Marcusは<戒律が高い><確かな><腰が低い><苦い>を意味する名前である。 Marcusは<重い鎚>を意味するmarcoから由来している。(「黄金伝説」ヤコブス・デ・ウォラギネ)
その方が来られるということは先祖代々言われて来たことなのだということを聴いたのは僕がものごころ付いた時からだったろうか。夏の朝まだ涼しいとき、そして夕の陽が沈みかけるころ、晴れた日は軒下で、雨の日は村はずれの遠くに山並みの見える一軒家で僕たちは創造者の話を聞くのが日課だった。そのあと、僕は裏の山に水を汲みに出かける。前後に木の桶の付いた天秤棒の重さを今でもしっかり覚えている。僕の家は村の中でも比較的裕福で宿屋を営んでいたから,朝の水汲みは僕の家族の一日分だけれど、宿屋の多量に使う水汲みに僕もかり出されることがしばしばあった。言いつけの一通りの仕事が終わると、けだるい昼が訪れる。村外れの一軒の家の軒下で朝とは違った遠くの山並みを見ながら、ある時は空を見上げ、ある時は野の花や石ころを見ながら、すべての造主の話に僕は思いを巡らす。万物の造主、天地の創造の主。すべての造主。僕らの知りえない物も含めてのすべての造主。教えてくれるのは、僕の叔父にあたるバルナバ。僕の家系は、レビと呼ばれる一族にある。先祖から代々受け継いできた、そしてこれからも語り継がれるであろうその物語は、そういう訳で僕らの知り得ない物すべてが、そうでなくなる日まで語り継がれるであろうと村のみんなからラビと呼ばれる叔父はいうのが口癖だった。