秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

菜菜子の気ままにエッセイ   SANE著

2007年09月06日 | Weblog
お茶
太陽が西の方角に、ゆっくりと沈んでいく。山々の稜線は、一本の筆を滑らせたように、静かにその形を浮き上がらせている。傾斜のきつい斜面に建つ農家の周りは、今の季節、日没まで人影が途切れない。草刈り機の音が山々に響きわたる。高齢の方々は、カマを使い家の周りの雑草を刈り取っていく。黙々とひたすらに、刈り取っていく。主人の遺した名言の『冬になったら枯れる』の言葉などは、通用しない。祖谷に生まれ、祖谷に嫁いだ女は、草と結婚したのではないかと、私は確信している。冬の季節を除いては、その季節の大半を草と戦う。主人の贅沢病の証明とも呼べる「別荘」がある。標高800メートル。主人が幼い頃育った場所に古くから残っていた離れを、主人は改築した。もちろん、一人で行動を興す訳がない!いつも、私の仕事が休みの日、もしくは夕方。大工仕事に付き合わされた。トタン切りから始まり、すべての重労働。親バカならぬ、夫バカだった私は、ひたすら主人の贅沢に付き合った。一年一年が、約束されない事を判っていたから、眉間にシワを殖やしながらも、夫バカを続けた。そして完成した別荘。廻りは見事に雑草のオンパレード。茅が波打っていた。一年に三回位、別荘の廻りの草との戦いが始まった。とにかく、面積かひろい。親戚から泊まると連絡を受ければ、予定を変更して、草刈りの作業に充てる。夕方2時間位、草刈り機をひたすら使う。ナイロンの手袋は汗でビショビショになる。蜂も大敵だった。イノシシの掘った穴も、要注意だった。突然、足元をすくわれて、草刈り機を握りながら、ハラハラしたこともある。草刈り機は、長時間使用すると、モーターが回らなくなる。その時が、丁度休憩タイム。今降りて来た草むらを、重い草刈り機を提げて、別荘の方向に上がって行く。ここまで読んで、「あれ???」と思って下さった方々、ありがとうございます。そうです!主人はどこで登場するのか、心配は要りません。主人はここから登場するのです。
汗をタオルで拭いながら、別荘の縁側の方角を見る。翌桧の木の間から、主人が見えた。縁側で座って、何か小さな部品をいじくっている。こんな書き方は、仏様に失礼だ。縁側に座って、高度な機械部品を修理しようと、全身全霊を捧げていた。私が主人に、へとへとの声で、言う。
「父さん、休憩にするわー、お茶飲もう~」主人は、私に気が付き、声を発する。
「おー、休むかー」
私は、汗でくっついた長靴を縁側にひっかけて、無理矢理脱ぐ。冷蔵庫のドアを開け、ついでにヒタイを近付ける。縁側にペットボトルのお茶を運び、グラスを二つ。一気にお茶を注ぐ。喉はカラッカラッ。冷たいお茶を一気に飲む。私は向かいの山に向かい、一声!「あー、生き還った。美味しい!」
主人が隣で、お茶を飲み干す。じっくりと言う。
「おー旨いのーヤッパリお茶が一番じゃー」「ハア???」
主人は、マイペースだった。が、協調性はあった。確かに私の休憩に、見事に寄り添っていた。優しい人?だった。今になって思えば、草刈りに費やした時間は、何だったんだろう?とふと考える。私が「何だったんだろう」と想う時間が、今の祖谷の風景になっている。不思議な感じ。
本日も、終了。夏がゆっくりと秋とハイタッチしていく。蝉の声とコオロギの鳴き声。今は何の季節?取り敢えず、明日も庶民の気持ちに寄り添う為に、仕事に行ってきます。
合掌
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 初秋 | トップ | 初秋 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
楽しみにしてます。 (バーチャル)
2007-09-06 23:17:38
歳ですから今回のように、段落?が入っていますと、とても読みやすくて嬉しいです。
失礼なことを言ってごめんなさい。
返信する
Unknown (M.iya)
2007-09-07 05:55:09
あ ほんとですね、有難うございます
編集する私の怠慢でした。

また気がついた事がありましたら云って下さい。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事