10月30日、ブルーノート東京にて、カマシ・ワシントンのライヴを観てまいりました!!
今年3枚組の超大作「THE EPIC」をリリースし話題沸騰の“LAジャズの最重要人物”ことカマシ・ワシントン。その「THE EPIC」の中核メンバーを率いて、ソロ名義では初の来日となる今回のブルーノート東京公演。私はその初日、2ndショーを観てまいりました。
メンバーは以下の通り。
Kamasi Washington(sax) カマシ・ワシントン(サックス)
Patrice Quinn(vo) パトリス・クイン(ヴォーカル)
Ryan Porter(tb) ライアン・ポーター(トロンボーン)
Brandon Coleman(key) ブランドン・コールマン(キーボード)
Miles Mosley(b) マイルス・モズレー(ベース)
Tony Austin(ds) トニー・オースティン(ドラムス)
Ronald Bruner Jr.(ds) ロナルド・ブルーナーJr.(ドラムス)
もちろん全員が「THE EPIC」参加メンバーですし、ヤング・ジャズ・ジャイアンツとか、ネクスト・ステップとか、ウェスト・コースト・ゲット・ダウンとか、そんなカマシ・ワシントン周辺の強力メンバーがこぞって参加した今回の来日公演。カマシが凄いのはもちろんですが、まるでバンドが一つの生き物と化してブラック・ミュージックの新しい時代へ飛翔していくかのような、とんでもないライヴでした!
開場時、私の整理番号は7番だったのですが、席の案内係の方に、前方の席希望の旨を伝えると「本日、音が大きめの公演になっておりますが大丈夫ですか?」なんて言われる。その言葉にビビった訳ではありませんが、最前列は避け3列目の中央ど真ん中辺りの席に着席。確かに決して大きくはないステージに2台のドラムセットが鎮座する様はそれだけで迫力満点。ワクワクしましたね。
そして開演予定時刻を15分程過ぎた頃、いよいよ客電が落ち、カマシとその仲間達が登場。挨拶代わりにドーン!と音をぶちかまし、1曲目「Askim」が始まる。中盤、ライアン・ポーターのクールなトロンボーン・ソロからカマシのテナー・サックス・ソロへ。ゆったり吹き始め徐々にテンションを上げていくカマシ。それにブランドン・コールマンがウニョウニョとしたファンキー且つサイケデリックなキーボードで呼応し、ロナルド・ブルーナーJr.とトニー・オースティンのツイン・ドラムも激しさを増していく。特にロナルド・ブルーナーJr.は舌を出しながら阿修羅のごとくフィルを連発。そしてカマシのテナーは留まることを知らぬがごとく、とんでもない高揚感で上がっていく。凄まじいスピリッツ。凄まじい音塊。これがカマシ・ワシントンか!!堪りませんね~!!そしてこのキーマンはブランドン・コールマンでしょう。彼が明らかにジャズを逸脱した変態的プレイでぐいぐいと異世界に導いていく。
のっけから15分を超える長尺曲が何度目かのピークを迎えようやく収束する頃、ほぼ切れ目なく「The Next Step」へ。緩やかに静かに彷徨うがごとくカマシのサックスは、まるで「Askim」のコーダが永遠に続いているかのようでもある。そんな崇高なカマシの後ろで、ブランドン・コールマンはやはり相変わらずウニョウニョです。しかしそのウニョウニョがこの曲の神秘性を見事に演出。そしてそのままブランドン・コールマンのキーボード・ソロへ。
ブランドン・コールマンはショルダー式のムーグを操り、ジワジワとその密度を増していき、みるみるうちにトップギアに。ウニョウニョはいつしかバキバキのハードロック的攻撃性でフロアを支配し始める。そして後ろを振り返り、ベーシストのマイルス・モズレーを指差しながら何やら「ガー!ガー!」と叫び始める。それを合図にバンドも勢いを増し、その勢いに乗ってさらに常軌を逸した鍵盤プレイを繰り広げるブランドン・コールマンに観客達も拍手喝采!! いや~、もう凄いのなんのって!!
この時、ブランドン・コールマンこそ、このカマシのバンドをジャズであってジャズではない何か新しいブラックミュージックたらしめている、その存在そのものだと多くの人が感じたことでしょう、この時は。ですがそれもすぐにリセットされてしまうのがこのバンドの凄いところ。
続いてマイルス・モズレーをフィーチャーした「Abraham」。正直な話、カマシ・ワシントン一派のベーシストと言えばサンダーキャットであり、失礼ながらマイルス・モズレーには2番手的な印象を持っていました。しかもウッドベースなので、一見、最もジャズ的なプレイをしそうなのですが、この人のベース・ソロがまたとんでもなかった。まるで速射砲のように弦をはじき、妙なエフェクトをかけてこちらもウニョウニョなエグ味濃厚。さらに弓弾きも交えて異空間を描き出す。しかもベースソロだけでなく彼がリードヴォーカルも務めるこの曲はとてもファンキーでヒップホップ的。このセットの中でもかなり個性際立った瞬間でした。
そしてさらに圧巻だったのが、スペシャル・ゲストにカマシの実父リッキー・ワシントンを迎えての「Re Run Home」。「THE EPIC」収録曲のアップテンポ曲ですが、それをさらにテンポアップし、ファンク度も増しているという鬼アレンジ。ツインドラムとベースラインが一丸となってとんでもないスピード感で押し寄せてくる。さらにそれへ加速を与えるかのようなブランドン・コールマンの鍵盤がやたらファンキー!! そしてそれに乗るホーン・リフの疾走からカマシのキレッキレなサックス・ブロウがまた半端ありませんでしたね。全くもってどこまで上がっていくのか見当もつかない高揚感の爆発!!これがジャズなのか!?
そして雪崩のようにツインドラムのソロへ。ロナルド・ブルーナーJr.とトニー・オースティン、両雄譲らず。相手のさらに上へ、そのさらに上へと掛け合いを繰り返し、最終的にはまるで地響きのようになっていました。こんなクレイジーなドラム・ソロ観たことありません!! いったいなんて言う人達なんでしょう。もちろん観客達も沸きに沸く。個人的にはロナルド・ブルーナーJr.の阿修羅振りにとことんやられましたね。
そして最後はパトリス・クインが歌う「Malcom's Theme」。決してパワフルなタイプではないシンガーですが、とても力強い、心に刺さる歌声でしたね。ニューソウル的な秘めたるブラック・パワーから感極まったような絶叫は、そのままフリー・ジャズのような混沌を生み出し、それは終盤に向けてカマシを中心にスピリチュアルな宇宙へと深化していく。そして全てを包み込むように終焉へ。
濃密すぎるおよそ1時間30分、至る瞬間でブラック・スピリッツの爆発を繰り返すような、まったくもって凄いライヴでした! ジョン・コルトレーンやファラオ・サンダースのスピリチュアルも、サン・ラの宇宙も、フェラ・クティのアフロも、ファンカデリックの混沌も、フライング・ロータスの先鋭も、ブラックミュージックのありとあらゆるエッセンスを飲み込み、昇華し、そして新たな扉を開けようとする、そんなパワーが漲った凄まじいステージ。
カマシ・ワシントン、来日する度に観に行かなければならないアーティストがまた一人増えました。
01. Askim
02. The Next Step ~ Keyboard soro
03. Abraham ~ bass soro
04. Re Run Home ~ drum soro
05. Malcom's Theme
ブルーノート東京入口に掲げられたサインには、「カマシは日本が大好きです」と、おそらくカマシ自筆の日本語で書かれていました。
今回の公演オリジナルのカクテル。ここにも日本語が!っていうかカクテルの名前が「平和大使」ですからね。よっぽど日本語が気に入ったのでしょうかね?