2024年4月15日(月)
#375 ガイ・キング「It’s About the Dollar Bill」(Delmark)
#375 ガイ・キング「It’s About the Dollar Bill」(Delmark)
ガイ・キング、2016年リリースのアルバム「Truth」からの一曲。ジョニー・ギター・ワトスンの作品。キング自身によるプロデュース。
米国で活躍する白人ブルースギタリスト/シンガー、ガイ・キングは、1977年イスラエル生まれ。今年47歳になる。ブルース界において、今後が期待される気鋭のアーティストのひとりだ。
7歳でクラリネットを始め、クラシックを演奏していたが、13歳でギターに興味を持ち弾き始める。そしてこちらが彼のメイン楽器となる。
16歳でイスラエルのシンガーのバッキングで渡米する。祖国の3年間の兵役を経て、米国のメンフィスへ移住。その後、ニューオリンズを経て、シカゴと移り住み活動の拠点とする。
シカゴのブルースシンガー、ウィリー・ケント(1936年生まれ)のバックを6年間つとめる。2006年にケントが亡くなった後、ソロ活動に入る。
2009年以降、アルバムを3枚リリースした後、2015年デルマークレーベルと契約、世間にも注目されるようになる。
同レーベルで現在までに出したアルバムは2枚。2016年の「Truth」、21年の「Joy Is Coming」だ。
本日取り上げた一曲は、「Truth」中では数少ない、他のアーティストのカバー・ナンバー。1935年生まれで1996年にこの世を去っているジョニー・ギター・ワトスンの作品である。
ワトスンについては「一枚」「一曲」の両方で2回ずつ取り上げたので、詳しい紹介はあえてしないが、1950年代以降、ブルースに限らずファンク、ヒップホップ(の原型)などさまざまなスタイルの音楽を生み出し続けた天才である。ホーン以外のほとんどの楽器をこなした、マルチミュージシャンのはしりでもある。
そのワトスンが70年代、DJMレーベルからリリースした一連のアルバムのひとつに77年リリースの「Funk Beyond the Call of Duty」という、ひときわヒップな一枚がある。
白スーツでサファリ帽を被り、ギブソン・エクスプローラーを携えて、黒人のハイレグ美女と並んで撮ったジャケ写がまことに印象的なアルバム。筆者が大学に入ったばかりの頃にこれを見て、「うわ、なにこのヤバカッコいい(筆者の造語)ロイクのおっちゃん」と感嘆したのを覚えている。
イキでヤクザなワトスンの作る音楽は、その容姿同様、ひたすらヒップでクールだった。
言ってみれば、ワンアンドオンリー。誰にも真似の出来るものではなく、実際ワトスンの死後も、彼のスタイル(ルックスと音楽、両方の意味で)をフォローした(出来た)黒人ミュージシャンはいなかった。
そんな彼を、42歳も年下、しかも白人のミュージシャンが21世紀にカバーするとは、誰も想像出来なかったと思う。事実、筆者が初めてキングのカバー・バージョンを聴いた時は、一瞬耳を疑ったものだ。
オリジナルはブルースとはおよそいいがたい、歌詞の皮肉がなかなか効いている、ファンク・チューン。これを、原曲にほぼ忠実なアレンジで再現しているのには、二度たまげた。中間のギター・ソロも、ワトスンのあの少しジャズ・ギターっぽい「ペナペナ感」をうまく出している。
これは、他人のスタイルを自分流に変えてしまうことなく、きちんと元のスタイルで再現出来るぐらいテクニックがないと出来ないワザである。
キングのライブ映像をいろいろ観ていると、アルバート・キング、レイ・チャールズ、ジュニア・パーカーといった、わりと正統派のブルース、R&B路線のカバーが多いが、そのギターもわりあい元のスタイルを崩さずに弾いていることが多い。要するに、キングはとても器用な人なのだ。
裏を返せば、そのミュージシャン本人にしか出せない、強い臭みみたいなものは希薄とも言える。特にボーカルには、そのことが言えそうだ。軽めで、いかにも白人っぽい歌い方なのだ。
ワトスンの歌声の持つ「いかがわしくもカッコいい」雰囲気は6割くらいしか出せていないのが、このカバーの限界である。
でも、演奏に絞って言えば、なかなかヒップでいい感じだ。こちらは90点差し上げてもいい。
オリジナルも合わせて聴いて、それぞれの魅力の違いを確かめて欲しい。
ブルース界の「王=キング」といえば、BB、アルバート、フレディの三大キングを初めてとして、大勢いるが、すべて黒人である。白人として、初めて王位を取れる可能性があるとすれば、実力派のこのガイ・キングだろう。
ギターの実力はすでに十分。後は、歌のこれからの成長ぶりにかかっている。
ブルースマンにおいては、40代まではリハーサル、50代からが本番だとよく言われる。今年47歳になるガイ・キングにとって、今後が正念場なのは間違いない。
米国で活躍する白人ブルースギタリスト/シンガー、ガイ・キングは、1977年イスラエル生まれ。今年47歳になる。ブルース界において、今後が期待される気鋭のアーティストのひとりだ。
7歳でクラリネットを始め、クラシックを演奏していたが、13歳でギターに興味を持ち弾き始める。そしてこちらが彼のメイン楽器となる。
16歳でイスラエルのシンガーのバッキングで渡米する。祖国の3年間の兵役を経て、米国のメンフィスへ移住。その後、ニューオリンズを経て、シカゴと移り住み活動の拠点とする。
シカゴのブルースシンガー、ウィリー・ケント(1936年生まれ)のバックを6年間つとめる。2006年にケントが亡くなった後、ソロ活動に入る。
2009年以降、アルバムを3枚リリースした後、2015年デルマークレーベルと契約、世間にも注目されるようになる。
同レーベルで現在までに出したアルバムは2枚。2016年の「Truth」、21年の「Joy Is Coming」だ。
本日取り上げた一曲は、「Truth」中では数少ない、他のアーティストのカバー・ナンバー。1935年生まれで1996年にこの世を去っているジョニー・ギター・ワトスンの作品である。
ワトスンについては「一枚」「一曲」の両方で2回ずつ取り上げたので、詳しい紹介はあえてしないが、1950年代以降、ブルースに限らずファンク、ヒップホップ(の原型)などさまざまなスタイルの音楽を生み出し続けた天才である。ホーン以外のほとんどの楽器をこなした、マルチミュージシャンのはしりでもある。
そのワトスンが70年代、DJMレーベルからリリースした一連のアルバムのひとつに77年リリースの「Funk Beyond the Call of Duty」という、ひときわヒップな一枚がある。
白スーツでサファリ帽を被り、ギブソン・エクスプローラーを携えて、黒人のハイレグ美女と並んで撮ったジャケ写がまことに印象的なアルバム。筆者が大学に入ったばかりの頃にこれを見て、「うわ、なにこのヤバカッコいい(筆者の造語)ロイクのおっちゃん」と感嘆したのを覚えている。
イキでヤクザなワトスンの作る音楽は、その容姿同様、ひたすらヒップでクールだった。
言ってみれば、ワンアンドオンリー。誰にも真似の出来るものではなく、実際ワトスンの死後も、彼のスタイル(ルックスと音楽、両方の意味で)をフォローした(出来た)黒人ミュージシャンはいなかった。
そんな彼を、42歳も年下、しかも白人のミュージシャンが21世紀にカバーするとは、誰も想像出来なかったと思う。事実、筆者が初めてキングのカバー・バージョンを聴いた時は、一瞬耳を疑ったものだ。
オリジナルはブルースとはおよそいいがたい、歌詞の皮肉がなかなか効いている、ファンク・チューン。これを、原曲にほぼ忠実なアレンジで再現しているのには、二度たまげた。中間のギター・ソロも、ワトスンのあの少しジャズ・ギターっぽい「ペナペナ感」をうまく出している。
これは、他人のスタイルを自分流に変えてしまうことなく、きちんと元のスタイルで再現出来るぐらいテクニックがないと出来ないワザである。
キングのライブ映像をいろいろ観ていると、アルバート・キング、レイ・チャールズ、ジュニア・パーカーといった、わりと正統派のブルース、R&B路線のカバーが多いが、そのギターもわりあい元のスタイルを崩さずに弾いていることが多い。要するに、キングはとても器用な人なのだ。
裏を返せば、そのミュージシャン本人にしか出せない、強い臭みみたいなものは希薄とも言える。特にボーカルには、そのことが言えそうだ。軽めで、いかにも白人っぽい歌い方なのだ。
ワトスンの歌声の持つ「いかがわしくもカッコいい」雰囲気は6割くらいしか出せていないのが、このカバーの限界である。
でも、演奏に絞って言えば、なかなかヒップでいい感じだ。こちらは90点差し上げてもいい。
オリジナルも合わせて聴いて、それぞれの魅力の違いを確かめて欲しい。
ブルース界の「王=キング」といえば、BB、アルバート、フレディの三大キングを初めてとして、大勢いるが、すべて黒人である。白人として、初めて王位を取れる可能性があるとすれば、実力派のこのガイ・キングだろう。
ギターの実力はすでに十分。後は、歌のこれからの成長ぶりにかかっている。
ブルースマンにおいては、40代まではリハーサル、50代からが本番だとよく言われる。今年47歳になるガイ・キングにとって、今後が正念場なのは間違いない。