「あーびっくりした。でも、本当にそんな話、実際に経験してる人が居るんですね」
「僕の知り合いにも何人か居るで」
「え、ホントに? じゃあそれで皆、人生上手く行ってるんですか?」
「上手く行ったヤツも居るし、行かんヤツも居る」
「何だ、じゃあ先祖供養が関係あるか分からないじゃないですか」
「そやな・・・僕が知ってるんは、拝み屋に視てもらって先祖供養したっていう話やねんけどな・・・
でも僕が思うに、先祖供養を通じて自分の気構えが変わるっていうか、それまでの生活を見直したり、自分を省みたりするんちゃう?それが人生を好転させることになるんちゃうかなぁ・・・で、上手く行かんヤツは、それが出来てないっていうか、どこまでも他力本願っつうか・・・」
「ふーん。・・・やっぱり自分自身って事じゃないですか」
「はは、まぁなぁ・・・だけど、ご先祖様がおったから今こうして自分らが存在してるのも事実やデ」
「分かってますよ。ボクこう見えても寝る前にはご先祖様にありがとうって言ってから寝てるんですから」
「へーっ」
「でもご先祖って言っても、ひいおじいちゃんの上の人なんか分からないし、それに例えば、もしボクが大木家を継いだとしてもボクのご先祖様って大木家の人たちだけじゃないでしょ。
ボクがこの世に居るのは、父と母がいたからで、その父にも父と母がいて、あ、でも父の本当の父親は誰か知らないけど・・・そして母にも父と母がいて、その父と母にも又それぞれ父と母が居て・・・って、ずーっと続いていくわけですよ。
だからボクは大木家のご先祖様だけがボクのご先祖じゃ無いと思うし、
・・・だから『○○家の墓』っていうのに拘る方がおかしいと思うんです。」
「うん」
「だからホント、青森のお婆さんのいうことが理解できないです。
先ず、墓に入りたいっていうのが理解できない。
死んだら無になるとしたら墓なんて最初から必要ないし、魂があって意識があるんなら逆に絶対あんな中に入りたくないでしょ。」
「いや、何も墓は死んだ人の為だけのものや無いで・・・残された遺族が哀しみを癒す為のものでもあるんやで」
「え、だって、じゃあ青森のお婆さんが死んだとして、そしたら母は悲しみますよ。そしてお葬式には行きますよね。でもこっちに生活があるんだから帰って来ますよね。でもまだ悲しい。だけど青森は遠いからそんなしょっちゅう墓参りには行けないですよ。お墓があるのに行けないって、逆に辛くないですか?
それだったら最初から墓なんか無くて、写真とか形見のモノを何か持って、それをお墓の代わりにした方が良くないですか?
ボクが青森のお婆さんだったら、自分の娘に死んだ後の墓の面倒みてくれとか、そんな我が儘言わないけどなぁ・・・
自分の子供に面倒掛けさせたく無いと思いますけどねぇ・・・
あ、そうだ。思い出した。」
「?」
「ボクの友達で小学生の時に親が離婚した子が居るんです。で、中学になってからどっちも再婚して、・・・あ、その前に、そいつは父親に引き取られたんだけど、2コ下の弟は母親の方に引き取られたんですよ。
そして両方再婚して、暫くして弟の方が交通事故で亡くなったんです。
お葬式には参列させて貰えたらしいけど、墓参りは多分出来ないと思う・・・」
「・・・難しいなぁ・・・」
「それに、お葬式しないと、とか、戒名が無いと成仏出来ないとか、そんな事無いと思う。
だってそしたら身よりの無いホームレスの人が911のテロみたいなのに巻き込まれて亡くなったとしたら、誰もその存在が死んだ事を知らないワケだから当然お葬式もしてもらえないでしょ。そういう人は成仏出来ないんですか?
そういう人は成仏出来ない、なんて言う人が居たら、それは残酷なことだと思いますよ。そんな残酷な事を言える人は情けの無い人ですよ。
それから、戦争で亡くなった人の遺骨がまだ日本に帰えれて無くて成仏出来てないって言うのも、これから宇宙旅行が出来るような時代が来るんですよ。
宇宙空間で事故が起きて宇宙船から放り出されて死んだら、絶対、日本どころか地球にも帰れませんよ。それも成仏出来ないんですか?」
「おいおい、僕にそんな事言われても・・」
「あ、ごめんなさい。可笑しいな? 何をこんな必死になっているんだ?ボクは・・・」
「やれやれ。ホンマやで」
「・・・でもな、どっかで聞いた事があるんやけど、人は自分の思っている死後の世界の通りになるんやって。だから死んだらお墓に入るって思っている人はお墓に入るし、悪いことしたから地獄に堕ちると思っていたら本当に地獄に堕ちるんやて。」
「だから幸太の言うように『何々やったら成仏出来ない』なんていう考え方は捨てた方が良いかもな・・・千の風になると思って死んで、あの世で自由に飛び回る方が楽しそうやん」
「はい。ホントそう思います」
「ところで、幸太のおじいちゃんとおばあちゃんはそういう事、どう考えてはるん?」
「うん、何かおじいちゃんもおじいちゃんの両親とは絶縁してて、実家の墓には入れてもらえないらしくて、自分たちの間には子供も居ないから、自然葬にして墓は残さないって言ってます。
おじいちゃんもおばあちゃんも、それぞれが形見の品と写真を持つからそれでイイんだって」
「何や、さっきの幸太の話はおじいちゃんとおばあちゃんの受け売りか」
「えへへ、そうかも」
「まあな、別に墓に行かんでも思い出すときが偲ぶときやもんな。逆に墓の前で手を合わせてる時より、夜、布団の中で思い出してる時の方が何となく魂が繋がってるような感じするしな」
「何か、今回のことで父さんも色々考えたみたいで、自分はひいじいちゃんの墓は最後まで面倒見るけど、自分が死んだらおじいちゃんとおばあちゃんのように自然葬にするって言ってました。」
「ボクには墓のことで煩わせたくないって。ひいじいちゃんにはあの世で謝るって言ってました」
「・・・・ま、それでもええと思うで」
「夏休みにアルバイトした工場でも、奥さんと子供さんも居るのに派遣で働いてる人が多かったんですけど、派遣だからボーナスも無いし、毎月ギリギリで生活しているのに、お盆だからって数万円の交通費出して田舎に帰るなんて出来ないって言ってる人が多かったです。もう何年も墓参りなんかしてないって言ってました」
「そうなんや・・・ホンマ、あの派遣なんて考えたヤツ誰やろな?世の中ぐちゃぐちゃやで」
「今、不景気で就職するのも大変なんですよ。就職してもその先まで安泰ってわけでも無いし」
「そうやな」
「だから自営がイイかなって思ったんです。・・・ゆうきさんみたいに」
「おいおい、アホな事言いなや。自営かて厳しいもんやで。
楽な方へ、なんて考えてたら痛い目にあうで。
それに彼女の家、酪農農家言うたな。多分、幸太が想像出来んくらい大変な仕事やで。」
「・・・・」
「まぁ、まだ卒業まで2年あるがな。もし留年したらもっと大学生しとらなあかん話や。幸太、ヤバイんちゃうんか~?」
「大丈夫ですよ!・・・ちょっと数学がヤバイけど・・・」
「ははは、結婚なんて寝言言うとらんと、学生は勉強せなアカンでぇ」
「分かってますよお」
・・・・・
・・・・・
「何か、ごめんなぁ・・・役に立てんで・・・。幸太の父ちゃんと母ちゃん、仲直りしたらええな」
「あ、ボクの方こそ。・・・ごめんなさい、こんな話聞いてもらって。でも何かちょっと楽になりました」
「そうか。ならええねんけど。・・・聞くくらいやったら何時でも聞いたるで」
答えは出なかったけど、人に話すと不思議と気持ちって楽になるんだな
相手がゆうきさんだからかな?
この前の家族会議では、母さんも落ち着いたのか離婚する気は無さそうだったし・・・
この先どうなるか、何一つ決まらなかったけど、まぁいいか。
その時が来たら、物事はどうにか動いて行くんだろう・・・
それまでは・・・・
数学マジ勉強しよっと!
おわり
※ゆうきさんへ
ゆうきさんが葬祭についてどのようなお考えの持ち主か分からないままに勝手に台詞を決めましたが、これは作り話なのでご了承くださいねm(_ _)m
「僕の知り合いにも何人か居るで」
「え、ホントに? じゃあそれで皆、人生上手く行ってるんですか?」
「上手く行ったヤツも居るし、行かんヤツも居る」
「何だ、じゃあ先祖供養が関係あるか分からないじゃないですか」
「そやな・・・僕が知ってるんは、拝み屋に視てもらって先祖供養したっていう話やねんけどな・・・
でも僕が思うに、先祖供養を通じて自分の気構えが変わるっていうか、それまでの生活を見直したり、自分を省みたりするんちゃう?それが人生を好転させることになるんちゃうかなぁ・・・で、上手く行かんヤツは、それが出来てないっていうか、どこまでも他力本願っつうか・・・」
「ふーん。・・・やっぱり自分自身って事じゃないですか」
「はは、まぁなぁ・・・だけど、ご先祖様がおったから今こうして自分らが存在してるのも事実やデ」
「分かってますよ。ボクこう見えても寝る前にはご先祖様にありがとうって言ってから寝てるんですから」
「へーっ」
「でもご先祖って言っても、ひいおじいちゃんの上の人なんか分からないし、それに例えば、もしボクが大木家を継いだとしてもボクのご先祖様って大木家の人たちだけじゃないでしょ。
ボクがこの世に居るのは、父と母がいたからで、その父にも父と母がいて、あ、でも父の本当の父親は誰か知らないけど・・・そして母にも父と母がいて、その父と母にも又それぞれ父と母が居て・・・って、ずーっと続いていくわけですよ。
だからボクは大木家のご先祖様だけがボクのご先祖じゃ無いと思うし、
・・・だから『○○家の墓』っていうのに拘る方がおかしいと思うんです。」
「うん」
「だからホント、青森のお婆さんのいうことが理解できないです。
先ず、墓に入りたいっていうのが理解できない。
死んだら無になるとしたら墓なんて最初から必要ないし、魂があって意識があるんなら逆に絶対あんな中に入りたくないでしょ。」
「いや、何も墓は死んだ人の為だけのものや無いで・・・残された遺族が哀しみを癒す為のものでもあるんやで」
「え、だって、じゃあ青森のお婆さんが死んだとして、そしたら母は悲しみますよ。そしてお葬式には行きますよね。でもこっちに生活があるんだから帰って来ますよね。でもまだ悲しい。だけど青森は遠いからそんなしょっちゅう墓参りには行けないですよ。お墓があるのに行けないって、逆に辛くないですか?
それだったら最初から墓なんか無くて、写真とか形見のモノを何か持って、それをお墓の代わりにした方が良くないですか?
ボクが青森のお婆さんだったら、自分の娘に死んだ後の墓の面倒みてくれとか、そんな我が儘言わないけどなぁ・・・
自分の子供に面倒掛けさせたく無いと思いますけどねぇ・・・
あ、そうだ。思い出した。」
「?」
「ボクの友達で小学生の時に親が離婚した子が居るんです。で、中学になってからどっちも再婚して、・・・あ、その前に、そいつは父親に引き取られたんだけど、2コ下の弟は母親の方に引き取られたんですよ。
そして両方再婚して、暫くして弟の方が交通事故で亡くなったんです。
お葬式には参列させて貰えたらしいけど、墓参りは多分出来ないと思う・・・」
「・・・難しいなぁ・・・」
「それに、お葬式しないと、とか、戒名が無いと成仏出来ないとか、そんな事無いと思う。
だってそしたら身よりの無いホームレスの人が911のテロみたいなのに巻き込まれて亡くなったとしたら、誰もその存在が死んだ事を知らないワケだから当然お葬式もしてもらえないでしょ。そういう人は成仏出来ないんですか?
そういう人は成仏出来ない、なんて言う人が居たら、それは残酷なことだと思いますよ。そんな残酷な事を言える人は情けの無い人ですよ。
それから、戦争で亡くなった人の遺骨がまだ日本に帰えれて無くて成仏出来てないって言うのも、これから宇宙旅行が出来るような時代が来るんですよ。
宇宙空間で事故が起きて宇宙船から放り出されて死んだら、絶対、日本どころか地球にも帰れませんよ。それも成仏出来ないんですか?」
「おいおい、僕にそんな事言われても・・」
「あ、ごめんなさい。可笑しいな? 何をこんな必死になっているんだ?ボクは・・・」
「やれやれ。ホンマやで」
「・・・でもな、どっかで聞いた事があるんやけど、人は自分の思っている死後の世界の通りになるんやって。だから死んだらお墓に入るって思っている人はお墓に入るし、悪いことしたから地獄に堕ちると思っていたら本当に地獄に堕ちるんやて。」
「だから幸太の言うように『何々やったら成仏出来ない』なんていう考え方は捨てた方が良いかもな・・・千の風になると思って死んで、あの世で自由に飛び回る方が楽しそうやん」
「はい。ホントそう思います」
「ところで、幸太のおじいちゃんとおばあちゃんはそういう事、どう考えてはるん?」
「うん、何かおじいちゃんもおじいちゃんの両親とは絶縁してて、実家の墓には入れてもらえないらしくて、自分たちの間には子供も居ないから、自然葬にして墓は残さないって言ってます。
おじいちゃんもおばあちゃんも、それぞれが形見の品と写真を持つからそれでイイんだって」
「何や、さっきの幸太の話はおじいちゃんとおばあちゃんの受け売りか」
「えへへ、そうかも」
「まあな、別に墓に行かんでも思い出すときが偲ぶときやもんな。逆に墓の前で手を合わせてる時より、夜、布団の中で思い出してる時の方が何となく魂が繋がってるような感じするしな」
「何か、今回のことで父さんも色々考えたみたいで、自分はひいじいちゃんの墓は最後まで面倒見るけど、自分が死んだらおじいちゃんとおばあちゃんのように自然葬にするって言ってました。」
「ボクには墓のことで煩わせたくないって。ひいじいちゃんにはあの世で謝るって言ってました」
「・・・・ま、それでもええと思うで」
「夏休みにアルバイトした工場でも、奥さんと子供さんも居るのに派遣で働いてる人が多かったんですけど、派遣だからボーナスも無いし、毎月ギリギリで生活しているのに、お盆だからって数万円の交通費出して田舎に帰るなんて出来ないって言ってる人が多かったです。もう何年も墓参りなんかしてないって言ってました」
「そうなんや・・・ホンマ、あの派遣なんて考えたヤツ誰やろな?世の中ぐちゃぐちゃやで」
「今、不景気で就職するのも大変なんですよ。就職してもその先まで安泰ってわけでも無いし」
「そうやな」
「だから自営がイイかなって思ったんです。・・・ゆうきさんみたいに」
「おいおい、アホな事言いなや。自営かて厳しいもんやで。
楽な方へ、なんて考えてたら痛い目にあうで。
それに彼女の家、酪農農家言うたな。多分、幸太が想像出来んくらい大変な仕事やで。」
「・・・・」
「まぁ、まだ卒業まで2年あるがな。もし留年したらもっと大学生しとらなあかん話や。幸太、ヤバイんちゃうんか~?」
「大丈夫ですよ!・・・ちょっと数学がヤバイけど・・・」
「ははは、結婚なんて寝言言うとらんと、学生は勉強せなアカンでぇ」
「分かってますよお」
・・・・・
・・・・・
「何か、ごめんなぁ・・・役に立てんで・・・。幸太の父ちゃんと母ちゃん、仲直りしたらええな」
「あ、ボクの方こそ。・・・ごめんなさい、こんな話聞いてもらって。でも何かちょっと楽になりました」
「そうか。ならええねんけど。・・・聞くくらいやったら何時でも聞いたるで」
答えは出なかったけど、人に話すと不思議と気持ちって楽になるんだな
相手がゆうきさんだからかな?
この前の家族会議では、母さんも落ち着いたのか離婚する気は無さそうだったし・・・
この先どうなるか、何一つ決まらなかったけど、まぁいいか。
その時が来たら、物事はどうにか動いて行くんだろう・・・
それまでは・・・・
数学マジ勉強しよっと!
おわり
※ゆうきさんへ
ゆうきさんが葬祭についてどのようなお考えの持ち主か分からないままに勝手に台詞を決めましたが、これは作り話なのでご了承くださいねm(_ _)m