ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

荒砥沢ダム

2024-09-23 20:00:00 | 宮城県
2016年4月 2日 荒砥沢ダム
2024年7月28日
 
荒砥沢ダムは宮城県栗原市栗駒文字の北上川水系二迫川にある宮城県土木部が管理する多目的のロックフィルダムです。
栗駒山に源を発し栗原市、登米市を流下して旧北上川に合流する迫(はさま)川流域は伊達藩時代に新田開発された広大な穀倉地帯が広がり『金成耕土』と呼ばれています。
しかしもともとは河川が交錯する湿地帯だったこともあり洪水被害が多発、一方で1万ヘクタールを超える耕地面積に対して迫川の水量は絶対的に乏しく用水不足が常習化していました。
1957年(昭和32年)に迫川に花山ダム、1962(昭和37年)に三迫川に栗駒ダムが完成したことで治水能力は大きく向上しますが、用水不足はいまだ解決せず安定した水源確保やかんがい排水設備の整備は流域農家の悲願となっていました。
こうした状況を受け農林水産省は荒砥沢ダム及び小田ダム建設を軸とした国営かんがい排水事業迫川上流地区を採択、これに宮城県土木部が事業参加し迫川総合開発事業として治水機能を持った多目的ダム建設が進められることになりました。
このうち、1998年(平成10年)に二迫川上流部に建設されたのが荒砥沢ダムで、農林水産省東北農政局が施工し完成後は宮城県土木部が管理を受託しています。
荒砥沢ダムは二迫川の洪水調節(7月1日~9月30日の洪水期間中に最大毎秒320立米の洪水カット )、迫川上流土地改良区への灌漑用水の供給(荒砥沢用水路156.4ヘクタールおよび一の堰頭首工1498.1ヘクタール)を目的とするほか農林水産省東北農政局が管理する荒砥沢発電所で最大1000キロワットの小水力発電を行います。
国営かんがい排水事業全体も2005年(平成17年)に完了し金成耕土における用水不足はほぼ解消しました。
 
その後、2008年(平成20年)の宮城岩手内陸地震の際はダム湖上流で大規模な山体崩壊が発生しダム湖で津波が発生するとともに(堤体への影響はなし)大量の土砂が流入しました。
これにより毀損した洪水調節容量を補填するためダムの下流に遊水地が建設されました。

迫川上流地区概要図


荒砥沢ダムには2016年(平成28年)4月、2024年(令和6年)7月と2度訪問しており、掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
県道179号線のドン詰まりに荒砥沢ダムがあります。
こちらは洪水吐斜水路下流から
手前左手からの流入水は放流設備及び発電所からの放流水です。
(2016年4月2日)

 
初回訪問時は融雪期ということで水位が上昇し洪水吐から放流中、美しい転波列が現れています。
向かって左手の白い建屋が放流設備。
(2016年4月2日)

 
利水放流を利用した荒砥沢発電所
農林水産省東北農政局が管理を行い、売電収入は土地改良区の運営資金に供されます。
(2016年4月2日)

 
水利使用標識
こちらはダムのすぐ下流沿岸農地を対象とした荒砥沢用水路向け水利権。
(2024年7月28日)

 
ダムや洪水吐を一望できるポイントはありません。
これは右岸放流設備手前から見た下流面
中央を左岸ダムサイトに通じる道路が斜行しています。
(2024年7月28日)

 
左岸ダムサイトへ通じる道路から。
奥は洪水吐斜水路。
(2024年7月28日)


天端は立入り禁止。
(2024年7月28日)

 
上流面
かなり草が伸びています。
対岸には管理事務所と洪水吐、取水塔があります。
(2024年7月28日)

 
ダム湖は藍染湖と命名され左岸にふれあい公園が整備されています。
(2024年7月28日)

 
ふれあい公園から洪水吐・取水塔を遠望。
再訪時は洪水期のためこれで最高位。
(2024年7月28日)


取水塔とインクライン・艇庫をズームアップ。
(2024年7月28日)


2008年(平成20年)の宮城岩手内陸地震の際にダム湖上流で大規模な地滑りが起きダム湖内で津波が発生しました(堤体越流はなし)。
こちらはその説明板で『荒砥沢ダム上流崩壊地』として日本の地質百選に選ばれています。
(2024年7月28日)

 
地滑りを地点を遠望
地震から16年が経過しますがいまだに大きな傷跡が残ります。
奥の崩落地点手前側の斜面がダム湖に向けて大きく滑りました。
(2024年7月28日)

 
右岸に移動します。
洪水吐は横越流式洪水吐とローラーゲート併設です。
写真は上流側からローラーゲートを撮ったもので、このゲートの奥(下流側)に横越流式洪水吐がありますが横越流式洪水吐を目にすることはできません。
ローラーゲートは洪水期(7月1日~9月30日)は洪水調節容量を確保するために全開、非洪水期は全閉となります。
この写真は洪水期のものでゲートが開いています。
(2024年7月28日)


アングルを変えて
ローラーゲートと上流面。
この写真は非洪水期のためゲートが閉じられており、水位は平常時最高水位となります。
(2016年4月2日)

 
オレンジの屋根が鮮やかな取水塔。
(2016年4月2日)

 
荒砥沢ダムの下流約10キロ地点にある一の堰頭首工。
国営事業によって既設の3基の取水堰を統合して1993年(平成5年)に完成しました。
荒砥沢ダムから放流された水を取水し約1500ヘクタールの農地にかんがい用水を供給します。
(2024年7月28日)

 
一の堰頭首工の説明板。 
(2024年7月28日)

 
水利使用標識。
(2024年7月28日)

 
(追記)
荒砥沢ダムは台風等の接近が予想される場合に事前放流を行う治水協定が締結されました。

0309 荒砥沢ダム(0282)
宮城県栗原市栗駒文字
北上川水系二迫川
FA
74.4メートル
413.7メートル
13214千㎥/12594千㎥
宮城県土木部
1998年
◎治水協定が締結されたダム