カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

死体は故郷のまちへ   アルキアデス・エストラーダの三度目の埋葬

2024-12-30 | 映画

アルキアデス・エストラーダの三度目の埋葬/トミー・リー・ジョーンズ監督

 メキシコとの国境付近では、カウボーイたちが牛を飼っている小さな町がある。そこでメキシコからの移民の男が遺体となって発見される。それがアルキアデスだ。親友だった老人カウボーイは犯人を捜すが、どうも新しく来た国境警備隊の若い男が、誤って撃ち殺したものらしいことが分かる。しかし警察や警備隊たちは、どのみち不法移民だった男の殺人なんて興味が無い。アルキアデスは生前、自分がこの地で死んだら、メキシコの故郷のまちに埋葬して欲しいと語っていたことがあった。老人は犯人の若者を拉致し、遺体とともに国境を越えて、そのメキシコのまちを探しに旅に出るのだったが……。
 不思議な雰囲気のある展開で、なにか殺伐としている。楽しみなんてほとんど無いので、男女間は不倫であふれている。国境警備隊に新しく配属された男は新婚で、妻の方はこの町が面白く感じていない。国境のまちなので、不法移民がひっきりなしにアメリカにやって来る。警備隊は少しピリピリして、これらの任務にあたっている様子だが、まちには既に移民がカウボーイなどの職を得て、ふつうに働いてもいるのである。
 おそらくだが、そういう社会的な背景もあっての、多少は批評めいた解釈も可能な状況を描いてもいるようだ。そのうえ良心や倫理観から、意味もなく殺されてしまった男の意志は、尊重されなければならない。旅先でも不思議な状況はあって、盲目で孤独に暮らしている老人や、死んだ男の過去が、すでに葬り去れたメキシコの現状などもある。彼らがやっていることは、ある意味では茶番だが、しかしそういう風にして何もなかったことにしても良いのだろうか。いや、いいはずが無いじゃないか、ということなのだろう。
 死体をめぐっては、題名の通り何度も掘り起こさなければならない状況になるのが、いわゆるコメディにはなっているのだが、なんとなくそんなものを見せられて、困惑してしまう。殺してしまった犯人は、いわば罰ゲームのように、それらに翻弄される。必死で逃げようともするが、老人は狡猾なところもあって、とても逃げきれるものでは無い。自分のやっていることの意味などよく分からないが、最終的に殺されてしまうかもしれない恐怖におびえながら、従うよりほかに無いのである。それこそが、罪の償いの意味でもある訳だが……。
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24年振り返り。読書編1 小説

2024-12-30 | なんでもランキング


 小説から始めるけど、いつも断っている通り、あんまりというか、かなりタイムリーではない。小説は特に、読みだして止まらないようなら読むし、かなり放ってしまうものが多い。拾い読みには向かないし(読み返すのでなければ)、その時の気分がかなり影響している。

殺人者の健康法/アメリー・ノートン著(文藝春秋)
 かなり偏屈なノーベル賞作家にインタビューする形式の会話もの。ほぼ戯曲である。これが意外な展開を見せて……。

漂流/吉村昭著(新潮文庫)
 無人島に漂流したものが、苦闘の上に生還するお話。本当にすさまじい執念を感じる。

きらきらひかる/江國香織著(新潮文庫)
 ホモとアル中が結婚して、その夫婦生活を綴っている。なんだか今風に、時代の方がこの小説に追いついているのではないか。

台湾漫遊鉄道のふたり/楊双子著(中央公論社)
 グルメものかと思いきや。百合小説と言われるものだった。男の僕が読んでも面白いので、普遍性があるのではなかろうか。確か角田光代が紹介したので読んだが、そうでなければ読まないものだったので、二重に良かった。

街とその不確かな壁/村上春樹著(新潮社)
 買ってはいたが読んで無かったな、と手に取って、久しぶりに村上ワールドにどっぷりつかった感じ。なんとなく、懐かしさも感じた。

楢山節考/深沢七郎著(新潮文庫)
 これは向井万起男さんが日本文学の最高傑作として本書をあげていて、むむむ、と思って本棚を見たらあったので読んでみた。映画やドラマとは、確かに一味違うものだった。寓話だけど。

水死/大江健三郎著(講談社)
 大江作品は読みにくいので嫌いなのだが、最後なのでいいだろう。それに読みにくいけど、慣れはするのである。なるほどなあ、とも思えるし。

ゆがめられた昨日/エド・レイシイ著(ハヤカワミステリ文庫)
 黒人差別のある中、殺人容疑をかけられ逃げながら自分で事件を解決するよりない窮地に陥った男の話。あんがいに面白かったので。

運命/国木田独歩著(岩波文庫)
 古いのだが、必ずしも古くさくはないし、不思議さもあるし、感動もある。一言でいうと、文章が上手いとはこういうものだろう。

怖い話と短い話/結城昌治著(中公文庫)
 嫌な感じが残るものも多いが、ひねりが利いていて面白いのである。
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