南軽井沢の別荘地で見ることができる種にアケボノスミレがある。別荘地内の狭い道路を車で通りぬけていた時に、山側の石垣の上の斜面にこのアケボノスミレの小群落があることに気がついた。
この場所以外にももう一ヶ所まとまって生育している場所を見かけたが、そこも同じような明るい斜面で、土砂が自然に崩れているところであった。
そのほか、車で通りかかった道路脇でも偶然見かけることがあったが、アケボノスミレの数は決して多くはない。むしろ、いくつかの種のスミレを見ることのできるこの別荘地内でも稀な方といえる。
今年、またアケボノスミレの季節になったので、上記の場所に行ってみたが、石垣の上の小群落は時期が早すぎたのか、元あった辺りには、僅かに2株ほどから出た小さく巻いた葉があるだけで花は見られなかった。
もう一つの別の場所に行ってみると、こちらも数は激減していたが、3-4株がきれいな花を咲かせていた。
昨年の台風19号の被害を受け、軽井沢もまだあちらこちらで改修が追いつかないところもあるが、こうした山野草の生育場所も環境が変化したり、土砂が流されたりして大きく影響を受けているようである。このこととは別に、堀り採られていることも減少の一因と考えられるが、いずれにしろ残念なことである。残っている株が再び増えて群落をつくってもらいたいものである。
実は、はじめて見かけた時から最近までこの石垣上と土砂が崩れている場所に多く生えているこの種をスミレサイシンだと思っていた。
横倒しになっている木の根元に1株だけあって花を付けていた株ともう1枚同じ時期に撮影した株の方はアケボノスミレだろうと漠然と考えていた。
スミレサイシンは、もうずいぶ前になるが奥裾花渓谷に行った時に見て知っているつもりであったので、そのように即断していたことと、アケボノスミレとは花びらの色や形状が違っていると感じていた。
しかし、今回撮影した写真を調べなおし、図鑑の説明を読んでいて間違いに気がついた。ひとつは、スミレサイシンは日本海型であり、アケボノスミレはそれよりも太平洋に寄った方に生育し、住み分けているということであった。
軽井沢は両種の分布域の境界にあたるので、分布域だけでは決められず、花の側弁基部が無毛か有毛かが決め手となった。撮影した写真で確認できるが、はっきりと側弁の基部に毛が認められる。スミレサイシンは無毛で、アケボノスミレは有毛または無毛ということであった。
日本のスミレ(山渓ハンディ図鑑6 1996年山と渓谷社発行)によるとスミレサイシン類の見分け方は次のようである。
最初の写真は道路わきの倒木のそばに咲いていたもので、こちらは初めからアケボノスミレだろうと思っていた。
道路沿いの倒木の脇に咲いていたアケボノスミレ(2012.5.12 撮影)
次も同じ日の撮影。撮影場所はほぼ同じだったと記憶しているが、詳しい記録がなく思い出せない。ただ、こちらもアケボノスミレだろうと考えてファイルしていた。
南軽井沢で見かけたアケボノスミレ(2012.5.12 撮影)
別荘地の石垣上の小群落の写真は探してみたが、残念なことになぜか見当たらない。以下は、土砂が崩れている斜面で今年撮影したものである。
アケボノスミレ 1/3 (2020.5.7 撮影)
アケボノスミレ 2/3 (2020.5.7 撮影)
アケボノスミレ 3/3 (2020.5.7 撮影)
次の2枚は上記写真の側弁の毛の有無を見るために拡大したものだが、確かに毛が認められる。
アケボノスミレ 2/3の拡大写真
アケボノスミレ 3/3の拡大写真
アケボノスミレは写真で見る通り、なかなか美しい種である。前記の「日本のスミレ」には次のような記述がある。
「スミレサイシンの仲間は地味なものが多いが、アケボノスミレは例外で、日本のスミレのなかでもっとも華やかなもののひとつ。スミレの仲間としては珍しい鮮やかな紅紫色の花の色から、曙の空を連想してこの名がついた。」との説明がある。
「原色日本のスミレ」(浜 栄助著 1975年誠文堂新光社発行)には、このアケボノスミレは次のように紹介されている。
「【花期】 3月下旬~5月中旬
【分布】 北海道南部から東北の太平洋側、関東中部の中央部と太平洋側山地に多く、近畿、中国には少なく、九州の阿蘇山系では再び多くなる。阿蘇外輪山南部を南限とし、対馬を通じて朝鮮半島や中国東北部にかけ分布する。中部地方では標高300~1,900mにわたって見られるが、500~1,000mの山地やの草原や林縁など、向陽地から半陰地にかけて多い。」
日本産スミレ属の12の分布系列に関しては、アケボノスミレは種ではスミレサイシンの仲間ではあるが、スミレサイシンとは住み分けていて、前回とりあげたヒナスミレと同様「サクラスミレ型」に属し、東北日本に多産する型がこれにあたる。この仲間にはサクラスミレの他、ヒカゲスミレ、ヒナスミレなどがある。
念のため花後に大きく開いた葉の様子を見に出かけたが、形状からアケボノスミレに間違いないと確認できた。
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