2024年4月10日(水)
#370 キング・カーティス「Memphis Soul Stew」(Atco)
#370 キング・カーティス「Memphis Soul Stew」(Atco)
キング・カーティス、1967年リリースのシングル・ヒット曲。彼自身の作品。トミー・コグビルによるプロデュース。
米国の黒人サックス・プレイヤー、キング・カーティスことカーティス・オウズリー(本名・モンゴメリー)は1934年テキサス州フォートワース生まれ。10歳の頃、ルイ・ジョーダンに影響を受けてサックスを吹き始める。メインはテナーだが、アルト、ソプラノ・サックスもこなした。
10代後半でニューヨークに出て、スタジオ・ミュージシャンとして数多くのレコーディングに参加し、特にコーラスグループ、コースターズのバッキングで注目される。彼らの58年の大ヒット「Yakety Yak」でのサックス演奏は、カーティスによるものである。
バディ・ホリーやアンディ・ウィリアムズのバックでも演奏する一方で、ウィントン・ケリーらモダンジャズのミュージシャンとも共演している。そのくらい、彼の音楽性は非常に幅広く、譜面にも強かったのである。
59年よりソロ活動を開始、自らのバンドを率いて62年に「Soul Twist」を大ヒットさせる(全米17位、R&Bチャート1位)。64年には「Soul Serenade」もヒット(全米51位、R&Bチャート20位)、インストゥルメンタル・ソウルでの王者となる。
65年に大手アトランティックレーベルと契約、本日取り上げた「Memphis Soul Stew」をはじめとして「Ode to Billy Joe」などのシングル・ヒットを出す。そのかたわら、アルバート・キング、アレサ・フランクリンといったアトランティック所属アーティストたちのバッキング、アレンジ、プロデュースといったかたちでも、レーベルの隆盛に大いに貢献した。
さて、「Memphis Soul Stew」は全米33位、R&Bチャート6位を獲得したスマッシュ・ヒットだ。シングルはキング・カーティス単独の名義であったが、収録されたアルバム「King Size Soul」(67年リリース)では、キング・カーティス&ザ・キングピンズとクレジットされるようになった。
このキングピンズが、のちに伝説的な存在となる。カーティスは71年3月、サンフランシスコのフィルモア・ウェストに出演する。自身とそのバンド、キングピンズによるオープニング・アクト、そして人気絶頂のシンガー、アレサ・フランクリンのバッキングの両方で。
これらがそれぞれライブアルバムとなり、ヒット。キングピンズの評価を大いに高める結果となった。
当時のバンドメンバーは、ギターのコーネル・デュプリー、ベースのジェリー(ジェローム)・ジェモット、キーボードのトゥルーマン・トーマス、パーカッションのパンチョ・モラレス、そしてドラムスのバーナード・パーディ。
ライブアルバムとは少しだけ時期がズレるが、彼らがモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演した時の映像も、ご覧いただこう。
「Memphis Soul Stew」はインスト・ナンバーだが、カーティスによる語りから入るのが特徴だ。各楽器を、シチューに入っている野菜になぞらえて、ひとつずつ紹介していく。これが、バンドメンバーの紹介にもなっていて、なかなかうまい演出だと思う。
全員の紹介が終わったところでテーマに入る。カーティスが激しくブローし、バンドもそれを熱く盛り立てる。
カーティスのトーンには、際立った特徴がある。ちょっと下世話だが、気持ちをアゲアゲにしてくれる音だ。
70年代に入り、ジョン・レノンのアルバム「Imagine」(71年リリース)のバックで2曲吹くなど、いよいよ活躍が期待されていたカーティスだったが、悲劇がある日、突然に訪れてしまう。
71年8月、カーティスは自宅前で麻薬中毒者とケンカになり、ナイフで刺されて、この世を去ってしまう。
フィルモアのライブアルバムが、実質的な遺作となってしまい、キング・カーティスの音楽はそこで永久に途絶えることとなる。
しかし、偉大なる才能のDNAは、しっかりと残ることになった。キングピンズ残党の、その後の目覚ましい活躍というかたちで。
たとえば、デュプリーはスタッフという大型フュージョン・バンドの双頭ギタリストのひとりとして、ジェモットはあまたのR&B、ソウル、ブルースのアーティストのバックミュージシャンとして、パーディはそれにロックも加えたジャンルで数多くバックをつとめたほか、自身のリーダーアルバムも多数出している。
キング・カーティスが見出したミュージシャンに、ハズレなし。
そう我々に痛感させるほど、キングピンズの元メンバーたちの活躍は、素晴らしい。
猛スピードで、37歳の短い人生を駆け抜けていってしまった男、キング・カーティス。彼のドライブ感あふれるブローに、熱いソウルを感じ取ってくれ。