうするのか。そういう意味では実験的なことかもしれない。物語られる物語にしても、人の運命の不思議は感じられるものの、本当の歴史というよりは、おとぎ話や民話といった趣である。むしろ魔人はそれに振り回されて、瓶の中などに閉じ込められることになってしまうのだ。出してくれたお礼に願い事を叶えてくれるというのだから、ふつうなら富であるとか、具体的な欲望につながるものを願いそうなものだが、やはり願いには裏があるという考えもあるのかもしれない。僕としても見ながらそれを考えていたのだが、永遠の命などは願えないらしいし、いくつも願いを増やすこともできない。厳選して三つというのは、十分なのか少なすぎることなのか、よく分からなくなっていくのだ。それほど実際の人間は欲張りだし、願い事のセンスというようなものがあるのかもしれない。
ほとんどはCGであることはそうなのだろうが、このようなお話というのは、アニメでなければ、以前ならまったく上手く行かなかったことだろう。荒唐無稽でありながら、一定のリアリティのようなものが保たれた上でのファンタジーというのは、現代だからこそもたらされることになった映像美術だろう。昔話が中心だが、現実には極めて現代的なお話にもなっていくのである。三千年も前からガラスの瓶は無かっただろうとは思うけれど、それはそれで、楽しい現代のおとぎ話なのであった。