秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

空の道標  SA-NE著

2009年09月30日 | Weblog
子供の頃、オンボロ家の窓から見た空は、とても大きかった。
やがて、気が付けば、欅の木々は高く茂り、私の空は、小さくなった。
空が、見えなくなった。

ほんの少しだけ、
見上げる場所を変えれば、果てしなく広がっていく、空があった。
深緑の山々の、稜線に縁どられながら、広がっている、あの頃と同じ空があった。


主人の、一周忌を無事に終わらせた日から、毎日、生きている事が、辛かった。
自分の糧としていた、娘達の成人式、母親を看取る事、そして、主人の生命を、温めながら生きた年月の幕切れ。
「頑張る」意味を無くした時、人間は孤独になる。

優しい言葉をかけてくれる友人、馬鹿を言って、笑い飛ばしてくれた友人、「食べなきゃダメ!」と叱る友人、「声を聞いたら、安心した…」とさりげなく電話をくれた友人、花を届けてくれた友人。
印刷されたような、励ましの言葉は、耳からすぐに抜けていったが…。
主人の存在が、抜けた場所に、溢れる程の優しさを注いで頂いても、そして、娘達との絆が強く存在しても、

私は、孤独だった。
一日を、適当に終わらせ、その積み重ねた月日に、季節というものが、摺り抜けて行った。

孤独とは、仲間の存在など、計りにかけられない程、深い、喪失感から生まれる。

一周忌が過ぎ、二年目の命日の夜、
いつもの時間に、父と母の仏壇に、お線香を上げ、座り込むと、不意に大粒の涙が溢れて、止まらなくなった。
昔、祖父の葬儀の夜、夜行列車で流した涙と、全く同じ涙の味がした。
泣きながら、不意に口にでた言葉が、
「父ちゃん…どうしよう…」

気が付けば、仏壇の傍に置いてあった、大切な箱を開けていた。

祖父からの、手紙。
父と母の巡業のノート、父と初めて唐津に行った時の、数枚の絵葉書。
大泣きしながら、一枚、一枚、見た。
どれ位、泣いただろう。泣き疲れて、暫くすると、心の中に、スーと届いた声を、感じた。
それは、祖父の姿だった。
唇をきっちりと結び、曲がりかけた腰を、伸ばすように、手を後ろに組んだ、祖父の凜とした、姿だった。

「元気バ、出せ!」
一喝した、祖父の声を 聞いた。
それは、遥か空から届いた、一本の道標のようだった。


そして、今日まで、
頑張れた。


三年前、
共に、夫に置き去りにされた友人が、
初めて髪型を変えた。新たな自分探しなどではない。
ただ、今を生きる為に。
ただ、今を繋ぐ為に。

私は、
初めて髪を伸ばした。浮かれた自分探しなどではない。
ただ、今を生きる為に。
ただ、今を繋ぐ為に。
三年前、
父を亡くした少年は、数日して、壁を相手に、キャッチボールをしていた。
昨日まで、お父さんと、投げあっていた。
お父さんは、一言、二言、何かしら息子をからかいながら、
息子のミットの真ん中に、確かなボールを、投げていた。

彼が投げたボールを、受け止める大人は、二度と現れないだろう。彼の時間は、お父さんと別れた、夏の時間、あの強い西日の中で、止まっている。
彼は、これから先、
自分自身に向かって、ボールを投げ続けるんだ。

そして、
いつの日か、大人になった自分自身が、必ず答を出すだろう。
私が、そうで在ったように。


彼岸の秋晴れの空の下
親類が集まった。
幼い子供達の、声が、原っぱにこだました。私と従姉妹の駆けた小道を、新しい命が、駆けて行った。

『昭和』という、悠々と流れた時代に、抱かれて駆けた、この場所で、
やがて空に帰る、その日まで、
私は生きていく。
まっすぐに生きていく。
秘境と言う名の山村からーー。






コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 過去と未来の放物線    ... | トップ | 茅道 »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2009-09-30 20:50:19

何故だかわかりませんが、涙があふれてきてしまいました…。

つらく悲しいとき空を眺めて思いっきり泣いて明日を迎えることがあります。
空っていいですよね
空から大切な人が見守ってくれてるって信じているから…
返信する
Unknown (SAーNE)
2009-09-30 23:28:22
コメント、
ありがとうございます。
悲しい時は、とことん泣き、涙をチカラに変えて、
頑張って下さい。
チカラに変えなければ!
それが出来るのは、人間だけなんですよ♪
返信する
Unknown (松ぼっくり)
2011-06-01 21:42:46
人間は、まんべんであるはづ・・
悪い事があったら、次はいい事がある。
プラスだけの人も、マイナスだけの人も
いるものか・・
人間の一生は、プラスマイナス0・・
ならば、笑っていよう・・涙でいい事寄ってはこない・・
私は、こんな風に考えて生きてきました。
書きたくて、書きたくてたまらなくて、
つい、変なコメントしちゃいまいた。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事