2024年4月3日(水)
#363 カーティス・ナイト・フィーチャリング・ジミ・ヘンドリックス「Killing Floor」(Dagger)
#363 カーティス・ナイト・フィーチャリング・ジミ・ヘンドリックス「Killing Floor」(Dagger)
カーティス・ナイトと彼のバンド、ザ・スクワイアズのライブ・アルバム「Live at the George’s Club 20」からの一曲。チェスター・バーネット(ハウリン・ウルフ)の作品。2017年リリース。
米国の黒人シンガー、カーティス・ナイトは1929年カンザス州生まれ。60年代にニューヨークのハーレムでバンド活動をして、いくつかのレーベルからシングルをリリースするも、ヒットらしいヒットはないという程度のマイナー・ミュージシャンであった。
そんな彼が一躍世間に注目された時期があった。ジミ・ヘンドリックスが一時的にナイトのバンド・メンバーだったことがあり、バンド脱退後の66年9月にヘンドリックスが渡英して自らのバンドでデビュー、ブレイクを果たしたことで、その名声にあやかってナイトが過去の音源を「ジミ・ヘンドリックスとカーティス・ナイト」という名義で次々とリリースしたのである。
ナイトとの共演以外にも、以前本欄で取り上げたアイズリー・ブラザーズとの共演、あるいはウィルスン・ピケットとの共演などにより、ヘンドリックスの評価は上がりつつあったが、それも所詮はバックバンド・メンバーのひとりとして評価されたに過ぎなかった。
彼は各アーティストのもとでは、自分が本当にやりたい音楽をやっていたとは言えなかった。彼は自らのバンド、ジミ・ヘンドリックス・エクスベリエンスで、初めて本領を発揮したと言える。
67年にナイトはヘンドリックスと共演したアルバムを2枚、大手のキャピトル・レーベルよりリリースした。シングルも「You Don’t Want Me」など3枚がリリースされており、ともに大ヒットというほどではないが、結構話題となった。
しかしその後、ヘンドリックス側はこれらを不当なリリースとして、法廷での係争に発展してしまう。そのあたりの詳細については、本稿の主題ではないので割愛させていただく。
ともかく、エクスペリエンスの大成功のおかげでナイトもそこそこの知名度を得て、ミュージシャンとして活動を継続出来るようになった。後にはヘンドリックスのようにロンドンに移住して、現地でバンド、ゼウスを結成してヨーロッパを巡業した。また、ヘンドリックスの伝記も2冊書いている。
さて、前置きが長くなってしまったが、今日の本題である。「Killing Floor」は紹介するまでもなく、黒人ブルースマン、ハウリン・ウルフの代表曲(64年レコーディング)。黒人白人を問わず、さまざまなアーティストにカバーされている。代表例はウルフの片腕、ヒューバート・サムリン、白人ロック・バンド、エレクトリック・フラッグだろう。そして、レッド・ツェッペリンも「The Lemon Song」に改作してカバーしている。
ジミ・ヘンドリックスは、エクスペリエンスとしてこの曲を67年にモンタレー・ポップ・フェスティバルで披露しているが、実は数年前よりレバートリーとしてよく演奏していたことが、スクワイアズのライブ・バージョンを聴くとよく分かる。
最初にナイトから「ジミー・ジェームズ」というステージネームで紹介されて、ヘンドリックスは自らこの曲を歌い出す。すでにバンド内では「歌えるギタリスト」として、重宝がられていたことが分かる。
その演奏はといえば、オリジナルのハウリン・ウルフ・バージョンにほぼ準拠したもの。お馴染みのヒューバート・サムリンによるギターリフやフレーズを、わりと忠実に再現している。
とことんロックな後のプレイに比べると、現代的なブルースの域を出ていないという気はするものの、その伸びやかな演奏に、後に大きく開花する彼の才能の一端を感じる。
ここで、モンタレーのライブも合わせて聴いていただこう。そこでのヘンドリックスの自由奔放なプレイは、言うまでもなく、「衝撃」のひとことである。今回はサムリンのフレーズをあえてなぞらず、自分流にこのナンバーを再構築したのだなと、筆者は感じる。
そして、彼と同じくらいスゴいのが、ミッチ・ミッチェルのドラミングである。「暴れまくる」という表現が最もふさわしい。最初から最後まで、フルパワーで叩きまくっている。
そう、この稀有なドラマーを得て、初めてジミ・ヘンドリックスがやりたかった音楽、従来のブルースやR&Bを超えた革新的なサウンドが実現したのである。
同じレパートリーをやっても、共演するメンツが変われば、まるで違うサウンドに変わる。ふたつのバージョンの「Killing Floor」は、そのことの明白な証明だろう。
もちろん、駆け出しの時期のジミ・ヘンドリックスにもあまたのギタリストにはない、切れ味とセンスが感じとれる。
そのプレイに、数年後の「ロック革命」の兆しを感じるね。