令和元年の師走。
今年も久保山の集落で、お爺さんとお婆さんは 大晦日を迎えようと しています。
お爺さんは 杖を両手について、庭先の若葉を取っておりました。
「じいさんよ、てんごのかわして、転ぶなろよ~」
お婆さんは 台所の土間から 声をかけました。
「オラは転ばんわの、山師は、身がるいんぞっ」
「ジイサンよ、いつの話、しよんぞ!?大昔の話やすなろよ~笑われるぞ~」
お婆さんは ブツブツ言いながら、昼食の片付けをしていました。
「婆さんよ、ヒデオとジョウジは、いつ、戻るんぞ、なんぞ、びんあったんこ?」
「もんてくるってイヨッタワ、けんど、遅うになるってイヨッタワ」
「あれらも、ええ歳になっつろが?ナンボになった?」
「そんつらん、覚えてやないわ、わがの歳も忘れたのに、子の歳や、いちいち覚えてやないわ~」
「婆さんよ、蕎麦は打ったんこ?」
「蕎麦も孫がネットっていうやつで、送ってくれるんじゃと、やんがて着くんじゃあないんかえ~」
その時、一台の軽四が庭先に停まりました。
小さな箱を抱えて、配達人がやって来ました。
「お~郵便の配達しよる、栗本の兄さんかえ~」
お爺さんの声を聞いて、お婆さんもすぐに外に出ました。
厚い雲の中、見え隠れする冬の太陽は、少しずつ山の裏の方向に傾いていきました。
「栗本の兄さんは、さいさい、祖谷のことをテレビにのしてくれて、祖谷のことが見れるって、しもの親戚しが、喜びよったぞ」
お爺さんが顔をほころばせると、
栗本の兄さんは、照れて微笑っておりました。
「変わりないみたいじゃなあ。今日は荷物が来てましてー」
「スマン、スマン、これを婆さんと、まっちょったんじゃわ~」
栗本の兄さんは、小さな機器を取り出して、荷物のラベルに翳していました。
ピッと 機器から音が出ました。
「なんぞしらんけど、それはなんぞの手品かえ~」
お婆さんは、兄さんの手元をじっと見ていました。
「兄さんやが、配達してくれるきん、わしらはこうやって孫からの蕎麦をもらえる。手紙ももらえる。
兄さんの仕事は、誰ぞと誰ぞをつないぞんぞよ、役所のひとやは、こんがな有難いことはしてくれん、これからも頼むぞよ~、
人の役にたつ仕事は、胸張って、続けていけよ~!!」
「爺さんも、まだぼれてないの~ええこと言うたわ!」
栗本の兄さんは、ペコリと頭を下げて、先日修理した軽四で帰って行きました。
そして、夕方
ヒデオとジョウジも無事に家に着きました。
ジョウジは、お婆さんに言いました。
「車の中で、ずっと小難しい話するさかい、耳が疲れた。なんや、令和とか、日本とか、気にくわん、
日本はアメリカに追従じゃ言うて、えらい、熱弁しとったわ。あれのメンドイのは、親父に似たと思うでなあ~」
お婆さんは、荷物のガムテープを上手く取れなくて、カマの先をガムテープの真ん中に、突き刺しながら、聞いておりました。
ヒデオはスマホを持って、ジョウジの側に来ました。ヒデオが、一言 叫びました。
「あ~充電器忘れた~」
それを聞いたお爺さんが 声を張り上げて言いました。
「懐中電灯ならあるぞっ!!」
四人は 互いに 歳をとった現実を 固まったまま、再確認しておりました。
END
菜菜子師走の一句
飲み干した
しあわせの
空のボトルを振ってみる
読者の皆様、
本年もありがとうございました。良いお歳をお迎え下さい。
かしこ