ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

浅河原調整池

2023-11-07 17:00:00 | 新潟県
2016年5月15日 浅河原調整池
2023年9月24日
 
浅河原調整池は左岸が新潟県十日町市小泉、右岸が同市北鎧坂の信濃川水系浅河原川にあるにある東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)が管理する発電目的のアースフィルダムです。
大正期に入り首都圏への人口集中による大量輸送に対応するため都心を中心に鉄道の電化が進められ、当時の鉄道省はその電源を信濃川中流部に求めました。
まず1939年(昭和14年)に宮中取水ダムと千手発電所が、さらに1945年(昭和20年)に浅河原調整池が完成し千手発電所の発電能力は戦前の一般水力発電としては屈指の出力12万キロワットに達します。
さらに戦後の電力不足に対処するため1951年(昭和26年)に千手発電所の放流水を利用して山本調整池と小千谷発電所(最大出力12万3000キロワット)が完成、1990年(平成2年)には
山本第二調整池と小千谷第二発電所(最大出力21万キロワット)が竣工しました。
現在は3発電所合わせて最大45万キロワットの発電能力を有し、これはJR東日本管内で消費する全電力量の2割強に相当します。
一連の発電施設は鉄道向け発電ということで朝夕のラッシュ時と昼夜の閑散時の出力調整の幅が非常に大きく、上部調整池の果たす役割が一般的な発電施設よりもはるかに重要なため浅河原調整池では連絡水槽など一般の発電施設では見られない独自の調整施設が設けられています。
しかし、2004年(平成16年)の新潟中越地震では堤体に亀裂が入るなど大きな被害を受け大規模な補修を余儀なくされました。
さらに2008年(平成20年)には宮中取水ダムにおける不正取水と悪質な隠ぺい工作が発覚し、一時水利権はく奪という厳しい行政処分を受けた事実も記しておきます。

浅河原調整池はまだ土質工学が確立されていない時代に、海外の先端技術を駆使して築造された貴重なアースフィルダムであり、鉄道電化による輸送力増強に大きく貢献したことなどを評価し、2016年(平成28年)に宮中取水ダムや千手発電所などとともに土木学会選奨土木遺産に選定されるとともにBランクの近代土木遺産に指定されています。
浅河原調整池には2016年(平成28年)5月に初訪、2023年(令和5年)9月に再訪しました。
掲載する写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
 
JR東日本信濃川発電所概要図(JR東日本パンフレットより)
宮中取水ダムで取水された水がいったん浅河原調整池に貯留され、千手発電所に送られ発電に利用されます。


下流から
堤高37メートル、堤頂長291.8メートル
ここから見ると大規模な溜池の堤体といった風。
(2023年9月24日)


左岸ダムサイトから
対岸に中学があり、天端は通学路として開放されています。
(2023年9月24日)

初訪時は調整池の水位がかなり高くなっていました。
手前の星型の構造物はサイフォン式余水吐。
奥に見えるのが浅河原調整池の中核をなす連絡水槽。
(2016年5月15日)

 
再訪時は水位が低く、湖面には水草が繁茂しています。
(2023年9月24日)

調整池は総貯水容量106万5000立米
こちらは初訪時の水位が高い時の写真。
手前の長方形のコンクリート構造物は余水吐。
制限水位を超えると壁の横に空いた穴から越流して余水を排出する仕組み。
(2016年5月15日)

再訪時に同じアングルで。
(2023年9月24日)

天端からの眺め
ダム下は運送会社の倉庫
正面に越後駒ヶ岳や八海山が遠望できます。
(2023年9月24日)

余水吐を真上から
まるで軍事要塞のよう。
(2016年5月15日)

二つの余水吐を並べて撮ってみました。
星形はサイフォン方式で、長方形は越流式で排水します。
これだけ見るととてもダムの設備とは思えず、湖上に浮かぶ巨大なクッキー。
(2016年5月15日)


同じアングルで
7年の間にずいぶん水草が繁茂しました。
(2023年9月24日)

連絡水槽を間近で見ます。
鉄道向け電源ということで、ラッシュ時と閑散時では発電の出力調整の幅が大きくなります。
発電所の出力が小さい際に調整池に水を貯留し、出力が大きいときには調整池の水を使用するバッファの役割を担う施設です。
初訪時は発電量が小さいためか、連絡水槽から調整池に水が流入していました。
(2016年5月15日)

再訪時はちょうど朝のラッシュ時
宮中取水口からの水は連絡水槽からそのまま千手発電所に送られています。
(2023年9月24日)


真正面から
前後2箇所にゲートが装備され、豪雪地帯らしく鉄骨トラスのビアは被覆されています。
ゲートが前後に二つあり、手前はが宮中取水口からの導水路のゲート、奥は浅河原調整池への水の出入りを制御するゲート。
宮中取水口からの水は手前足元から水槽に流入していますが角度的に見ることはできません。
一方奥に千手発電所への導水路入口となる穴があり、2箇所のゲートで流入、排出をコントロールします。
(2023年9月24日)

左岸湖岸に展望台があり、選奨土木遺産のプレートが設置されています。
(2023年9月24日)


展望所から連絡水槽を遠望します。
初回訪問時は連絡水槽から勢いよく流入中。
(2016年5月15日)
 
こちらはインレットにある水門
宮中第2取水口から山本第二調整池への導水路から分水された水の流入口。
2系統の微妙な水量調節などの際に利用されるのでしょう。
(2016年5月15日)

インレットから見た調整池。
(2023年9月24日)
 
調整池上流の浅河原川にある堰堤。
調整池の水はすべて宮中取水ダムからの導水に依っており、既得水利権のある浅河原川の水とは明確に分別されます。
浅河原川の水はこの堰から調整池をバイパスして下流に流下します。
(2016年5月15日)

次に千手発電所に移動します。
こちらにも選奨土木遺産のプレートが設置されています。
(2023年9月24日)


水圧鉄管は5本で最大12万キロワットの発電を行います。
(2023年9月24日)


千手発電所の全景
背後のタンクが上部槽になります。
(2023年9月24日)


連絡水槽や排水設備、余水吐など他のダムでは見ることができない珍しい設備がずらりと並んでいます。
まずダムのシステムが複雑なのでJRの概要図で水の流れを十分理解してから見学することをお薦めします。
 
0738 浅河原調整池(0385)
左岸 新潟県十日町市小泉
右岸      同市北鎧坂
信濃川水系信濃川
37メートル
291.8メートル
1065千㎥/853千㎥
東日本旅客鉄道(株)
1945年


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