まつお文庫からのご案内

仙台市若林区中倉3-16-8にある家庭文庫です。水・土の3時~6時(第2土は休み)どなたでも利用できます(無料)。

新しく買った本② 3月

2022-03-11 14:47:53 | 文庫のページ
⑥『ケケと半分魔女 魔女の宅急便 <特別編その3>』 角野栄子/佐竹美保 福音館書店2022.1
 『魔女の宅急便その3』に登場したケケのことを覚えていますか。『魔女の宅急便その6』にも登場し、「半分魔女」という短い物語を書き、キキの息子トトからケケおばさんと呼ばれていました。その後、ケケは『半分魔女 もうひとつのものがたり』という長い物語を書きあげます。タタという15歳の女の子の物語です。ケケがどんな物語を書いたかどうぞ読んでみてください。
 4才で母を亡くし、父の溺愛から逃げるようにして旅に出たタタは時間が不思議に交錯する魔法の森にたどりつき、自分と同じように探し物をするノビノくんとヒロッコちゃんに出会い、3人はそれぞれに探していた大切なものを見つけます。タタは亡くなった母ミコさんからのバトンを受け取ることができたようです。すてきな自分探しの物語です。
 角野さんはケケのことがずっと気になっていたと言います。ケケは角野さんの分身かもしれません。そしてタタはケケの分身です。
『黄色い夏の日』 高楼方子 福音館書店2021.9
 キンポウゲの咲き乱れる不思議なたたずまいの古い洋館に心惹かれる人たちの物語です。
 今この洋館に住むのは80才の小安津艶子(こやつつやこ)さん。この洋館を描いてみたいと密かに思う中学生の景介と出会い、封印していたはずのこの洋館にまつわる子どもの頃の出来事を小安津さんは思い出していきます。景介は時を超えてその出来事に立ち合うことになり、物語は一気にミステリアスに展開します。
 景介を心配してこの洋館を訪れた幼馴染の晶子もまたこの洋館に魅力を感じ、小安津さんともすてきな出会い方をしていきます。晶子のまっすぐな心の持ちようはまるで子どもの頃の小安津さんを見ているようで興味深いです。小安津さんとの出会いを通して中学生の景介と晶子はそれぞれにすてきな夏を体験し成長していく物語です。
 高楼さんは『緑の模様画』でもお年寄りと10代の少女たちとの交流をすてきに描いています。
⑧『ありがとう 絵本作家・田畑精一の歩いた道』 編/『ありがとう 絵本作家・田畑精一の歩いた道』実行委員会 童心社2021.6
 『おしいれのぼうけん』や『さっちゃんのまほうのて』などたくさんの絵本で知られる田畑精一さんは2020年6月7日、89才で亡くなりました。田畑さんが亡くなったあと、親しかった絵本作家や編集者の方たちが実行委員会を作り、2021年6月に追悼展を開き、この本を刊行します。絵本作りの中で語られた田畑さんのすてきな言葉にたくさん出会えます。その根っこにあるのは子どもの頃の戦争体験で、再び戦争を起こしてはいけないという田畑さんの強い思いに触れることができます。最後の絵本になった『さくら』と合わせて、その言葉をかみしめたいと思います。
 仙台で2度、田畑さんをお招きして講演していただいたことを懐かしく思います。『さっちゃんのまほうのて』や『ゆうちゃんのゆうは?』の原画も見せていただき、一枚の絵に、一冊の絵本に長い時間をかけ、心を込める田畑さんの姿に感動したのを覚えています。
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新しく買った本① 3月

2022-03-11 09:47:06 | 文庫のページ
①『ニューワと九とうの水牛』 小野かおる 福音館書店2007.1
 中国桂林の伝説をもとにできた絵本です。
 山奥の村にやってきた身寄りのない男の子が村人に育てられ、立派な若者に成長し、竜宮の竜王の娘と結婚して幸せになるという物語。
男の子はニューワと名づけられ、9頭の水牛の世話をします。日照りの時も水牛のために草を求めて奔走するニューワの優しさが竜王の娘の心をとらえ、日照りの時に二度もニューワを助けます。娘と竜宮で暮らすことになるニューワの気がかりは9頭の水牛のこと。不思議に満ちた結末が感動的。
 美しい色づかいで描かれた絵は素晴らしく、太陽の強烈な橙色も水牛たちの黒も印象に残ります。
②『けんちゃんのもみの木』 美谷島邦子/いせひでこ BL出版2020.10
 1985年8月12日の日航機事故から35年が経つ2020年に出版された絵本です。事故では529人の尊い命が犠牲になりました。美谷島さんも9才の息子さんを失います。
 あれから35年、美谷島さんの中ではけんちゃんはずっと9歳のままです。けんちゃんを探して迷子になってしまったお母さんの心が語られます。幼い息子を突然失った深い悲しみの中から紡ぎだされた魂の叫びのような言葉が心に響きます。それに寄り添うように描かれた伊勢さんの絵も心に残ります。長い時間の中で悲しみが次第に浄化され、心の平安を取り戻していく美谷島さんのようすをすてきな色づかいで悲しくやさしく描きだします。特に群青の色で描かれる世界が感動的です。
③『きたきつねとはるのいのち』 手島圭三郎 絵本塾出版2021.4
 1年に1冊のペースで作り続けてきた手島圭三郎さんの40作目の木版画の絵本です。
 40年間、北海道の厳しい自然の中で生きる生きものたちを木版画でダイナミックに描いてきました。NHKの日曜美術館で85歳の手島さんがこの絵本を制作している様子が放映され、手島さんはこれが最後の絵本とおっしゃっていました。
 3月、まだ森は深い雪に埋もれていますが、春はもうすぐそこまで来ているようです。食べ物を探しに巣穴を出たきつねの父さんは森のあちこちで厳しい冬を生きぬいた生き物たちの喜ぶ姿を目にし、春の訪れを感じます。そんな森のようすが木版画で美しく力強く描かれ感動的です。
④『旅の絵本 Ⅹ』 安野光雅 福音館書店2022.1
 『旅の絵本』10冊目はオランダ編です。安野さんが亡くなったあとアトリエから見つかり、原画に残された地名や解説文をもとに、できあがります。運河と風車とチューリップの国オランダの様々な町が美しく描かれています。表紙と裏表紙に描かれているアムステルダム駅も美しいです。
 安野さんが影響を受けたエッシャーが生まれたのもオランダです。レーワルデンという町です。ゴッホはズンデルトという町で、フェルメールはデルフトという町で生まれています。アンネ・フランク ミュージアム(戦争中アンネが家族と一緒に隠れ家生活をしていた家)やゴッホの跳ね橋も見つけることができます。江戸時代に太平洋を渡ってアメリカへ行った咸臨丸が作られたキンデルダイクという町も描かれています。オランダには何度も足を運んだという安野さんの解説がおもしろく興味深いです。
⑤『あの湖のあの家におきたこと』 トーマス・ハーディング/ブリッタ・テッケントラップ 落合恵子訳 クレヨンハウス2020.11
 1927年に湖のほとりに建てられた一軒の木の家の物語です。コラージュによる不思議な味わいのある絵がこの家の持つ歴史を印象深く伝えてくれます。ドイツで本当にあった話を元にしています。
 この家は作者の曽祖父アルフレッド・アレクサンダーが建てた家で、曾祖父の家族は週末をこの家で過ごしていました。しかし平和な時代は続かず、ナチスが権力を握るとユダヤ人だった曽祖父の家は没収され、一家はドイツを脱出しロンドンへ逃げます。
 その後さまざまな人がこの家に住みます。家はそんな人々の喜びと悲しみを見続けてきました。第二次世界大戦中のナチスの時代もベルリンの壁が作られそして崩れた時代も知っています。
 2013年、この家をひとりの若者が訪れ、荒れ果てた家を再生します。その若者がこの絵本の作者です。今、その家は「アレクサンダーハウス」と呼ばれ、教育やレクリエーションを行うセンターとして使われているそうです。昨年11月、来仙した落合恵子さんのサインが入っています。
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