2024年4月16日(火)
#376 クリス・ファーロウ「Stormy Monday Blues」(Island,Sue)
#376 クリス・ファーロウ「Stormy Monday Blues」(Island,Sue)

クリス・ファーロウ、1966年リリースのシングル・ヒット曲。アーロン・ウォーカー(T-ボーン・ウォーカー)の作品。クリス・ブラックウェルによるプロデュース。
英国のロック・シンガー、クリス・ファーロウ(本名ジョン・ヘンリー・デイトン)は1940年、ノースロンドンのイズリントン生まれの83歳。今も健在である。
50年代半ば、英国ではスキッフルというポピュラー音楽の一大ブームが起こり、無数のスキッフル・バンドが生まれた。
それに触発されてファーロウも、シンガーとして57年にジョン・ヘンリー率いるグループに参加後、翌年にはジョニー・バーンズのカルテット、59年にはさらにギタリストのボブ・テイラーと共にサンダーバーズを結成と、幾つものバンドを渡り歩く。
1962年に初のレコーディング。デッカを皮切りに、コロムビア、イミィディエイト、アイランドやその傘下のスーで数多くのシングル、アルバムをリリースしていく。
中でもローリング・ストーンズの曲のカバーで、ミック・ジャガーが自らプロデュースした66年6月リリースのシングル「Out Of Time」が大ヒット、全英1位を獲得する。これにより、ファーロウは人気シンガーとしての地位を固めたのである。
本日取り上げた「Stormy Monday Blues」は、それに先立って66年1月にスーレーベルよりリリースされたシングル曲だ。これはいうまでもなく、米国のブルースマン、T-ボーン・ウォーカーの代表曲にして、永遠のブルース・スタンダードである「あの」ストマンである。
ウォーカーのオリジナルは1947年リリース。R&Bチャート5位というスマッシュ・ヒットとなり、彼の名を大いに高めた。以降、さまざまなブルース・アーティストによりカバーされたが、白人シンガーによるめぼしいカバーはないまま20年近くが経過したが、異国人のファーロウによりそれがついに実現したのである。
ファーロウの「Stormy Monday Blues」は当初リトル・ジョー・クックという変名で、スーレーベルよりリリースされた。この名前は、いかにもアメリカ人っぽいということで付けられたらしい。アイランドレーベルからは、クリス・ファーロウという本来の芸名でリリースされている。
ヒットとしてはかなり地味ではあったが、大西洋を越えて、この曲の存在は米国にも届く。ラジオでクリス・ファーロウという聞き慣れない名前のシンガーが、お馴染みのブルースナンバーを歌っている、ということでファーロウを黒人シンガーだと思った米国人も少なからずいたようである。
そのことは、ファーロウ自身もインタビューで出演している、マーティン・スコセッシ監督制作のドキュメンタリー映画「Red, White & Blues」で彼の口から語られている。
「私はクリス・ファーロウというシンガーだ」と名乗ったら、初対面の米国人が「それは奇遇だ。私はクリス・ファーロウという黒人シンガーの歌う『ストーミー・マンデー・ブルース』を聴いたことがある」「いや、それは私だ」というような、笑えるやり取りがあったというのだ。
写真を見たことのない米国人が、歌声だけでファーロウのことを黒人と勘違いするぐらい、ファーロウの持つフィーリングは黒人そのものだったということだ。エルヴィス・プレスリーのことを、当初黒人だと思っていたリスナーが多かったというエピソードを思い出させる。
このファーロウのカバー版リリースに大いに触発されたのか、同じく英国人のジョン・メイオールは自身のバンド、ブルースブレイカーズでも、この曲を歌うようになる。エリック・クラプトンのバッキングによるライブ盤をはじめとして、いくつかのレコーディングが残っている。
そしてさらには、メイオールの影響下、米国のオールマン・ブラザーズ・バンドにもカバーされ、フィルモア・ライブでの演奏は名演と呼ばれるようになる。
英米の白人ロック・ミュージシャンたちに、この古いブルース・ナンバーの魅力を知らしめたという意味でも、パイオニア、ファーロウの果たした役割は大きいと言えるだろう。
ファーロウ版「Stormy Monday Blues」は、オルガンをバックに配しており、当時のジャズの流行スタイルを感じさせるアレンジだ。ギターもブルースというより、ややジャズ寄りのスタイル。
対してハスキーな声で力強くシャウトするファーロウには、もろにブルースの肌触りが感じられる。
結局、人種による違いなどなく、ブルースの心さえあれば、白人、異国人にもブルースは歌えるのである。これは、極東のアジア人にとっても、非常に心強い材料である。
クリス・ファーロウはその後、60年近くにわたって第一線で活躍している。コロシアムやアトミック・ルースターといったバンドで優れた作品を数多く残しているが、ごく初期のレコーディングからして、すでに堂々たる世界を持っていたことが、この一曲からもよく分かる。ぜひ、聴いてみてほしい。