カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

熊はどこに?   熊は、いない

2024-12-31 | 映画

熊は、いない/ジャファル・パナヒ監督

 イラン政府の圧力があり、国内で自由に撮影ができない監督は、リモートで映画製作の指示を出している。そういう場面はドキュメンタリであるようで、実際の話だが、しかしこれは劇作にもなっていて、その状態で監督は、村のある事件に巻き込まれていくようになる。
 監督は映画を撮るので、滞在しているまちでも、風景などを写真などに収めているようだ。そういう場面を村人はみていて、あるカップルを写真に撮っているのではないか、と言われる。この村には文明開化側の人から見ると奇妙な風習が残っていて、生まれながらに決められた男女の関係を示す、いわゆるいいなずけのような儀式を経た女性とは、将来結婚できるというようなものが残っているらしい。そういう訳で、ちょっと問題のある男には、そのようにして妻を得たい考えがあるのだが、しかし肝心の女性はそれを嫌っているばかりか、村の別の青年と結婚を誓いあっている様子なのだ。困ったことだが、しかしそれは村の風習を壊す可能性のある事でもあって、監督はそんなことには巻き込まれる筋合いはないのだが、いわゆる証人にもなれる立場であるということなのかもしれない。映画の撮影もリモートで忙しいのに、村人の誰彼となくいろんな人がやって来て、写真に撮ったものを見せろとせがまれるのであった。
 奇妙な質感のある映画で、ドキュメンタリとも絡んでいるので、非常に乾いた演出の中、二重三重のトリックがあるようだ。基本的には監督の置かれている村の状況が主なのだが、村人の圧力のある中で、監督はそれなりに抵抗し、苦しむことになる。そういう中にあって、映画は撮り続けられていて、そういうスタッフをまとめる立場にもいる。そうして劇中の人物にも、自分の生活があるのだ。
 西側の目から見て監督の行動は、いわゆる勇気のあるものなのかもしれないが、実際の話、この程度のことで、どうして迫害される立場にいるのか、なんだかよく分からないところがある。そうなのだが、後で情報を見ると、この映画を撮ったせいで、監督は実際に逮捕されて拘束されてしまったのだという。いったいこの映画の何が悪いのかというと、やはりイランの文化を批判しているとか、体制に反発しているということになっているのかもしれない。不条理でも村の風習を守るべきだと、政府は考えているということなのか。そこまでは分かりかねるが、映画を撮るなと言っているのに、やっぱり撮ったりしていることを、とがめているのかもしれない。確かに村人は恐ろしい訳で、そういう恐ろしい村を内包しているイランという国は、信用のできない恐ろしい国だという告発、という側面があるのだろうか。そうであっても西側の僕らはこの映画を受け取って観ることができる訳で、そういうところがなんだか僕を混乱させるのかもしれない。
 ということで、やはり変な映画なのだが、結末も衝撃的で、ちゃんと映画の作りになっている。そういうところは、やはり上手い映画監督ともいえるのかもしれなくて、捕まってしまったのは、そういう意味で残念だと、僕は考えるのである。
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24年を振り返る読書2

2024-12-31 | なんでもランキング

 いわゆる小説でないというざっくばらんなくくりで。

僕はなぜ一生外国語を学ぶのか/ロバート・ファウザー著(CUON)
 体験的な勉強本なのだが、これが身に染みるものがある。日々頑張るというのは、尊いことなのである。

ケンブリッジの卵/下村裕著(慶応義塾大学出版会)
 ケンブリッジ体験記でもあるが、なかなかに凄いことなのだ。僕はこれを読んでから、ゆで卵はつい回してしまうようになってしまった。
 
私の文学漂流/吉村昭著
 著者の半自伝的物語。小説家として生きるというのは、つまりこういう事らしい。


 井上本はどれも面白いが、なるほど日本人というのは、節操もなく集団主義でもない訳だ、と気づかされる。目から鱗である。
日本の醜さについて/井上章一著(幻冬舎新書)
 ということが、建物や町並みから分かるのである。ほんとに。

「集団主義」という錯覚/高野陽太郎著(新曜社)
 そうして先の本で紹介されていたのがこれ。日本は集団主義ではないのである。和をもって貴しとなすってのはつまり、そういうのが苦手だったのだろう。これを読んだらほんとに日本人の行動がバラバラに見えるから面白いのである。


進化のからくり/千葉聡著(講談社ブルーバックス)
 ダーウィンの進化論に魅せられて研究している人々のお話。しかしながらいろんな論戦があって、みんな大変なんである。

歌うカタツムリ/千葉聡著(岩波書店)
 生物進化を考えるにあたって、スター的な存在の生き物がいる。それがカタツムリなのである。それにカタツムリ自体がなんと、人間の文明批評にもなってしまうのだ、すごい。



おろそかにされた死因究明 検証:特養ホーム「あずみの里」業務上過失致死事件/出河雅彦著(同時代社)
 検察とか家族とか、現場を危険にさらす存在の恐ろしさが克明に記録されている。人を落とし込むのも人間だ。結構恐ろしいです。

当事者は嘘をつく/小松原織香著(筑摩書房)
 被害者の立場になってしまった人が、いかに複雑な感情に揺さぶられることになるのか、これを読んで改めて思い知らされた。だからこそ、原因究明も難しいのだ。


母という呪縛 娘という牢獄/齋藤彩著(講談社)
 これは下手なホラー小説を読むより数段恐ろしいかもしれない。母親って、毒親どころじゃない、悪魔である。

少年の名はジルベール/竹宮惠子著(小学館文庫)
 有名な自伝。僕は萩尾望都のファンだが、こういう物語だったのか、とかなり驚いてしまった。和解はむつかしいのだろうな。



ジェンダー格差/牧野百恵著(中公新書)
 様々なところで言われていることなのであるが、実証的に丁寧に理解できる。ヒステリックにやっても、物事は却って進まないのではなかろうか。




 以下の二冊は、人間の行動を促すヒント満載である。でもまあ、うまく行かないのもあるかもしれない。それでも考えて楽しめたらいいとも思う訳で……。
仕掛学/松村真宏著(東洋経済新報社)
 人を動かすデザインがある。面白さがある、って感じかも。

心のゾウを動かす方法/竹林正樹著(扶桑社)
 どういう促しが自分を動かすのか。なんてことも考えることになる。やり方だけではダメなこともあるけど、ダメじゃなくなるかもしれません。
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