ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

三ツ森ダム見学・三ツ森ダム非灌漑期『ダム研見学会』

2024-01-23 08:00:00 | ダム見学会
2023年 3月17日 三ツ森ダム見学
 
東日本大震災から12年目、13回忌に当たる今年3月、鎮魂の意も込めて福島県のダムや溜池を回ることにしました。
そんな中、震災により堤体に亀裂が入るなど被災した福島県安達郡大玉村の三ツ森ダムについて、管理する大玉土地改良区にダムの見学をお願いしたところ職員様同行での見学許可がいただけました。
貴重な機会ですのでここではその詳細を記載したいと思います。

約束の時間よりも早く到着したので、見学可能場所からダムを撮影。
ダム左岸を通る県道146号線から
奥が堤体で堤頂長は205メートル、足元に斜樋があります。


もともと上流側は石積み護岸でしたが、復旧事業によりコンクリート護岸になっています。




ダムサイトに建つ赤い鳥居
この上に水神が祀られています。


職員さんが到着
門扉を開けていただきました。

天端
震災により堤頂部には長さ130メートル、深さ4~5メートルの亀裂が入りました。
即座に水抜き作業に取りかかりましたが、須賀川市の藤沼ダムの決壊もあり下流では住民の避難も行われました。


復旧工事では、既設堤体の上流面に傾斜コアを設置するとともに上流面全体と下流面下部に盛土を施し補強が行われました。
復旧事業により堤体積は26万5000立米から31万9000立米に増加
一方総貯水容量は72万立米から67万4000立米に減じました。


天端から下流を見下ろします。
下流側も下部で土が盛られ堤体が補強されています。


総貯水容量67万4000立米の三ツ森貯水池
4月中旬からの灌漑補給に備えてほぼ満水
バブル期に周辺でリゾート開発が進められ、立派な県道が建設されました。
しかし、バブル崩壊でダム下流にゴルフ場が建設されただけで開発はとん挫、結果、素晴らしい自然が残りました。
紅葉期にはもっと素晴らしい眺めになるんでしょう。


大きく湾曲した右岸の越流式洪水吐
1980年(昭和55年)にかけての大規模老朽ため池整備事業で改修されたものです。




よく見るとコンクリートがずれています。
改修事業さなかの1978年(昭和53年)の宮城県沖地震によりずれたとのこと。
洪水吐の安全性には問題ないのでそのまま使用されています。


建設当初の洪水吐は深さ2.5メートルでしたが、改修により6メートルとなり、また越流頂も延長され放流能力が拡大しました。


洪水吐導流部
上に量水計があります。
流下するのは山側ドレーンからの水。


ダム下に下ります。
減勢工は1991年(平成3年)にかけて改修されました。


左岸ダム下の取水設備からの樋門
非灌漑期のため河川維持放流だけ放流されています。


放流ゲートの先に幹線水路が伸びています。


河川維持放流用の分水
非灌漑期は大きなゲートを開放して維持放流を実施
灌漑期には大きなゲートは閉め、右手の小さなゲートから維持放流を行ないます。


維持放流は洪水吐減勢工下で七瀬川に合流。



擁壁は石積みで流路には石が敷かれています。
これは1939年(昭和14年)の竣工当時のもの。


ここから見ると、復旧事業で堤体下部に土が盛られたのが見てとれます。


堤体中段のゆがみ計。


再び天端に戻ります。
左岸の斜樋。




取水用のシャフトは6本。
このほか底樋ゲート2門を備えています。


各種データはリアルタイムで土地改良区に送られていますが、実際の操作はここで行います。




ダムの下流約1キロにある長井坂円形分水
かつて不買運動にまで発展した激しい水争いがあったとこから、視覚的に分水の公平感が実感できる円形分水が採用されたそうです。
百日川と安達太良川に3対2の割合で分水され、灌漑補給が始まる4月中旬から通水されます。


今回はダムを管理する大玉土地改良区様のご厚意によりダムの見学が叶いました。
同土地改良区はわずか職員2名(その後3名に増員)で運営されており、所々多忙の中厚く御礼申し上げます。
大玉村は人口9000人弱の村ではありますが、大いなる田舎を標榜し『メガソーラー望まない宣言』を村議会で可決するなど、豊かな自然との調和を図る政策を打ち出しています。
さらに奇しくも、訪問直後の3月26日の日本テレビ『鉄腕ダッシュ』の舞台はなんと大玉村。
これを機に、個人的にも大玉村を応援してゆきたいと思っています。

2023年12月14日 三ツ森ダム『ダム研見学会』

非灌漑期で水が抜かれた同年12月に再び職員様同行での見学会を実施しました。
今回は天端及び貯水池内での見学となります。
左岸の県道から
水がないので復旧工事で盛土で肉付けされた部分がよくわかります。


肉付けに合わせて傾斜コアも設置されました。


水位が低いので斜樋の6門の取水ゲートすべてが姿を見せています。


天端へ移動
例年灌漑期終了後に水を抜き12月から貯留を始めるのですが、今年は底樋に土砂が滞留したため流水で流下させるため12月半ばまで低水管理が続いたとのこと。


貯水池内へも立ち入らせていただけました。
職員さんに続き斜樋脇の階段を下ります。


斜樋を見上げます。
こんなアングルで斜樋を見る機会はなかなかありません。

一か月以上水が抜かれていたので、ぬかるむことなく進めます。


さらに貯水池を進み土砂吐ゲートへ。
もともとは斜樋近くにありましたが、復旧工事で上流側に新しいゲートが新設されました。


コンクリートで護岸された上流面を上ります。


再び天端へ。
土砂吐ゲートを閉めると、1日もたたずにゲートは水に没するそうです。


水がない状態での横越流式洪水吐。


3月に続き、今回は水が抜かれた状態でダムを見学させていただきました。
普段水中に没している復旧工事による盛土部分や斜樋、土砂吐ゲートなどを間近に目にし。ため池の構造についてより理解が深まりました。
大玉土地改良区様には返す返す御礼申し上げます。


2 コメント

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大玉村 (tibineko)
2024-01-23 09:30:57
松と桜と雉がシンボルの大玉村
6月の雨模様の頃に「馬場ザクラ」を見に行きました。
もちろん葉桜ですが💦

日本一うまい米づくりを謳う大玉村の根幹ともいえるダム
感慨深い思いで拝見しました。

19日より酷く体調を崩し寝込んでおりました。
いつも温かいフォロー、コメント有難うございます。
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tibinekoさま (まっち)
2024-01-25 03:56:30
コメントがなく心配しておりましたが、大過なさそうで何よりです。
原発事故を受けてクリーンエネルギー立県を標榜したのはいいものの、美しい山野が真っ黒いソーラーパネルに埋め尽くされるさまはとても「美しま福島」とは言えません。
そんななか、敢えて時流に迎合せず『メガソーラー望まない宣言』を可決した大玉村の姿勢は拍手喝采に値します。
土地改良区とのご縁もでき、これからも大玉村を応援してゆきたいと思っています。
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