久々にTV放映(BS)されたのを楽しく観ました。
今更何を書くのかって言われそうな名作・・・そう、世界のクロサワ監督作品です。今回、改めて観て私にとっては新しい発見があったので、それを書くことにします。
ストーリーは改めて言うまでもないシェイクスピアの『マクベス』です。
※『マクベス』を戦国時代に翻案した『蜘蛛巣城』
※蜘蛛巣城 予告篇
映画はまず蜘蛛巣城址のシーンから始まります。荒れ果てた土地に立つ『蜘蛛巣城址』と書かれた1本の標・・・。
〽見よ妄執の城の址、魂魄いまだ住むごとし、それ執着の修羅の道、今も昔もかわりなし
この唄でシーンは500年前にタイムスリップ(?)します。霧が晴れると蜘蛛巣城が眼前に現れるのです。この『蜘蛛巣城址』のシーンは映画の最後にも現れます。全てが終わった後、時代もまた現代に戻るワケです。
何か気が付きませんか?実はこの映画は、世阿弥が完成させた夢幻能の構成をとっているのです。
夢幻能の筋立ては『旅の僧など(ワキ)が名所旧跡を訪れると、前シテがあらわれて、その土地の物語をします。前シテが消えると、先程の物語の主人公がシテとして登場し、自らの思いを吐露して語り舞います。語り終えたシテが消えると、あたりが明るくなり、全ては夢の中のことであったように思われる』というものです。
※夢幻能の代表作『井筒』・・・『筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに』
そう思って観れば、映画全体を通して感じられる様式美は、能の世界に通じるものがあるようです。
奥方の浅茅(マクベス夫人)を演じるベルさん(山田五十鈴)の化粧は能面を意識したもので、物語前半は小面の面、後半になると般若の面を連想させるものに変わっていきます。
※手についた血を洗い落そうとするマクベス夫人『大海原をインカーナダインに染めて・・・』
物の怪が予言を告げるシーンは能の『黒塚』を思わせる糸車を回しながらの語りで、あの『〽昔を今に返さんと・・・』の詞で有名な場面そっくりです。
※物の怪がマクベスたちの未来を予言する『よう来られたマクベス殿、いずれは王ともなられるお方』
この映画は『隠し砦の三悪人』とともにジョージ・ルーカスがSWシリーズを撮る際に参考にしたと言われますが、千秋実が亡霊を演じるシーンで私は、肉体を消滅させたジェダイを連想しましたねー。
※恨めし気な亡霊がマクベスの前に立ち現れる。
見せ場は『バーナムの森がダンシネインに来る』のを見た後のシーンで、物の怪に騙されたことを知った鷲津武時(三船敏郎)に、裏切った味方から無数の矢が射掛けられます。どうやって撮影したのか、危険じゃないのか、今観ても絶妙な特殊効果が使われています。
※CGでも難しい、無数の矢が至近距離で突き刺さるシーンは圧巻です。
もちろん騎馬シーンの素晴らしさは言うに及ばずです。機会があればぜひご覧になってください。
※速駆けに駆ける軍馬の響きわが胸を撃つ(←これは皇帝ネロの台詞ですがピッタリです)
今の映画よりもズッと楽しめます。