軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

Karuizawa Foto Fest 2024(4)フォト考

2024-05-24 00:00:00 | 軽井沢
 今年開催されたKFF 2024の上位入賞作品のひとつに、フジバカマの畑の上を飛翔するアサギマダラの写真が選ばれ、そこには背後の太陽にピッタリ重なって、アサギマダラ特有の半透明な翅を通して光が漏れて美しく輝いている姿がとらえられていた。

 この写真の選評には次のように記されていた。

 「正直最後までこの作品を選ぶべきか迷った。理由は余りに奇跡的な一枚だからだ。・・・(選者は)いかに蝶の撮影が困難か多少わかっている。この作品をもし狙って撮るならば、一体何万回シャッターを切ればよいのか想像がつかない。
 当然、真っ先にフォトショップ等での加工を疑った。いろいろ確認してもらったが、そのような形跡はないらしい。
 次に考えたのは撮影者がどこまで意図して撮ったのかという点だった。・・・最終的にはアーティストの意図や意思の結果である作品を評価したい気持ちがある。
 しかし一方、カメラという機械を用いて産み出される写真作品には、時として偶然性が映り込むし、それが写真というミディアムの魅力の一部でもある。
 色々考えた挙句、目の前の100万分の1の奇跡を、ここは素直に眺めたいと思い選んだ。(柿島 貴志)」

 続いて私の写真について。昨年のKFF 2023の入選作品のひとつに、浅間山の稜線に接するように満月を配した写真がある。

 この作品は入賞していないので、選評はない。ところが、思いがけず著名なプロの写真家氏から今回のアサギマダラの写真の場合と似たような趣旨の質問をいただくことになった。

 先々週の当ブログで紹介したことのある内容なので、詳細は割愛させていただくとして、この作品を写真絵葉書にしたものを、プロの写真家 J.E.A. さんにプレゼントするという機会に恵まれた。その時、この写真を見た彼女から、「これは実写作品ですか?」と尋ねられた。

 時系列的には、私の作品についての質問の方が先で、その後、前述のKFF 2024の入賞作品についての選評を入選作品集で読むことになったが、同じような時期にプロの写真家2氏から、写真作品に対してこうした質問あるいは疑問が提出されたことに、少し考えさせられてしまった。

 一昨年11月にChat GPTが登場して以来、生成AIに関する議論が持ち上がり、今も続いている。生成AIを用いて文章だけではなく、画像や動画も作ることができ、フェイク画像がニュースとして流され大きな社会問題になっているからである。

 私が受けたChat GPTの講習では、「夕焼け、ドラマチック」や「スケートをしている猫」といった言葉を入力して、それに近い画像を即座に作成するところを実演して見せていただいた。

 今回のKFF 2024 の応募要領にも次のように記されていて、現代は生成AIによる作品制作について言及せざるを得ない状況にあり、当然ながらそうした作品の投稿は認められていない。
 
 「軽井沢フォトフェスト2024(KFF2024)応募要領
  ご応募前に必ずご一読ください
 ■応募資格:プロ・アマチュア問わず、国籍も問わずどなたでも応募できます。
 ■撮影期間:2023年1月1日~2024年1月31日
 ■募集期間:2023年11月1日~2024年2月11日
 ■応募料:5枚まで無料 6枚目以降は5枚単位で2500円(6枚から10枚までは、1枚で
  も5枚でも2500円の追加費用が必要です。例:11枚の場合は5000円となります。)
  6枚目以降の応募は、1〜5枚目の応募と同じ様に応募をお願い致します。後日追加応
  募分の請求書を発行させていただき、指定の銀行口座への振込をお願い致します。
 ■応募作品の条件:対象撮影期間中に軽井沢町・御代田町・小諸市・東御市・嬬恋村、
  長野原町・佐久市、安中市のエリアにて撮影された作品であること。
  応募者が撮影し、一切の著作権を有しているオリジナル作品であること。

  生成AIにより作成した写真(全部、一部を含む)は応募できません。
  未発表か否かは問いません。個人のホームページやSNSに投稿された作品、写真展
  などに出品された作品も応募可能です。」

 このように、最近では、生成AIが登場したことで、日々こうした情報・状況に接する機会が多く、また写真画像の加工技術にも精通しているプロ写真家諸氏にとって、作品の制作と評価に際しては、どうしても心理的影響を与えていると思えるのであるが、写真作品が実際に撮影されたものか、あるいは何らかの加工が施されたものではないかという疑念は、必ずしも今になって始まったことではないという例もある。
  
 私の身近な人に関する話題で、もうだいぶ前の2015年のことになるが、Y新聞社の報道カメラマンである彼が撮影した満月(スーパームーン)の写真が新聞に掲載された。その写真は、画面に大きくとらえられた満月の中に、カップルが月を見上げながら、スマートフォンで自分たちを撮影している様子がシルエットになり映り込んでいるものである。

 この写真はネット上にも公開されたようで、数日後の日曜日のTV番組「サンデーモーニング」で話題になった。この時コメンテーターとして出演していたプロ写真家AS氏がこの写真を見て、「ダブリングではないんですか?」と発言した。司会の関口氏は「本物らしいですよ」と答えていたのが印象的で、今も記憶に残っている。

 この写真も、先の「アサギマダラと太陽」と同様、「若いカップルと満月」がピッタリと重なり合うように撮影されていて、こうしたシーンに出会うことは容易ではないことから、先のAS氏の発言が生まれたのであろう。

 もうひとつ、「10万分の1の偶然」という松本清張の長編小説がある。

 『週刊文春』1980年3月20日号 - 1981年2月26日号に連載されたもので、夜間、東名高速道路のカーブで、自動車が次々に大破・炎上する玉突き衝突事故が発生。この大事故を偶然撮影したというカメラマンの写真は、新聞社主催の「ニュース写真年間最高賞」を受賞するという筋書きである。

 受賞式では、この決定的瞬間の場面に撮影者が立ち会っていたことは奇蹟的、10万に1つの偶然と評された。

 しかし、この事故発生原因とその現場にカメラマンが偶然居合わせたということに疑問を持つものが現れる・・・という話である。(2021.3.12 公開当ブログ参照)

 最終的には、この事故は撮影者が引き起こしたものであることが判明するのである。写真そのものは実際に撮影されたものであるが、撮影対象になっている事故が、故意に引き起こされたというものである。

 普通にはありえないような状況を写し出した写真に出会うと、これを見た人には、プロの写真家でなくても、本物なのだろうかという疑問がわく。

 ここには2通りの疑問があって、写真そのものが実写されたものかどうかという疑問と、被写体が実在の物あるいは自然なものかどうかということになる。

 松本清張の小説「10万分の1の偶然」では、これが意図的に引き起こされた事故を撮影したという設定であるが、先に紹介した私のフォトコンテスト応募作品と知人の新聞報道の例は、すべて実写であることは間違いない。その経験から、今年選ばれたアサギマダラの写真も、実際の物を撮影したものに違いないとの確信を私は持っている。

 これは、プロであれアマチュアであれ、人は何のために撮影するかということと関係していると思える。

 松本清張の小説「10万分の1の偶然」の場合、このプロカメラマンには、誰にも撮ることができないような決定的瞬間を撮りたいという職業的動機が設定されているので分かりやすい。

 写真は「発見の芸術」だと、学生時代に写真部の顧問教師から教わったことがあり、それ以来私はそのことを胸に刻んで撮影してきている。自分が撮っている写真が、芸術的と思ったことはないのであるが。

 そうした撮影姿勢からは、合成写真や、生成AIを利用した写真という発想は生まれてこない。

 絵画であれば、どのように構図を決め、どのように構成要素を配置するか、どのように色をつけるかは作者の意のままである。しかし、写真はそうはいかない。望む構図があるとすれば、自らが動くか、じっとそのタイミングを待たなければならない。これが、写真が絵画と違っている点だと考えてきた。

 そういう意味で、松本清張が10万分の1という数値に込めた思いは、こうした極めて稀れな状況というものは、実際には偶然によって得られるものではなく、意図しなければ撮影できないということであろう。

 私は今年もKFF2024に浅間山と満月の写真を投稿し、選んでいただいた。この写真の場合についていえば、浅間山の山頂に満月が接する、いわゆるパール浅間の状態を、軽井沢町内(当初KFFでは撮影地を軽井沢町内に限定していたので)で撮影できるチャンスは年に12回程度の満月の日の前後2日くらいで、月の出または月の入りを狙うことになる。そして、日の出、日の入り、月の出、月の入りの暦と方位角情報を国立天文台が発表しているデータから得て、浅間山の山頂と撮影場所の関係を地図上で確認して撮影に臨むことになる。最後は天候に恵まれなければならない。

 アサギマダラの写真についていえば、アサギマダラの大群がフジバカマに集まってくる場所と日時などについての情報を得、周到に用意したうえで太陽の位置と撮影アングルを選ぶことで、一見、極めて稀にしか起きないようにみえる状況を、確実に捉えるための確率を大きく上げて撮影に臨んだ結果だと、選者も納得されたのであろうし、私にもそうした「決定的瞬間」を捉えた素晴らしい作品だと思える。



 

 

 
 

 

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