秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

菜菜子の気ままにエッセイ(ヤマガラ文庫のお時間です)

2021年10月13日 | Weblog
前略。
秋の気配を感じつつ、真夏のような日差しを浴びる日々。皆さま、ご機嫌如何お過ごしですか。
古本が入荷したと、テラオの兄さんにチラッと聞き、物色する為に久々のヤマガラ文庫。

いつも開いているドアの前には、消毒用のアルコールを置いている筈もなく、
素手でドアノブを触る勇気もなく(なんちゃって潔癖症)何か手袋の代わりはないか、
草むらを見ると、一枚のフキの葉。そう、蕗。
おおー、有難い。フキをちぎり、手袋代わりにドアノブに巻き、ドアオープン。

なんか、子供時代。みんなで山で遊んでいた時、便意を催した時に、随分フキの葉には助けられた。
フキの葉っぱは身体に優しい。皮膚に優しい。
全てを拭き切ることは出来なかったが、8割は清潔を保て、夕方まで遊ぶことに熱中できた。フキのお陰だった。

話は脱線致しましたが、まるで古本の墓場!みたいに増えておりました。
何故か、不用品?も、増えておりました。
読みたい本に行き着く迄に、何時間かかるんだ!くらいに、本が大量過ぎて、探すのに一苦労。
そうです。ワタシは、なんちゃって潔癖症。素手の指先に埃がついた時点で、イラっとします。

使い捨て手袋をはいていたら、無敵なんですが、素手はどうにもならない。
腫れ物を触る感じで、段ボールの箱を開けます。ピアノを弾く時の指のたて方みたいな(※わたしはピアノも弾けません)
箱の中には、大量の辞書。誰が使っていたの?

こんなに大量の辞書を活用しながら、どんな人生を過ごしていたの?
持っていた人を、勝手に想像してみる。想像しながら、指先についたままの、埃も気になる。
昼間の幽霊の1人か2人、居るんではないかな?みたいな静けさ。
時折、風が吹き抜けて、軽く木の軋む音。

祖谷分校の校舎って、こんなに静かな場所だったんだ。
あの頃は校舎が爆発するのじゃないかみたいな、賑やかさだったのに。
校舎の端から端まで声と足音と、様々な物音に囲まれて、毎日がお祭りみたいだった。

青春時代のビックリ箱に居たみたいな、絵の具のチューブが全部弾けたみたいな、愉快な毎日だった。
ピグミ、セベくん、チュークロ、ショータレ、アダチ、パケラッタ、その他もろもろ。
※教員にみんなでつけたあだ名。

みんな、元気ですか……私は、わたしは、ワタシは、今あの頃の校舎の未来に立ち、
祖谷分校改め、ヤマガラ文庫の廊下で、指先の埃と闘っています!

そして、コロナに疲弊し、故郷を探している祖谷出身者の心に寄り添う為に、
パシッパシッと、静寂の廊下に立ち、写真を撮っております。ハエもおりません。
伝わったかな?この雰囲気。
この静けさ。この匂い。この匂いは、ホコリの匂い。多分……。
で、探していた本を見つけられないまま、再びドアノブをフキで巻いて、
丁寧に閉めて帰った私でございました。

歩いた方向に向かって
足音は 響いてくる
引き返した方向に向かって
足音は 返ってくる
重なりあう音の余韻は 響き
その隙間の響きの狭間に
自分の人生が交差する
響きは 故郷の音
故郷は  終わらない

           草草












































































































菜菜子の気ままにエッセイ(空と時空と愛しき人・)

2021年10月03日 | Weblog
2ヶ月前。
施設の面会禁止が解除された日。おばちゃんに会いに行った。
面会時間は、15分。
今回のお土産は、夏のブラウスと、下着。
『まあ、菜菜美さんよ、悪いのー、顔だけ見せてくれたら、それだけで嬉しいのにー』

おばちゃんに、持参したブラウスを早速あててみる。淡い花柄模様。
「おばちゃん、似合うよ。また、普段着に着てよ」
そう言って、高知の従姉妹にすぐに電話をかけた。
従姉妹には事前に連絡しておいた。面会時間15分。1分たりとも無駄に出来ない。

おばちゃんは、手のひらをスマホに当てて持ち、上手に話す。
『コロナが落ち着いたら、会いに行くけんねー、それまで元気にしとってよー』
従姉妹の声がスピーカー越しに流れてくる。
「うん、まっちょるわ、来ての」
そう頷きながら、おばちゃんは、目を真っ赤にしていた。
隣で私もやっぱり、涙ぐんでいた。

帰り際、おばちゃんが駐車場まで送ってくれた。
駐車場は、施設の正面だ。
『おばちゃん、施設をバックに記念写真撮ろう!前に家の前で撮った時とおんなじじゃなあ。
今日は、施設がバックじゃよ』
そう言って、カメラを向けると、おばちゃんは、
「待てよ、」と言いながら、キッチリと立ち、カメラを見て、微笑む。
やっぱり、良い表情。

『おばちゃん、また、来るね』
「また、来ての、なんちゃあ、持たんと来てのー」
『元気でおってよーまたねー』
軽く手を振り、別れた。


おばちゃんの家には、小さな縁側がある。玄関からは、出入りしない。
いつも、その縁側が、おばちゃんの動線だ。
その縁側に何気なく落ちている、季節ごとに変わるもののカケラで、四季の移ろいが判かった。

お茶の乾いた葉の数枚。小豆の虫食いのカケラ。大根の葉っぱの切れ端。
取ったままで置かれたミョーガ。干し大根のカケラ。
玉ねぎの皮。そして、作業手袋。

縁側の下は乾いた土。おばちゃんの小さな長靴。鎌は縁側の右側の木に掛けてある。
目の前には空を背景に、広がる山々の稜線。四季折々に変わる山の色。生まれたての風の匂い。
今の季節は、茅刈りに勤しんでいた。

終わりかけの百日紅の赤と白。少しだけ冷たい風と、真っ新な青空と、
何処かで鳴いていたヤマガラの高い鳴き声。池に落ちるホースの水の音。
そして弾かれる音。自然の織りなすだけの匂いと音。

固い土に鍬を入れ、何度も何度も土を起こし、ひたすらに暮らして生きた歳月。人間を生きた日々。
自分自身の命を終える場所さえ、選ぶことが出来ない現実。
産まれて生きて逝くだけのことなのに、終焉の自分の人生の神輿を下ろす場所さえ、望めない現実。

おばちゃん、
私は他人に対して、
初めて心から思いました。
『魂を 抱きしめたい』
おばちゃん、
あのね、前から言いたかったんだけどね、私の名前は、
マチコでは、ないのです。
いつも、マチコさんよ、マチコさんよーって呼ばれたけど。
それとね、
おばちゃんが、呼んでいた
「イヌヨー、イヌよー、来たかー、一緒に来たかー」って、
呼んでいた犬の名前はね、ゴンっていう名前だったんだよ。
叔母やん(ヴヴヴ)にも、会えたかな?ネエさんも、きたかえーって、迎えてくれたかな。
おばちゃん、私はもう少しだけ、想い出の番人を続けます。

おばちゃん、
おばちゃんの時間と交差出来た事に感謝します。
一瞬一瞬の時間が煌めく事が出来た事に、感謝します。
ありふれた言葉だけど、ありがとう。

       さようなら
          また いつか。


          合掌