小島教育研究所

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日本とデンマーク「似て非なる」インクルーシブ教育、共に学ぶことの真の価値 「分離された特別支援教育」は何が問題か

2022-11-12 | 教育制度について
インクルーシブ教育とは、国籍、貧富の差、障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが一緒に学べる教育のことを指す。今夏、日本は国連の障害者権利委員会から、受け入れの体制が整っていないことを理由に、障害のある児童が地域の学校から受け入れを拒否されるなど、特別支援教育が通常学級と分離されていることが指摘された。これを受けて文部科学省は、特別支援教育の中止は考えていない、現行制度はインクルーシブ教育を推進するものだと強調したが、この温度差はどこにあるのか。このたびデンマークにある障害者と健常者が一緒に学ぶ全寮制の学校「エグモント・ホイスコーレン」を訪れた、こたえのない学校 代表理事 藤原さと氏にインクルーシブ教育のあり方について考えてもらった。

インクルーシブ教育とは、国籍、貧富の差、障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが一緒に学べる教育のことを指す。今夏、日本は国連の障害者権利委員会から、受け入れの体制が整っていないことを理由に、障害のある児童が地域の学校から受け入れを拒否されるなど、特別支援教育が通常学級と分離されていることが指摘された。これを受けて文部科学省は、特別支援教育の中止は考えていない、現行制度はインクルーシブ教育を推進するものだと強調したが、この温度差はどこにあるのか。このたびデンマークにある障害者と健常者が一緒に学ぶ全寮制の学校「エグモント・ホイスコーレン」を訪れた、こたえのない学校 代表理事 藤原さと氏にインクルーシブ教育のあり方について考えてもらった。

執筆:こたえのない学校 代表理事 藤原さと
東洋経済education × ICT編集部

国連から指摘「分離された特別支援教育の長期化」の問題点

今年の8月、「障害者権利条約」について、国連・障害者権利委員会による日本政府への審査が実施されました。「障害者権利条約」は2006年に国連総会で採択されたもので、障害者の権利の実現のための措置等を規定した、障害者に関する初めての国際条約です。

結果、教育の分野では、障害のある子たちが、とくにその程度が重い場合に特別支援学校への入学を実質的に要請され、地域の学校には実質的になかなか受け入れてもらえない状況や、障害のある児童生徒に対する合理的配慮が不十分であること、すべての子どもを包摂するインクルーシブ教育における教員のスキル不足など、さまざまな問題を指摘されました。英語では「Perpetuation of segregated special education」という言葉が使われ、「分離された特別支援教育の長期化」が指摘されました。「分離された特別支援教育」とは何なのでしょう?そして、何が問題なのでしょうか。

ノーマライゼーション発祥の国、デンマーク

私は、「探究学習」をテーマに教育活動をしており、日頃は学校の先生たちに研修を行うことが仕事のメインです。インクルーシブ教育の専門家ではありません。

しかし、昨年日本でも数例しかない遺伝性疾患を持ち、重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した、重症心身障害児(重心児)のお父さんから連絡をいただいたことがきっかけで、重い障害がある子の保護者の方たちとお話をするようになりました。今は、寝たきりで、医療的ケアが必要な双子のお母さん、広汎性発達障害(自閉的傾向)でこだわりが強く、言葉では細かな感情などのコミュニケーションを取るのが難しい子のお母さんたちと一緒にFOXプロジェクトというインクルーシブ教育を考える場を持っています。

そうした対話の中で、「日本のインクルーシブ教育はとても遅れていると聞くが本当だろうか。私たちは実際に行くことはできないから、現場を見てきてほしい」と言われるようになりました。そこで、今年の夏、デンマークを訪れました。

デンマークは、よく知られているとおり、北欧(ノルディック)モデルの高福祉国であり、障害があっても、高齢者であっても安心して社会に参加して、地域で暮らせるような基盤を整えていくノーマライゼーション発祥の国です。その中でも強い印象を受けた訪問先が「エグモント・ホイスコーレン」です。

エグモント・ホイスコーレンは200名程度の学生のうち、4割程度が障害のある生徒です。地域の高校もしくは特別支援学校を卒業後、ここで数年を過ごし、地域社会で自律して生きていくための準備をします。そして、重い障害のある生徒が、自分のヘルパーとなる学生を面接のうえ選考し、19週間から24週間を一緒に全寮制で過ごすシステムとなっています。筋ジストロフィーなどの遺伝性疾患、脳性マヒなどの運動機能障害、自閉症などの発達障害などさまざまなケースがあり、人工呼吸器をつけている生徒もいます。

この学校の仕掛けで私が非常に優れていると思った点は2つあります。

1つ目は、障害者と健常者が「ケアする・される」という非対称な関係ではないこと。「障害」を中心に置いた授業づくりではなく、ボルダリングやハイキング、水泳、アート、ヨガなど「楽しさ」でつながるように工夫され、一緒に人生を考えるという意味で心や体をフルに使いながら、対等な関係性を構築していくことです。

2つ目は、特別支援学校を卒業した20歳前後の障害のある生徒が、卒業後の実生活に徐々に近づいていけるような仕掛けがされていること。例えば、入学時は棟内の部屋で過ごすが、慣れてきたら少し離れた小さな家のような寮で自活をするなどの取り組みが行われています。

すべての子どもが、子どもたちの中で育つ世界を
世界におけるインクルーシブ教育は1994年のサラマンカ宣言と、2006年の障害者権利条約の2つの国際的な枠組みが大きな柱になっているといわれています。

サラマンカ宣言では、「Education for all」の推進を目的に話し合いがなされ、「すべての子どもは誰もが教育を受ける基本的権利を持ち」「特別な教育的ニーズを持つ子どもたちも通常の学校にアクセスしなければならない」と明言されました。

実はデンマークは、特別支援学校そのものをなくす志向のイタリアとは違って、特別支援学校、地域の学校に併設する特別学級、通常学級の中のインクルーシブという形態は日本と似ています。しかしペタゴーという個々の人間性や個別性を見抜いてそれぞれに合った個別ケアをする技術を身に付けた専門職が、保育園や幼稚園、地域の学校、特別支援学校、高齢者施設などで活躍し、適切な交流のデザインをしています。「すべての人は一緒に育ち、共に生きていくものだ」という社会の意識は圧倒的に日本より進んでいます。

私は14年から17年にかけて米国(テキサス州)に在住し、教職課程として特別支援の授業を取り、16時間地元の公立小学校で特別支援級(日本でいう通級〈Resources〉と、ほぼ全員が発話障害を持つ、比較的重い障害のある子が過ごすライフスキルというクラスの双方)に入りました。

米国では「どんな重い障害のある子であっても、まず通常クラス内で対応可能かということを第一選択肢とする」ということがIDEAという連邦法で定められています。発話障害がある自閉症の子、ダウン症の子たちも、同じ場所でランチを取り、体育や音楽、図工の授業は一緒に受けていました。

私の娘も地元の公立小学校に通っていましたが、英語がまったくしゃべれないにもかかわらず、ほとんどの時間を通常学級でクラスの子たちと一緒に楽しく過ごしました。学校のハロウィーンのパレードでは車いすの子が大きな竜の仮装をして登場。生徒も保護者もみんなで大喝采でした。

一方で、日本で重い障害のある子を持った保護者は「バリアフリーなどさまざまな法制度も進んできている。イベントも増えている。ただ、地域の学校との交流がほとんどなく、特別支援学校が終わると居場所の選択肢が極端に減ってしまう。親が先に死んでしまったら、この子たちはどうなってしまうのだろうか」と嘆きます。そして、小さな頃から保育園や学校でみんな一緒に「友達」として過ごすことができたなら、緩やかではあるかもしれないけれど、お互いの存在を尊重して認め合い、社会と接続しながら幸せに人生を送ることはできないかと切なる願いを持っているのです。

そのためには、「特別支援学校」「特別支援学級」「通級」などの形の問題もありますが、そもそも学校という集いの場で、障害のあるなしにかかわらず、皆が「よい出会い」をし、一緒に過ごせるような設計ができていかなければならないのではないでしょうか。

障害のある子どもに対して、上から目線でもなく、哀れみでもなく、持ち上げるでもなく、フラットな中にも、いろいろな人がいることが当たり前で、お互いに関心や興味を持ちながら、多様な人がいることを学び合える環境づくりが必要です。

今、特別支援学校在籍者数は増え続け、地域の学校の特別支援学級・在籍児童数も増え続けています。一方で、学校現場はとても忙しく、OECDの調査でも日本の小中学校の教師の労働時間数は群を抜いた長さで先進国トップとなっています。その中で現場の事情を考慮に入れず、教師の気持ちを理解せず、特別支援の対応のみを求めても、現場はうまく機能しないかもしれません。

通常級の先生たちと話をしていると、特別な支援を要する子に対して、何もしないことがいいと思っているわけではありません。障害のある子どもたちをどう包摂していいのか、具体的なイメージがつかめていないのです。ただ一緒に教室にいるだけでは、よい出会いとはならずにむしろ差別意識を深めてしまうのではないかと心配しています。逆に言えば、「よい出会い」を設計する方法やスキルがあるなら、それを知りたいと思っているのです。

そのようなときに、エグモント・ホイスコーレンのように「楽しさ」でつながるような場をつくっていくことも大切なのではないかと夏のデンマーク訪問で強く感じました。日本は遠足、修学旅行、運動会などの特別活動が盛んで、「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」もあります。すでにあるこうした仕組みを使って、意味のあるよい出会いをつくっていくことも有効かもしれません。

すべての子たちには価値があり、お互いに学び合える、そういう信念に基づいた学校設計がされていくべきだし、私たちもそういう社会・教育に向けて一歩一歩、歩んでいきたいと思っています。

藤原さと(ふじわら・さと)
こたえのない学校 代表理事
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。米コーネル大学大学院修士(公共政策学)。日本政策金融公庫、ソニーなどで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。仕事をしながら子育てをする中で「探究する学び」に出合い、2014年「こたえのない学校」を設立。小学生向けの探究型キャリアプログラムを実施するほか、16年から学校教育に携わる教師と学校外で教育に携わる多様な大人が出会い、チームで探究プロジェクトを実施する「Learning Creator’s Lab」を主宰。18年、経済産業省「未来の教室」事業の採択を受け、世界屈指のプロジェクト型学習を行う「High Tech High」の教育プログラムの日本導入に携わる。著書に『「探究」する学びをつくる』(平凡社)などがある


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「改正教育職員免許法」とは?

2022-10-19 | 教育制度について
1.教員免許更新制の創設

教員免許更新制は、平成18年7月の中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」における提言等を受け、創設されました。答申では「教員として必要な資質能力は、本来的に時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しており、教員免許制度を恒常的に変化する教員として必要な資質能力を担保する制度として、再構築することが必要である」とし、教員免許状について「一定の有効期限」をもって、「必要な刷新(リニューアル)」を行うことが必要であると指摘しました。

また、この制度は、当時、議論となったいわゆる「不適格教員」の排除を直接の目的とするものではないと説明されました。そしてこの制度によって「公教育の改善・充実」が期待され、「公教育に対する保護者や国民の信頼が確立する」と指摘されました。

2.教員免許更新制の実施

平成19年6月の教育職員免許法(以下、教免法)の一部改正により教員免許更新制が導入され、平成21年度から本格実施されました。

普通免許状はそれまで終身有効でしたが、制度導入後に授与されるものには10年間の有効期間が定められました(旧法9条1項)。特別免許状も有効期間は10年となりました(旧法9条2項)。有効期間を更新するためには、原則として、大学等が開設する免許状更新講習(旧法9条の三)を30時間以上について受講・修了し、免許管理者(都道府県教育委員会)に申請しなければならないとされました。

制度導入前に授与された普通免許状等(旧免許状)には有効期間の定めはありませんでしたが、旧免許状所持者である教育職員等は、経過措置として、10年ごとの期限までに前述の免許状更新講習の課程を修了し、免許管理者による確認を受けなければならないとされました(平成19年改正法附則2)。

制度の実施後は、カリキュラムの改善もなされました。平成26年3月、文部科学省「教員免許更新制度の改善に係る検討会議」は「教員免許更新制度の改善について(報告)」を取りまとめました。これを受けて、「必修領域」の精選と「選択必修領域」の新設等が、平成28年度からなされました。

3.教員免許更新制の発展的解消

中教審「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」は、「教員免許更新制小委員会」における集中的な審議を経て、令和3年11月、「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて(審議まとめ)」を公表しました。

「審議まとめ」では、制度の「一定の成果」を認める一方で、「免許状を更新しなければ職務上の地位の喪失を招きかねない」なかで「変化を前向きに受け止め、探究心を持ちつつ自律的に学ぶという、高度な専門職にふさわしい水準で教師の主体的な姿勢が発揮されてきたと評価することには慎重にならざるを得ない」と指摘しました。

さらに「そうした制約の下での学びは、形式的なものとなり、学習効果を低下させてしまいかねない」と述べ、「10年に1度、特定の期間に免許状更新講習を受講することも、教師が常に最新の知識技能を学び続けていくという必要性と整合的とはいえない」としました。そしてこれらの議論を経て、教員免許更新制を発展的に解消するとしました。

4.教員免許更新制の廃止と免許の取り扱い

その後、第208回国会において「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」(令和4年法律第40号)が成立し、令和4年5月18日に公布されました。教免法の改正では、普通免許状及び特別免許状を有効期間の定めのないものとし、更新制に関する規定(有効期間の更新及び延長、免許状更新講習などの規定)が削除されました。この改正により、令和4年7月1日から教員免許更新制は廃止されました。

教員免許状を、旧免許(最初に取得した教員免許状が、平成21年3月31日以前に授与されている者)と新免許(最初に取得した教員免許状が、平成21年4月1日以降に授与されている者)に分けて考えると、この令和4年7月1日以降に有効期限を迎える教員免許状(旧免許及び新免許)は有効となり、手続なく、有効期限のない免許状となりました。

また、この日時点で有効期限が切れている教員免許状(新免許)は失効していることになります。さらに、この日時点で有効期限が切れており、教員経験が一度もない、これまでに更新などの手続をしたことがない、2回目以降の有効期限の2か月前までに更新手続を行わなかったなどのいわゆる「休眠状態」の教員免許状(旧免許)については有効となり、手続なく、有効期限のない免許状となりました。ただし、この場合でも有効期限当日に「現職教員」の場合は失効となります。

5.「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて

改正された教育公務員特例法(以下、教特法)においては、「新たな教師の学びの姿」を実現するため、まず、「指導助言者」及び「研修実施者」を定義(教特法20条)し、「研修等に関する記録」の作成を任命権者に義務づけています(教特法22の5条1項)。そのうえで当該校長及び教員からの相談に応じ、研修、認定講習等その他の資質の向上のための機会に関する情報を提供し、又は資質の向上に関する指導及び助言を行うものとすることとしました(教特法第22の6条1項)。(いずれも令和5年4月1日施行)

端的に述べれば、教員免許で担保される資質力量の維持・向上は、10年ごとの職場を離れた大学での講義・演習としての研修の制度から、学校内外のさまざまな研修機会を通じ、かつ校長等による指導助言が適切になされる研修の制度へとかたちを変えることとなります。これは、よりいっそう教員の自主性が求められる制度になるといえます。同時に、これまで教員免許更新制にかけられていた相当のリソースを、今度は学校現場や教育委員会に振り向けることが必要といえます。

▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「教員免許更新制の発展的解消と『新たな教師の学びの姿』」















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教員免許更新制、22年度中に廃止へ

2021-11-20 | 教育制度について

 文部科学省は19日、教員免許に10年の期限を設けている教員免許更新制について、教育職員免許法改正案を来年の通常国会に提出し、成立後に速やかな施行を目指すと明らかにした。2022年度中に廃止されることになる。


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教員免許更新制の発展的解消…審議まとめ案パブコメ10/30まで

2021-10-23 | 教育制度について
 文部科学省は2021年10月30日まで、審議まとめ案「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」のパブリックコメントを実施している。教員免許更新制の発展的解消、具体的方向性等について意見を受け付けている。

 文部科学省は2021年10月30日まで、審議まとめ案「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」のパブリックコメント(意見公募手続)を実施している。教員免許更新制の発展的解消、「新たな教師の学びの姿」の実現に向けた具体的方向性等について意見を受け付けている。

 文部科学省では、中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」による審議まとめ「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」の取りまとめを予定している。今回、審議まとめ案について意見を募集するため、10月1日からパブリックコメント(意見公募手続)を開始した。

 審議まとめ案「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて」では、教員免許更新制導入後の社会的変化や「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿を示したうえで、教員免許更新制について「発展的に解消することを検討することが適当であると考える」と結論づけている。

 「新たな教師の学びの姿」の高度化を支える仕組みの構築については、研修履歴管理システムと3つの仕組み(学習コンテンツの質保障、学習コンテンツを適切に整理・提供するプラットフォーム、学んだことの証明)の一体的運用体制等を提言している。

 パブリックコメントの実施期間は10月30日まで。意見の提出は、郵送・FAX・電子メールのいずれかで行う。電話による意見の受付は不可。意見公募要領や審議まとめ案等の資料は、電子政府の総合窓口「e-GOV」で公開している他、文部科学省総合教育政策局教育人材政策課教員免許企画室更新係でも配布している。


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【2021年の教育現場予測】「教員の質」問題に備えよ

2021-01-10 | 教育制度について

■少人数学教の目的は教育環境の最適化と教員の負担軽減

 2021年の教育現場において、大きなテーマになりそうなのが「教員の質」である。
 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)騒ぎのなかで、一気に盛り上がったのが「少人数学級」に関する議論だった。そして、その多くは「3密(密閉、密集、密接)」を避けるには教室の生徒数を減らすべきだ、という趣旨であった。 しかし、少人数学級は新型コロナ対策のためだけに求められているものではない。子どもたちに対する細やかな教育を実現し、それぞれの子どもたちが健やかに成長していくためには、教員の目が行き届く環境が必要不可欠である。
 個々に向き合えば、子どもたちは多くの問題を抱えている。そこに教員が寄り添っていくには、現状の1人の教員が担当する子どもの数が多すぎる。学級あたりの子どもの数が少ないほど「成長を支援するための教育」が実現できる。しかし、新型コロナをきっかけに、2021年度から小学校での35人学級の導入が決まったものの、まだ不十分だと言えるだろう。
 少人数学級の実現は教員の負担を軽くすることにもつながっている。それも目的のひとつのはずなのだが、今回の少人数学級導入の議論のなかでは無視されている気がしてならない。 教員に楽をさせる、といって否定的な意見があるかもしれない。しかし、教員が本来の教育を行うためには負担を軽くし、子どもたちに寄り添う時間を確保することが必要である。また、近年では子どもたち個々が抱える問題も複雑になってきており、教員の負担は健康を損ないかねないところまできている。少人数学級は1日も早く実現していかなければならない。
 そんな中で35人学級とはいえ、少人数学級の導入が決まったわけだが、今度は「教員の質」を問題にする動きがジワジワと始まってきている。これについては、少人数教育導入のための予算をめぐる文科省と財務省の攻防でも取り上げられている。
 財務省は昨年10月26日に開かれた財務相の諮問機関である財政制度等審議会の歳出改革部会に資料を提出し、そこで少人数学級の導入に反対する見解を明らかにしている。そこには、「教員定数の増は採用倍率の更なる低下を招き、教員の質の低下が懸念される」という一文がある。
 少人数学級を導入すれば教員の数を増やす必要があり、そうなると採用倍率は低くなるので教員の質は低下する、というわけだ。 そして、早稲田大学の田中博之教授の見解として、次の引用をしている。

「学校現場では、教員採用試験の競争率が3倍を切ると優秀な教員の割合が一気に低くなり、2倍を切ると教員全体の質に問題が出てくると言われている」
 教授による具体的な例が示されているわけではない。財務省は文科省に対して「少人数学級導入によって効果が上がる証拠をだせ」と言い続けてきたが、その財務省が説得力のある証拠を示すわけでもなく「見解」だけを理由にしている。


■問題は教員を取り巻く環境の改革がすすまないこと

 証拠なるものが皆無というわけではなく、埼玉県志木教育委員会の例を挙げている。志木教委では「採用予定者数を確保することが困難(倍率1倍台)なくらい応募者が激減」しており、その結果、以下のような「教員の質の低下」があるという。
「指導力に関する問題が顕在化(実際、クラス担任を続けることが難しく1学期で辞職した教員の事例等あり)」
 1学期で辞職したから「質」に問題あり、という乱暴な論旨である。多忙からの体調悪化かもしれず、パワハラで退職に迫られた可能性も否定できない。教員の質に関係なく、そういう環境を改めていかないかぎり教員の途中退職は避けられない。実際、途中退職する教員は多い。
 そういう状況を無視して、「辞めるのは教員の質に問題があるからだ」とする財務省の捉え方は、教員個人だけに問題を押し付けており、問題があるだろう。
 さらには、2019年度の採用倍率(小学校)が全国平均で2.8倍であり、8道県では2.0倍未満となっているとして、その同県名を挙げている。新潟県1.2倍、福岡県1.3倍、佐賀県1.6倍、北海道1.7倍、広島県1.8倍、長崎県1.8倍、宮崎県1.8倍、愛媛県1.9倍、といった具合だ。
 つまり、この8道県では教員の「質」が低下している、と言っているのと同じなのだ。それを8道県に含まれる自治体の教員に話したところ、苦笑していた。苦笑するしかないほど、乱暴な決めつけでしかない。

 財務省と同じような見方で教員の「質」が問題にされてくるとすれば、すべてが「教員が悪い」になってしまう可能性がある。
 残業が多いのは教員の質が悪いからだ、体調を崩して休職するのは教員の質に問題があるからだ、学級崩壊は教員の質が低いからだ、イジメがなくならないのは教員の質のせいだ、といったように、何でもかんでも教員の「質」の問題にされてしまう。
 挙げ句、「教員はダメだから外部から人を入れろ」ということにもなるだろう。実際、経団連は昨年11月に「Society5.0に向けて求められる初等中等教育改革」という提言で、学校で外部人材を積極的に採用するよう求めている。 企業にしてみれば、社員を派遣するビジネスにもつながるだろうし、財務省としては、企業から安価で人が派遣される制度になれば、支出を抑えられて万々歳かもしれない。

 教員の「質」をめぐる議論が活発になっていくことで、「質」は単純化されてますます教員の責任が問われることになり、攻撃対象にされかねない。そこに用心しなくてはならないし、教員の「質」は教員個人の資質の問題ではなく、際限なく仕事を増やしている問題、管理の問題、短絡的な効果だけを求めてくる問題、つまり教育全体の問題だということを再認識する姿勢こそが必要なのではないだろうか。

以上BT!より




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小学校「教科担任制」のあり方──令和の日本型教育とは何か

2021-01-09 | 教育制度について

授業の質の向上、学校の教育活動の充実や教師の負担軽減、複数教師による多面的な児童理解、小学校から中学校への円滑な接続を図ることなどをめざして、小学校高学年からの教科担任制導入が検討されています。教育現場はこれにどう対応していけばよいでしょうか。



目次

令和の日本型学校教育
要チェックの5つの項目
令和の日本型学校教育

 文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会は、2020年10月、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」と題した中間まとめを公表しました。

 この中で管理職が確実に押さえておくべきなのは「令和の日本型教育とは何か」です。これまでの日本型学校教育では「学校が学習指導のみならず、生徒指導の面でも主要な役割を担い、児童生徒の状況を総合的に把握して教師が指導を行うことで、子供たちの知・徳・体を一体で育んできた」のです。その点は高く評価されますが、課題が多かったことも事実です。それに加え、新型コロナウイルス感染症により先行き不透明で予測困難な時代が到来しました。

 そこで、これまでの日本型学校教育の良さを受け継ぎながらさらに発展させ、2020年代を通じて「学校における働き方改革」「GIGAスクール構想」「新学習指導要領の全面実施」を推進することで実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」と名付けています。

 その際に、目指すべき学びの在り方は「すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」です。「個別最適な学びの成果を協働的な学びに生かし、さらにその成果を個別最適な学びに還元するなど、個別最適な学びと協働的な学びの往還を実現することが必要である」としています。

 続く各論では、項目ごとに、何をする必要があるのかが示されています。その中からポイントを紹介します。

要チェックの5つの項目

9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について

 小学校高学年への教科担任制を、2022年度を目途に導入し、義務教育9年間を見通した指導体制の構築、教科指導の専門性を持った教員によるきめ細かな指導の充実、教員の負担軽減などを図ります。対象教科は、外国語、理科、算数が例示されています。

 これまでの教科担任制との違いとして意識する必要があるのは、義務教育9年間を見通すことです。学習内容においては系統的な指導により中学校への円滑な接続を図り、中学校の教員が小学校で教えるなど、小中学校の連携促進が一層求められます。それに伴い、小学校と中学校の両方の免許取得を促進するなど、今後は教員の養成課程も変わると思われます。

増加する外国人児童生徒等への教育の在り方について

 外国人の子どもたちは、共生社会の一員として今後の日本を形成する存在であることを前提に、学校での日本語の指導体制の充実や、異文化理解や多文化共生の考えが根付くような取り組みを促進します。

遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方について

 これからの学校教育を支える基盤的なツールとして、ICTはもはや必要不可欠なものであることを前提とします。そのうえで、発達段階に応じてICTを活用しつつ、教員が対面指導と、家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで、個別最適な学びと協働的な学びを展開することが求められます。

 具体的には、学習履歴(スタディ・ログ)などの教育データを活用した個別最適な学びの充実、全国学力・学習状況調査のCBT化(Computer Based Testing)、教員の対面指導と遠隔授業等を融合した授業づくり、デジタル教科書・教材の普及促進などが挙げられています。

新時代の学びを支える環境整備について

 個別最適な学びと協働的な学びを実現し、教育の質の向上を図るとともに、新たな感染症や災害の発生等の緊急時にあってもすべての子どもたちの学びを保障するため、「GIGAスクール構想」の実現を前提とした教室環境と指導体制の整備が求められています。

 教室環境の整備の例として、「1人1台端末」、遠隔・オンライン教育に適合した教室環境や教員のICT環境の整備、「新しい生活様式」も踏まえ健やかに学習できる衛生環境の整備やバリアフリー化が挙げられています。

 指導体制の整備の例としては、「1人1台端末」の活用等による児童生徒の特性・学習定着度等に応じたきめ細かな指導の充実や、「新しい生活様式」を踏まえた身体的距離の確保に向け、少人数によるきめ細かな指導体制、小学校高学年からの教科担任制などがあります。

人口動態等を踏まえた学校運営や学校施設の在り方について

 少子高齢化や人口減少等が進む中で、持続的で魅力ある学校教育が実施できるよう、少人数を活かしたきめ細かな指導の充実やICTを活用した遠隔合同授業等により小規模校のメリットの最大化とデメリットの最小化が求められます。

(3)義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方

①小学校高学年からの教科担任制の導入
●導入に当たっては、地域の実情に応じて多様な実践が行われている現状も考慮しつつ、専科指導の対象とすべき教科や学校規模(学級数)・地理的条件に着目した教育環境の違いを踏まえ、義務教育9年間を見通した効果的な指導体制の在り方を検討する必要がある。また、義務教育学校化や広域・複数校による小中一貫教育の導入を含めた小中学校の連携を促進する必要がある。
●専科指導の対象とすべき教科については、系統的な学びの重要性、教科指導の専門性といった観点から検討する必要があるが、グローバル化の進展やSTEAM教育の充実・強化に向けた社会的要請の高まりを踏まえれば、例えば、外国語・理科・算数を対象とすることが考えられる。当該教科の専科指導の専門性の担保方策や専門性を有する人材確保方策と併せ、教科担任制の導入に必要な教員定数の確保に向けた検討の具体化を図る必要がある。

出典:文部科学省・中央教育審議会初等中等教育分科会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(中間まとめ)」の一部を紹介。

この中間まとめの中で、目玉の一つとされているのは、小学校高学年への教科担任制の導入です。『総合教育技術』2021年1月号の【特集2】では、教科担任制に対して現役教員から上がった疑問の声を紹介しています。そして先進事例として、2019年度から市独自の一部教科担任制を導入した北九州市、教科担任制に小規模校の学校間連携を組み合わせた兵庫県香美町の取り組みを紹介。冒頭の教員の疑問に対し、各自治体・学校がどのように対応しているのかを読み取っていただければと思います。

構成・文/林孝美

『総合教育技術』2021年1月号より

以上 みんなの教育技術より

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小学5、6年に教科担任制 22年度めど、英・理・算―中教審部会(時事ドットコムより)

2020-08-22 | 教育制度について

 中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別部会は20日、小学5、6年の授業で専門の教員が教える「教科担任制」を2022年度をめどに本格導入するよう求める骨子案をまとめた。対象とするのは外国語(英語)、理科、算数の3教科。系統的な学びを重視し、中学校での学習に円滑につなげることが狙いだ。年明けにも答申案をまとめる。
小学英語の教員増 学校の働き方改革

 小学校では、各学級の担任教員が全ての教科を教えることが多いが、高学年の学習内容は専門性が高く、よりきめ細かい指導が必要との指摘があった。一部の学校では、実技や実験がある教科を中心に教科担任制を導入しており、授業の質向上のため、これを全国的に広げる必要があると判断。今後のグローバル化の進展などを踏まえ、3教科を挙げた。
 導入により、教員の持ちコマ数の軽減や授業準備の効率化が進むと見込まれ、働き方改革にもつながると期待されている。

以上

注意)各教員養成大学では、小中9年間を通して教育できる教員を育成するカリキュラムを本年度より導入する動きがある。
当然教員採用も、それ用に強化する可能性が大と言える。

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小学校に教科担任制、高校普通科を多様化…どうなる「初中改革」(ベネッセ教育情報サイトより)

2020-08-19 | 教育制度について

小学校から高校までの「初等中等教育」改革について、中央教育審議会の部会が8月20日から、中間まとめに向けた審議に入ります。新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた「ポストコロナ」時代も見据え、初等中等教育を今後どう変えていこうとしているのでしょうか。

義務教育の「9年間」教えられる先生に

中教審は2019年4月に、当時の柴山昌彦文部科学相から諮問を受けて、「新しい時代の初等中等教育の在り方」の審議を行っています。

論点の一つが、小学校の高学年に教科担任制を導入することです。学級担任制が原則の小学校は、全教科を教える先生にとっては、空き時間がありません。中学校につなげる高度な授業をするには、準備の時間の確保も含めて、教科担任制を取り入れたほうがよいという判断です。対象教科は当面、外国語・理科・算数を想定。教科等を横断した「STEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育」も充実させたい考えで、授業の時間数を弾力化することも検討しています。

中学校の先生を小学校に配置換えすることも視野に入れており、「義務教育9年間」を指導できる先生の育成を目指します。大学での教員養成課程から、小学校と中学校の両方の教員免許を取りやすくする方策を検討します。

各高校の「役割」から授業づくりへ
高校は、20・30年後を見据えて、各高校の存在意義や社会的役割を見直し、目指すべき学校像を「スクール・ミッション(学校の使命)」として再定義。大学のように三つの「スクール・ポリシー」(卒業認定方針、教育課程編成・実施方針、入学者受け入れ方針)を策定し、カリキュラムや授業のレベルにまで落とし込むことを義務化したい考えです。
そうなれば、生徒の7割が通う普通科も、自然と多様化してくるはずです。その上で、(1)学際科学的な学びに重点的に取り組む学科 (2)地域社会の課題解決に向けた学びに重点的に取り組む学科……という、探究学習を中心とした学科を、普通科の枠内に新設する方向です。特に(2)は、中山間地域や離島など、放っておけば統廃合の対象になりかねない地域にも高校を残すことで、地方創生の核としての役割を期待しています。

遠隔・オンライン含め授業を「ハイブリッド化」
新型コロナで休校も続いた「ウィズコロナ」時代の経験を踏まえ、「ポストコロナ」時代の学びも検討しています。
1人1台の情報端末を整備する「GIGAスクール構想」により、遠隔・オンライン教育を含めたICT(情報通信技術)活用を進めることで、学校での対面授業はもとより、家庭や地域での学びとも連携した「ハイブリッド化」を目指します。

まとめ & 実践 TIPS
ウィズコロナの学校では、身体的距離(フィジカル・ディスタンス)を取るため、1クラスを半分に分けた分散登校なども行われました。そうでなくても、小学校の教科担任制を含め、初中教育の充実には、一人ひとりの先生に余裕を持たせることが不可欠です。「少人数編成」を実現する教員の増員も、今後の焦点です。
休校が続いたことで、逆に、学校という場に集まって対話することの重要性が、改めて認識されました。知・徳・体を一体で育む「日本型学校教育」の良さを大事にし、発展させるような改革であってほしいものです。

以上

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愛知県公立学校教員採用選考試験選考方法等の変更について

2020-05-12 | 教育制度について


 愛知県公立学校教員採用選考試験選考方法等の変更について、下記のとおりお知らせします。

1 変更年度
 令和4年度(2022年度)採用 愛知県公立学校教員採用選考試験(令和3年度実施)より変更

2 主な変更点
(1) 第1次試験は筆記試験(教科専門、教職・教養、小論文)及び外国語堪能者面接とする。
<集団面接を廃止>
(2) 「大学院進学による採用辞退者に対する特別選考」及び「介護理由退職者特別選考」は第1次試験免除とする。
   また、「昨年度の補欠者に対する特別選考」、「元教諭・講師経験者特別選考」、「現職教諭特別選考」及び「教職
   大学院修了見込者特別選考」は第1次試験では「教職・教養」を免除し、「教科専門」及び「小論文」のみとする。
(3) 「小論文」は第1次試験で実施するが、第2次試験の選考資料とする。
(4) 第2次試験は口述試験(一人の受験者に対し個人面接を2回実施)及び実技試験とする。
<記述式の教科専門、クレペリン検査、集団討議を廃止>
(5) 実技試験は2日目の午前中に実施する。
(6) 選考の種類を整理し、第1次試験加点項目を新設する。


愛知県 教育委員会事務局 教職員課
県立学校人事グループ
3月27日発表
 

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「日本最大の高校」に急成長したN高 生徒が話す「僕がアクティブに変わった理由」(EduAより)

2020-04-28 | 教育制度について

 「ネットの高校」として設立されたN高の生徒数が、わずか4年で約1万5000人に達し、「日本最大の高校」に成長した。
ネットを活用した効率的な学習システムと、多彩なリアル体験を組み合わせたプログラムが、従来の教育システムには収まりきらない多様な生徒たちを引き寄せている。
N高の急成長は、新しい教育の可能性を示している。

1万5000人それぞれの進路がある

 N高等学校は、学校法人角川ドワンゴ学園が2016年4月に通信制高校として設立し、17年に通学コースを設けた。
全国から入学できるネットコースと、19地点のキャンパスに通う通学コースがある。
設立時に約1500人だった生徒数は今春、1万4700人にまで増えた。

 時間割に縛られないことから、各分野で活躍している生徒も多い。
フィギュアスケートの紀平梨花さんが在籍中。
囲碁棋士の上野愛咲美(あさみ)さんもN高の卒業生だ。

 「東京大学1名、京都大学3名、慶應義塾大学13名、早稲田大学8名……」。
2月下旬から、大学合格者数の高校ランキングを特集する週刊誌に、N高のカラー広告が連続して載った。
N高から東大合格者が出たのは初めてだ。
ただし、大学進学実績はN高の一つの側面にすぎない。
奥平博一校長に言わせれば、「1万5000人の生徒がいれば、1万5000通りの進路がある」ということだ。

 N高が公表している卒業生の進路は、専門学校40%、就職29%、大学15%、未定16%。
必ずしも進学校というわけではない。

 生徒を紹介してもらい、話を聞いてみた。

 3年生の石井翔さん(17)は、公立中学を卒業してN高に進学した。

「中学時代、毎日6時間も7時間も決められた授業を受けるのが苦痛でした。
高校からは、もっと自由に勉強できる通信制高校に行こうと思っていました」

 いくつかの学校を調べ、学びのコンテンツが豊富で、IT授業が充実しているN高を選んだ。

 N高はネットとリアル体験をうまく組み合わせている。
授業は映像で学ぶが、コミュニケーションツールのSlackを使ったホームルームや部活があり、友達といつでもやりとりができる。
ネット上とはいえ、先生や友達と双方向のコミュニケーションが取れ、自宅にいても孤独にならない。課外活動に当たるアドバンストプログラムには、大学受験対策講座、プログラミング、文芸小説創作など豊富なネットのコンテンツがあるほか、リアル体験としてスタンフォード大学の国際教育プログラムへの参加、刀鍛冶(かじ)や牧場などの職業体験、離島での野外体験などが用意されている。

 石井さんは、1年次に長崎県の五島列島で行われたワイン造りを体験し、地元の醸造家にホームステイしながら、ブドウの収穫や瓶詰めの工程を手伝った。今年は新型コロナウイルスで中止になったが、文化祭実行委員にも立候補して準備を進めてきた。

「もともとインドアタイプでしたが、N高に入って、いろいろなことにチャレンジしたくなり、アクティブに変わりました」

 将来は、通勤せずに仕事をするノマドワーカーを目指しており、そのためにも大学で経済学や商学をしっかり学びたいという。

奥平校長は、N高がここまで伸びた理由について、こう話した。

「我々が何かをしたというよりも、N高のようなシステムを求めている層が、潜在的に存在していたんだと思います。
学校だけじゃない学び、新しい学校を求める人たちです。
そこにN高が出現したので、これだ、ということになったのではないでしょうか」

 N高もネットでの映像授業だけなら、ここまで話題にならなかったかもしれない。
双方向のコミュニケーション、豊富なコンテンツ、特徴的なリアル体験などが成長のカギではないだろうか。
それは現在、新型コロナウイルス対策で広がるオンライン授業にも、示唆を与える気がしてならない。

柿崎明子 教育ライター

以上


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