ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

蔵王ダム『ダム研見学会』前編

2023-12-25 16:42:02 | ダム見学会
2023年11月2日 蔵王ダム『ダム研見学会』前編
 
今年5月に当面の目標であった2000ダム訪問を達成、これを契機にこれまでの自分の欲求のためだけのダム活動からもう少し幅を広げてみようと思い、日本ダム協会のダムマイスターに応募し8月に拝命しました。
これまでもただダムを見て回るだけじゃなく、このブログで訪問したダムを紹介するとともにダム便覧への写真の提供、フェイスブックでのダム勉強会グループである『ダム研』の主催などの活動を行ってきました。
マイスター就任後は、さらにダムの周知・広報の一助になるとともにダムへの理解を広く深めるために『ダム研』メンバーをベースにした見学会や勉強会を企画・実施してゆこうと考えました。
その第一弾として選んだのが山形県山形市にある蔵王ダムです。
蔵王ダムを選んだ理由としては、全国で13基しかない希少な中空重力式ダムであること、さらに普段は立ち入り規制が多く見学ポイントの少ないダムであることなどです。
山形県県土整備部が管理するダムでは参加者5名以上でのダムの内部見学が可能です。
今回は『ダム研』メンバーから参加者を募り無事見学会実現にこぎつけました。
ここではその詳細についてご紹介してゆきたいと思いますが、写真が70枚近くになるため前編・後編に分けてアップしたいと思います。
またダムの一般的な内容については『蔵王ダム』の項をご覧ください。

見学を紹介する前に山形県県土整備部ホームページ内の蔵王ダム平面図を添付します。
中空ダムといっても堤体内部がすべて空洞というわけではありません。

いわゆるダイヤモンドヘッドでブロックごとに中空空間が仕切られています。


まずは下流面
ここは普段唯一ダムの全容が望める見学ポイントです。
中空ダムらしく襟はなく堤頂部からスロープが始まります。

ダムサイトの説明版。

 
上流面
水面直上からダイヤモンドヘッド、通称『たこ足』が見えます。


少しズームアップして
手前は艇庫で船はクレーンで昇降させます。
最奥の赤いゲートはコンジット予備ゲート。
注目すべきは艇庫のすぐ先の取水設備、黒いレールのようなものが見えますが蔵王ダムの取水設備は珍しい『ヒンジ式』です。


右岸ダムサイトから天端を進みます。
近年の改修で高欄がかさ上げされ路面も再舗装されました。

ダムの銘板。


蔵王ダムには取水設備が2か所あります。
こちらは左岸側の山形市への上水用取水設備から延びる水路管。
専用管で浄水場まで送水されます。

上で紹介した艇庫内の巡視艇
乗船したまま船を昇降させるそうです。
怖いけど乗ってみたい。


このマンホールの下にはプラムラインが設置されています。
後ほど中の様子も紹介します。


水位計
正副2台あり右が正のフロート式、左が副の水晶式。


蔵王湖と命名されたダム湖は総貯水容量720万立米。
奥の山は北蔵王雁戸岳
紅葉は見ごろなのですが曇天に加えて靄っぽいあいにくのお天気。


こちらは10月半ばに職員さんが撮った写真
風がなく湖面が鏡面のようです。


水利使用標識。
水道・水力発電と書かれていますが、こちらは山形市向け上水道用水の水利権。


ヒンジ式取水設備
右手はワイヤーの案内滑車でワイヤーの巻き上げにより黒いガイドレースに沿ってヒンジが動きゲートを開閉します。 
同タイプの取水設備は新潟県佐渡市の大大野川ダムにも設置されています。

言葉で説明してもわかりづらいので図面を添付。


こちらが取水設備の機械室。
右手のドラムでワイヤーを巻き上げます。

次にクレストラジアルゲート
ゲートは2門ありともに石川島播磨重工(現IHI)製。


天端からはクレストゲートのアームが見えるのみ。


クレストゲートの巻き上げ機。
ゲートは巨大ですが開度を変えるだけなので取水設備に比べたら機械は簡素。


こちらはコンジットゲートの空気孔。
ゲートの充水時の空気抜きと緊急遮断時の給気用を兼ねています。
通常は堤体の前面にあることが多く、この位置にあるのは珍しい。


今度はコンジット予備ゲートです。
直轄ダムではクレスト、オリフィス、コンジット、予備ゲートなどはメーカーを分けることが多いのですが、蔵王ダムはすべて石川島播磨重工(現IHI)製。


予備ゲート操作室
クレストゲートに比べて稼働距離が大きいのでかなり大がかり。
二つのワイヤードラムでゲートを昇降させます。 


当の予備ゲートは隙間から垣間見るだけ。


天端から減勢工を見下ろします。
副ダム下流は岩盤が露出。
左手の管路は利水放流用で、奥の建屋は管理用発電所である蔵王ダム発電所。


天端はゲート部分だけ上流側にクランク。


右岸から下流面。


利水放流用のジェットフローゲート。
利水放流は放流量によりこのゲートと管理用発電所を併用もしくは使い分けます。


ようやく堤頂長273.8メートルの右岸に到着。
見れるものはすべて見せていただいており見学開始からすでに1時間近く経過。
この階段の左下に上部監査廊入り口がありいよいよ中空ダム内部に向かいます。


と、右手の法面に何やら蓋されたものが?
実はここには蔵王権現を勧請した水神が祭られているのですが、冬に備え木板で覆われています。


いよいよ上部監査廊に突入。
最初に添付した平面図を見ればわかるように中空ダムは空洞空間はブロックごとに仕切られています。
そのため上部監査廊はコンクリート部と空洞部が交互に繰り返されます。


3つ目の空洞は広いホールになっています。
実はここがコンジットゲート操作室。
前方の丸い穴は中空ダムおなじみの空気孔になります。


空気孔から外を覗いてみると紅葉が見ごろ。
巣穴から外を覗くキツツキになった気分。


コンジットゲートのプレート。
先述のようにこちらも石川島播磨重工(現IHI)製。


こちらがコンジットゲートの油圧シリンダー。


ゲート操作は管理事務所で行われますが、万一に際し手動用の装置もあります。

 
コンジットゲート。


監査廊を先に進みます。
眼下の十字に見るのは排水溝で上の四角が排水ピット。


壁の管はプラムライン。
こうやってプラムラインを見下ろせるのも中空ダムならでは。


こちらが上部監査廊の一番左岸よりのブロック。


終点間際にはこんなものも
コンクリートが乾く前に踏み込んだ足跡だそうです。
しかし足跡がやたら多い。


最後の階段を上がると。


左岸の管理事務所に到着。


振り返ると
中空ダムのこんな位置から堤体を見れるのも見学会ならでは。


一度にすべてを紹介すると、ブログの文字制限3万字を超えてしまうので今回はここまで。
後編に続く。


2 コメント

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ダムと水神 (tibineko)
2023-12-25 17:40:36
北蔵王雁戸岳の二枚の写真
所員の方の写真はまるでCGのように鮮やかですね。

もう一点は蔵王権現を勧請した水神様
近代的な技術を駆使して作られるダムと、水神様。
いかにも日本的で、
日頃縁のないダムに
不思議な愛着を感じます。
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意外なところで奈良とのご縁 (まっち)
2023-12-25 18:10:11
蔵王の名は奈良県吉野の金峯山寺蔵王堂の熊野権現を勧請したことに由来します。
蔵王の主峰は熊野岳でここに勧請した権現が祀られています。
そして蔵王はいつしか山域全体の名となり、その名は吉野の蔵王堂を凌ぐほどの知名度を得ます。
神様を調べると、一見関係のないところでふるさととの深いご縁が!
何事もそうですが、ただ見て感じるだけではなく調べることは重要だと再認識しました。
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