ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

羽鳥ダム

2024-09-26 21:00:00 | 福島県
2016年4月24日 羽鳥ダム
2024年7月29日
 
羽鳥ダムは福島県岩瀬郡天栄村羽鳥の一級河川阿賀野川水系鶴沼川にある農林水産省東北農政局が直轄管理する灌漑目的のアースフィルダムです。
矢吹原地区は福島県中通り南部の阿武隈川とその左支流釈迦堂川(上流では隈戸川)に挟まれた丘陵台地ですが、地味薄く水利に乏しいうえに那須おろしの冷風害が大きく明治以前は原野のまま放置されていました。
明治期以降開拓の手が入りますが、冬場の降雪量が少ないうえに水源となる各河川は流域面積が小さく大規模な開拓のための絶対的用水量が不足していました。
そこで利水に余裕のある奥羽山脈西側の猪苗代湖からの引水(湖水東流)や同じく福島から日本海に流れる阿賀野川水系からの引水(西水東流)が検討され、1941年(昭和16年)に念願の『国営白河矢吹開拓建事業』が着手されました。
同事業は阿賀野川右支流の鶴沼川から流域が分水により矢吹原や白河に導水するというもので、その灌漑用水源として1956年(昭和31年)に鶴沼川最上流部に建設されたんが羽鳥ダムです。
開拓建設事業全体も1964年(昭和39年)に完了し、約3300ヘクタールの農地が開発されるとともにかんがい排水設備が整備され、受益地の中心である矢吹町は『日本三大開拓地』に一つに数えられるに至りました。
さらに1992年(平成5年)から2010年(平成22年)にかけて『国営農業水利事業隈戸川地区』が実施され、営農形態の変化に対応したより実効的なかんがい排水設備が整備されました。

農林水産省の直轄もしくは補助事業で建設されたダムは完成後は関係自治体や土地改良区が管理を受託するのが一般的です。しかし、羽鳥ダムにおいては阿賀野川水系から阿武隈川水系への流域変更に伴い新潟県と福島県に跨る調整が必要なことから全国で6基しかない農林水産省が直轄管理するダムとなっています。
一方、ダム湖の羽鳥湖は総貯水容量2732万1000立米とアースフィルダムとしては全国第3位の規模を誇り、湖岸にはキャンプ場や道の駅など各種レクリエーション設備が整備され『ダム湖百選』に選ばれています。

矢吹原の疎水計画(出典 水土の礎より)



羽鳥ダムには2016年(平成28年)4月、2024年(令和6年)7月の2度訪問しており、掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

ダム右岸を国道118号が走っておりアプローチは簡単ですが、下流からダム全景と正対できるようなポイントはありません。
右岸の国道から
農水省直轄ダムということで整備は行き届き下流面は常にきれいに刈り払われています。
(2024年7月29日)

 
天端は県道37号白川羽鳥線が通ります。
親柱には『羽鳥土堰堤』のプレート。
(2024年7月29日)

 
その親柱をズームアップ
1956年(昭和31年)竣工ですが、親柱は戦前ダムっぽいフォルム。
(2024年7月29日)

 
天端から下流面を見ろします
ダム下は立入り禁止
堤体には多数の漏水計。
(2024年7月29日)

 
左手は洪水吐からの流路、右手に放流設備があり河川維持放流が行われています。
鶴沼川はこのまま流下して阿賀川(阿賀野川)に合流し日本海に注ぎます。
(2016年4月24日)

 
ダム湖の羽鳥湖は総貯水容量2732万1000立米
向かって右手のダム左岸沿いにオートキャンプ場や道の駅などが整備されダム湖百選に選ばれています。
(2024年7月29日)

 
取水設備を遠望
傾斜式の多段式ローラーゲートで、表層取水を行います。
ダム湖も含め鶴沼川は日本海に注ぐ阿賀野川水系で、ここで取水された水は中央分水嶺を越え阿武隈川水系となる矢吹原や白河に流域外分水を行います。
(2024年7月29日)

 
堤体上流面はコンクリートで護岸。
(2024年7月29日)

 
上流面に艇庫とインクラインがあります。
(2024年7月29日)

 
羽鳥ダムの売りの一つが左岸のラビリンス風洪水吐。
(2016年4月24日)

 
放流量確保のため、地山に沿ってジグザグに成型されています。
(2024年7月29日)

 
左岸からの下流面
(2024年7月29日)

 
左岸洪水吐に架かる県道37号のアーチ橋。
(2016年4月24日)


橋から見た洪水吐導流部と減勢工。
このまま鶴沼川として流下します。
(2024年7月29日)

 
同じ場所から上流を振り返ると。
(2016年4月24日)

 
洪水吐脇の立派な記念碑。
(2024年7月29日)

 
ダム湖百選のプレート。
(2024年7月29日)

 
あまり見かけない黒い水利使用標識。
(2024年7月29日)

 
概要説明板。
(2024年7月29日)

 
受益地である矢吹原地区の中核をなすのが矢吹町。
実は私が住む東京都三鷹市とは姉妹都市提携を結んでおり、その点でも羽鳥ダムは馴染み深いダムの一つとなっています。
機会があればダムのみならず国営事業で整備された幹線水路や頭首工、揚水機場など水の流れを辿ってみたいと思います。

(追記)
羽鳥ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、台風の襲来が予想される場合には事前放流を行う治水協定が締結されました。
 
0490 羽鳥ダム(0326)
福島県岩瀬郡天栄村羽鳥
阿賀野川水系鶴沼川
37.1メートル
169.5メートル
27321千㎥/25951千㎥
農水省東北農政局
1956年
◎治水協定が締結されたダム

鳴子ダム

2024-09-26 08:00:00 | 宮城県
2016年4月 2日 鳴子ダム
     5月 4日
2024年4月25日
     7月28日
 
鳴子ダムは宮城県大崎市鳴子温泉の北上川水系江合川にある国土交通省東北地方整備局が管理する多目的のアーチ式コンクリートダムです。
東北地方では1947年(昭和22年)のカスリーン台風をはじめ毎年のように甚大な水害が発生する一方、戦後の食糧難や復興の遅れなど諸課題が山積していました。
これを受け、1950年(昭和25年)に成立した『国土総合開発法』に依り北上川流域での治水・灌漑・発電を目的とした北上特定地域総合開発計画(KVAが着手します。
これに併せて北上川の主要支流である江合川でも建設省(現国土交通省)直轄事業による多目的ダム建設が着手され1958年(昭和33年)に竣工したのが鳴子ダムです。
鳴子ダムは特定多目的ダム法に基づいて建設され、江合川の洪水調節(最大700立米/秒の洪水カット)、江合川流域9000ヘクタールへの新規灌漑用水の供給、東北電力鳴子発電所での最大1万8700キロワットのダム水路式発電を目的としています。
鳴子ダムは国内3例目のアーチ式コンクリートダムとして建設されましたが、それまで2例はいずれも米国をはじめとした海外からの援助や技術指導の下で建設されました。
鳴子ダムは日本人技術者のみで建設した初のアーチダムとして高く評価され日本ダム協会により日本100ダムに選ばれているほか、2016年(平成28年)には土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
鳴子ダムには2016年4月2日に初訪しましたが、この時は天端が開放されておらず同年5月4日の『すだれ放流』イベントに合わせて再訪しました。
さらに、2024年(令和6年)の『すだれ放流』の際に8年ぶりに訪問しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
またすだれ放流の詳細については『鳴子ダムすだれ放流』の項をご覧ください。

国道108号線沿いのダムの下流350メートルほどに駐車場があります。
駐車場から左岸の管理道路を進むと正面に鳴子ダムが姿を現します。
(2024年4月25日)


2016年(平成28年)に土木学会選奨土木遺産に選定されました。
こちらはそのプレート。
(2024年4月25日)

 
ダムサイトには交換されたハウエルバンガーバルブが展示されています。
(2016年5月4日)

 
さらに進むと、鳴子ダムの全容が姿を見せます。
2024年(令和6年)のすだれ放流はゴールデンウィーク前の平日三日間の開催です。初日、二日目はあいにくのお天気でしたが、訪問した三日目は絶好のお天気。
ダム下には虹がかかっています。
(2024年4月25日)

 
クレストには非常用洪水吐となる自由越流頂が8門
最大放流能力は998立米/秒
(2024年4月25日)
 
 
未明にまとまった雨が降り水位が上昇したため、クレストからのすだれ放流のほか低水放流設備であるコンジットバルブからも放流しています。
コンジットバルブはハウエルバンガーバルブで最大放流量は18.4立米/秒。
(2024年4月25日)

 
アングルを変えて
減勢工には円形のデフレクターがあり、越流した水を左岸側に寄せます。
(2024年4月25日)

 
こちらはバルブ放流のない2016年(平成28年)のすだれ放流の写真。
(2016年5月4日)


同じアングルで2024年(令和6年)の写真。
日差しが入ると美しい。
(2024年4月25日)


右岸から
写真右手の縦長の構造物はインクラインで定員は4人、最大斜度は60度もあるそうです。
一度乗ってみたい。
(2016年5月4日)

 
かつてはすだれ放流に合わせて鯉のぼりが張られていました。
奥の白い建物が管理所。
(2016年5月4日)

 
こちらが常用洪水吐となるトンネル洪水吐で最大放流量は750立米/秒。
堤体が薄いため堤体に常用洪水吐を作ることができず、結果として日本初のトンネル洪水吐が採用されました。
現在の洪水吐ゲートは2002年(平成14年)の施設改良事業で改修されたもので、新たに予備ゲートが創設されています。
(2016年5月4日)


ダム左岸高所の国道から俯瞰。
こちらは放流のない初回訪問時の写真。
(2016年4月2日)

 
こちらは2024年(令和6年)の写真。
(2024年4月25日)

ダム湖の総貯水容量は5000万立米、有効貯水容量3500万立米
近年の多目的ダムに比べて堆砂容量が多く配分されています。
右奥に見えるのが東北電力鳴子発電所の取水口。
ダム湖に発電容量の配分はなく利水従属発電となります。
(2016年4月2日)

 
上流面
左手の建屋はトンネル洪水吐ゲート。
(2016年4月2日)


自由越流頂とトンネル洪水吐ゲートの間に小さなゲートが二つあります。
右手はコンジットバルブの取水ゲートで予備ゲートが見えます。
左手は坂見堰取水塔でダムから発電所放流口までの農地への灌漑用取水工です。
(2016年4月2日)
 
 
東北電力鳴子発電所
最大出力1万8700キロワット
ダムに発電容量の配分はなく利水従属発電となります。
 
(追記)
鳴子ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
0290 鳴子ダム(0289)
宮城県大崎市鳴子温泉
北上川水系江合川
FAP
94.5メートル
215メートル
50000千㎥/35000千㎥
国土交通省東北地方整備局
1958年
◎治水協定が締結されたダム