2024年4月11日(木)
#371 レッド・ツェッペリン「Sugar Mama」(Swan Song)
#371 レッド・ツェッペリン「Sugar Mama」(Swan Song)
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レッド・ツェッペリン、2015年リリースの「Coda」デラックス・エディションからの一曲。ジミー・ペイジ、ロバート・プラントの作品(実際はトラディショナル・ナンバー)。ジミー・ペイジによるプロデュース。1968年10月録音。
英国のロック・バンド、レッド・ツェッペリンは68年結成、69年のレコード・デビュー以来、世界的人気を博して70年代の覇者となったが、そのZEPがファースト・アルバムのためにレコーディングしたものの、長期間お蔵入りになっていた作品。
デビュー46年後の2015年にしてようやく、実質的なラスト・アルバム「Coda」(1982年リリース)に追加(デラックス・エディションのコンパニオン・ディスク)で収録された。
この記事をご覧になっている皆さまの大多数は、まだ本曲を聴かれたことがないと思うので、さっそく音源を聴いていただこう。
聴いてまず感じるのは「プラントの声、若っ!」だろう。とにかくカン高く、エッジィな歌声。後々悩まされることになる喉の不調など、微塵も感じさせない、史上最強のハイトーン・ボイスである。
ビートはけっこうファンキー。「Coda」で先に収録された、初期ZEPライブのオープニング・ナンバー「We’re Gonna Groove」にも似通った雰囲気の曲調だ。
共に、ファースト・アルバム用にレコーディングされながら、最終的に音盤から外されてしまい、長い日々を経て復活したという点でも似た運命を持っていると言える。
さて、この曲は特定の作曲者を持たない、いわゆるトラッドなのだが、もともとは、どのような形で世に出たのであろうか。
音源として残っている最古のものは、カントリー・ブルースの黒人シンガー、ヤンク・レイチェル(1910年テネシー州生まれ)が1934年にレコーディングした「Sugar Mama Blues」である。
とはいえ曲を有名にしたのは、引き続いて1934年にレコーディングしたブルースマン、タンパ・レッド(1903年ジョージア州生まれ)であろう。
彼はこの曲をシカゴのヴォカリオンレーベルで録音、やはり「Sugar Mama Blues」のタイトルでシングル・リリースしている。この曲にはNo.1と2、ふたつのバージョンがある。
いずれも淡々とギターを弾いて、ゆったりと語るように歌っているが、このレッドの演奏スタイルが、本曲の原初的なかたちであると言えるだろう。激しいZEP版とはえらく対照的で、一聴して同じ曲とは思えない。
その後、サニーボーイ・ウィリアムスン一世(1914年テネシー州生まれ)も、タンパ版No.1の歌詞に基づいて、1937年にレコーディングしている。こちらは彼のハープをフィーチャーして、もう少しリズミカルな仕上がりになっている。ZEP版はこちらに近い。
レッドとサニーボーイ、このふたりに取り上げられたことにより、この曲はブルース・スタンダードになった。
以降、トミー・マクレナン、ハウリン・ウルフ、ジョン・リー・フッカーといった黒人ブルースマンのみならず、60年代以降は白人ロック・ミュージシャンたちにもカバーされるようになった。
その代表例が、フリートウッド・マック、そしてロリー・ギャラガー率いるテイストによる「Sugar Mama」だろう。筆者も10代の頃、これらを聴いて曲の存在を知り、それがもともと黒人ブルースであることを知ったのである。
ZEPも黒人ブルースマンだけでなく、音楽仲間である彼らの演奏も聴いて触発され、この曲をレコーディング用に選んだものと思われるね。
この曲を聴くたびに思うことは、「Sugarとは何を意味するのか?」という疑問だ。元の意味の「砂糖」ではないとしたら、何なのだろう。
よく「No Sugar Tonight」という歌詞をロックの曲では見聞きするが、この場合Sugarとはお金の意味である。Sugar Daddyという表現だと、裕福で若い女性を金で釣る中年男性という意味になる。
またローリング・ストーンズの「Brown Sugar」では黒人女性の秘部だとか、生成前の薬物だとか、ちょっとヤバい意味で使われている。
だが「Sugar Mama」の場合、どうやら、このどれでもなさそうである。とすると?
実は Sugarの他の用法として、Love、Kiss、Hugの代わりに使われるというのがある。愛、もしくは愛の行為といったところか。
そう考えれば、この曲の意味深な歌詞も、おおよそ腑に落ちるだろう。ちなみに、Mamaとは母親とは限らず、妻や恋人など愛する女性のことを呼ぶ際に使うので、そのつもりで聴いてほしい。Sugar Daddyから連想される、援助交際をする中年女性のことではないと思う、たぶん(笑)。
愛する女への狂おしい想いを吐露する、ヒップなナンバー。サウンドのスタイルはブルースとはもはや言い難いが、その本質はまさに、男女間のあれやこれやを歌うブルースそのものだ。幸運にも復活したレア音源を、とことん楽しんでくれ。
英国のロック・バンド、レッド・ツェッペリンは68年結成、69年のレコード・デビュー以来、世界的人気を博して70年代の覇者となったが、そのZEPがファースト・アルバムのためにレコーディングしたものの、長期間お蔵入りになっていた作品。
デビュー46年後の2015年にしてようやく、実質的なラスト・アルバム「Coda」(1982年リリース)に追加(デラックス・エディションのコンパニオン・ディスク)で収録された。
この記事をご覧になっている皆さまの大多数は、まだ本曲を聴かれたことがないと思うので、さっそく音源を聴いていただこう。
聴いてまず感じるのは「プラントの声、若っ!」だろう。とにかくカン高く、エッジィな歌声。後々悩まされることになる喉の不調など、微塵も感じさせない、史上最強のハイトーン・ボイスである。
ビートはけっこうファンキー。「Coda」で先に収録された、初期ZEPライブのオープニング・ナンバー「We’re Gonna Groove」にも似通った雰囲気の曲調だ。
共に、ファースト・アルバム用にレコーディングされながら、最終的に音盤から外されてしまい、長い日々を経て復活したという点でも似た運命を持っていると言える。
さて、この曲は特定の作曲者を持たない、いわゆるトラッドなのだが、もともとは、どのような形で世に出たのであろうか。
音源として残っている最古のものは、カントリー・ブルースの黒人シンガー、ヤンク・レイチェル(1910年テネシー州生まれ)が1934年にレコーディングした「Sugar Mama Blues」である。
とはいえ曲を有名にしたのは、引き続いて1934年にレコーディングしたブルースマン、タンパ・レッド(1903年ジョージア州生まれ)であろう。
彼はこの曲をシカゴのヴォカリオンレーベルで録音、やはり「Sugar Mama Blues」のタイトルでシングル・リリースしている。この曲にはNo.1と2、ふたつのバージョンがある。
いずれも淡々とギターを弾いて、ゆったりと語るように歌っているが、このレッドの演奏スタイルが、本曲の原初的なかたちであると言えるだろう。激しいZEP版とはえらく対照的で、一聴して同じ曲とは思えない。
その後、サニーボーイ・ウィリアムスン一世(1914年テネシー州生まれ)も、タンパ版No.1の歌詞に基づいて、1937年にレコーディングしている。こちらは彼のハープをフィーチャーして、もう少しリズミカルな仕上がりになっている。ZEP版はこちらに近い。
レッドとサニーボーイ、このふたりに取り上げられたことにより、この曲はブルース・スタンダードになった。
以降、トミー・マクレナン、ハウリン・ウルフ、ジョン・リー・フッカーといった黒人ブルースマンのみならず、60年代以降は白人ロック・ミュージシャンたちにもカバーされるようになった。
その代表例が、フリートウッド・マック、そしてロリー・ギャラガー率いるテイストによる「Sugar Mama」だろう。筆者も10代の頃、これらを聴いて曲の存在を知り、それがもともと黒人ブルースであることを知ったのである。
ZEPも黒人ブルースマンだけでなく、音楽仲間である彼らの演奏も聴いて触発され、この曲をレコーディング用に選んだものと思われるね。
この曲を聴くたびに思うことは、「Sugarとは何を意味するのか?」という疑問だ。元の意味の「砂糖」ではないとしたら、何なのだろう。
よく「No Sugar Tonight」という歌詞をロックの曲では見聞きするが、この場合Sugarとはお金の意味である。Sugar Daddyという表現だと、裕福で若い女性を金で釣る中年男性という意味になる。
またローリング・ストーンズの「Brown Sugar」では黒人女性の秘部だとか、生成前の薬物だとか、ちょっとヤバい意味で使われている。
だが「Sugar Mama」の場合、どうやら、このどれでもなさそうである。とすると?
実は Sugarの他の用法として、Love、Kiss、Hugの代わりに使われるというのがある。愛、もしくは愛の行為といったところか。
そう考えれば、この曲の意味深な歌詞も、おおよそ腑に落ちるだろう。ちなみに、Mamaとは母親とは限らず、妻や恋人など愛する女性のことを呼ぶ際に使うので、そのつもりで聴いてほしい。Sugar Daddyから連想される、援助交際をする中年女性のことではないと思う、たぶん(笑)。
愛する女への狂おしい想いを吐露する、ヒップなナンバー。サウンドのスタイルはブルースとはもはや言い難いが、その本質はまさに、男女間のあれやこれやを歌うブルースそのものだ。幸運にも復活したレア音源を、とことん楽しんでくれ。