気だるくまどろんだ空気が流れるような風景に久保集落最上が近づいて
家の前の畑が綺麗に耕されてじゃがいもを植えつけているのを見つけると
T老婦は元気で暮らしているのであろうと雲上寺の宮の内和尚は嬉しくなった。
しばらく祖谷を離れて下の人となり、街に埋没していた和尚は鼻の穴を大きく
開けて、嫌というほど懐かしい匂いを吸いながら坂を上がって家の庭に足を
踏み入れた。
庭の石に腰掛けて蓑のなかの薇の綿を除いていたT老婦は人の気配に気づいて
振り向いて目をこらしていたが、何時もの口調で
「ああー誰かと思うたら、雲上寺の和尚さんかや、久しいのう、元気にしよった
か、久しく来んで病気にどもなったんかいなと心配しとった」
「わしもいろいろあってな、しばらく祖谷を離れていたんよ、それでよう来んじゃった、ばあさんも元気でなりよりじゃなあ」
「いいや、和尚さん、わたしゃ今年は悲しい目に会うたわ、こんな悲しいこと
ないわい、和尚さんには云うまいと思うとったが、」
T老婦は涙声になってぽつりと云った、今年1月の10日ごろに大阪で家庭を構えていた
長男が51歳で突然この世を去った顛末をぽつりぽつりと話し始めた。
宮の内和尚は絶句していた、あまりのことに言葉を見失ってしまった
帰郷していた長男に何回となしに和尚は会って話し込んだものだ、決まって
剣山から三嶺、天狗塚を何回も縦走した話が出てきた。
和尚が山歩きが好きなのを知っているので二人して夢中に話したものである
あの元気な彼が、男盛り51歳の若さで逝くとは。
T老婦は張り裂けんばかりの悲しみを堪えて畑を耕してジャガイモを植えつけた
綺麗な畑に悲しみを埋め込むように。
眼前に聳え立つ天狗塚、天狗峠や山々が躁(さわぐ)で鎮魂の舞を舞ったように
想えた。
家の前の畑が綺麗に耕されてじゃがいもを植えつけているのを見つけると
T老婦は元気で暮らしているのであろうと雲上寺の宮の内和尚は嬉しくなった。
しばらく祖谷を離れて下の人となり、街に埋没していた和尚は鼻の穴を大きく
開けて、嫌というほど懐かしい匂いを吸いながら坂を上がって家の庭に足を
踏み入れた。
庭の石に腰掛けて蓑のなかの薇の綿を除いていたT老婦は人の気配に気づいて
振り向いて目をこらしていたが、何時もの口調で
「ああー誰かと思うたら、雲上寺の和尚さんかや、久しいのう、元気にしよった
か、久しく来んで病気にどもなったんかいなと心配しとった」
「わしもいろいろあってな、しばらく祖谷を離れていたんよ、それでよう来んじゃった、ばあさんも元気でなりよりじゃなあ」
「いいや、和尚さん、わたしゃ今年は悲しい目に会うたわ、こんな悲しいこと
ないわい、和尚さんには云うまいと思うとったが、」
T老婦は涙声になってぽつりと云った、今年1月の10日ごろに大阪で家庭を構えていた
長男が51歳で突然この世を去った顛末をぽつりぽつりと話し始めた。
宮の内和尚は絶句していた、あまりのことに言葉を見失ってしまった
帰郷していた長男に何回となしに和尚は会って話し込んだものだ、決まって
剣山から三嶺、天狗塚を何回も縦走した話が出てきた。
和尚が山歩きが好きなのを知っているので二人して夢中に話したものである
あの元気な彼が、男盛り51歳の若さで逝くとは。
T老婦は張り裂けんばかりの悲しみを堪えて畑を耕してジャガイモを植えつけた
綺麗な畑に悲しみを埋め込むように。
眼前に聳え立つ天狗塚、天狗峠や山々が躁(さわぐ)で鎮魂の舞を舞ったように
想えた。
ありがとうございます。
天狗塚、牛の背の稜線も春になりましたね
素晴らしい時間が流れて、楽しいひと時を過ごせる
ことでしょう。
人は年を重ねるごとに雑用が増えることに気が付きましたが、埋没しないように時折は祖谷に帰ってきますね。
ご無沙汰しています。
体調を崩されているのかと心配していました。
久々に更新されたので安心しました・
近頃のろくべえは、大好きな天狗塚・牛ノ背が
眺望できる青い山々を歩いています。
M.iyaさんのブログの中で記述されている「時空…」、
いろいろと考えさせられます。
ろくべえは、ただ過ぎ行く時を大切にしたいです。
あわただしい、人間の日々の営みと並行して、
天狗塚・牛ノ背の稜線にも、もう一つの時間が流れていることを、
いつもココロのどこかで感じていたいです。
ではまた。