<表現というものは、一度「自分」を消して、その後で改めて構築される。だから、古典芸能の中で「自分を生かしたなにか新しいことをやろう」というのは、シロートの発想である。古典芸能で「新しいこと」をやりたかったら、まず「やる側」の主体を消すことから始めるしかない。「新しいこと」は「やる側」にはなくて、「やられる側」の古典芸能が持っているものだからである。(中略)「自分のやるべきこと」は、「自分」なんかよりもずっと寿命が長い。昨日今日のポッと出である自分の主張なんかよりも、自分の前に存在しているものの「あり方」を尊重していた方が、ずっと確実である。だから私は、「自分」よりも「自分の外にある本来」を信用する。信用して、しかし言いなりになるかどうかはまた別の話で、もしかしたら私は一度も「自分の外にある本来性」の言いなりになったことはないのかもしれない。(中略)
本来性というのは支配者ではなくて、存在に関するフレキシビリティである――私はそのようにしか考えないから、本来性というものは、「自分を活かしてくれるもの」である。それの番人になって、ただ「本来性」として守られるためだけに存在している本来性を守ってもしようがない。本来性は「自分」の外側にあり、そうである以上、「自分」というものは、常に本来性から排除されている。だから、一遍は本来性の中に入らなければならない。そのためには、本来性との間で違和を成り立たせる「自分」を、一遍殺さなければならない。そうやって、本来性と「自分」とを同化させて、「自分とは無関係に存在していた本来性」を、「自分を活かすための本来性」に変える――この“変える”プロセスが、「仏に会ったら仏を殺せ」である。私はそのようにしか考えない。(中略)つまりは、「意味を殺す」である。
「自分」の外側には、強大な「立ちはだかる」とも思えるような「意味を発散するもの」がある。つまりは、「幻想」である。「幻想だから壊してしまっていい」と思うと、「すべては幻想である」という接続パイプによって、なんにもなくなってしまう。もう少し冷静になるべきで、それが「幻想」でしかないのは、それが「こちらを排除する形で存在しているから」である。だから「入る」が必要になる。入って、「自分を排除していた要素」を殺す。「それが仏に会ったら仏を殺せ」である。そんなにめんどうなこととも思えない。>
(橋本治「橋本治という行き方 WHAT A WAY TO GO!」朝日新聞社2005/「自分」を消す」より)
橋本治という行き方 WHAT WAY TO GO!
¥1,470
<いま日本を代表する「知識人」となった著者の、もっとも重要なエッセンスが凝縮された一冊。9・11、イラク戦争、北朝鮮問題といったトピックを素材に、教養、批評、文化など、いま私たちがものを考えるためのヒントが、ぎっしり詰まった好著。><この国のあり方を少し考えた。どうにもならない構造を抱えてしまった大学、企業、そして日本という社会。この行きづまりの状況において、私たちが生きて行くためのヒントを、著者自らの立っている場所から提示する本格的なエッセイ集。>
登録情報
単行本:234ページ
出版社:朝日新聞社 (2005/6/16)
ISBN-10:4022500387
ISBN-13:978-4022500380
発売日:2005/6/16
商品の寸法:19.5 x 14 x 2.5 cm
本来性というのは支配者ではなくて、存在に関するフレキシビリティである――私はそのようにしか考えないから、本来性というものは、「自分を活かしてくれるもの」である。それの番人になって、ただ「本来性」として守られるためだけに存在している本来性を守ってもしようがない。本来性は「自分」の外側にあり、そうである以上、「自分」というものは、常に本来性から排除されている。だから、一遍は本来性の中に入らなければならない。そのためには、本来性との間で違和を成り立たせる「自分」を、一遍殺さなければならない。そうやって、本来性と「自分」とを同化させて、「自分とは無関係に存在していた本来性」を、「自分を活かすための本来性」に変える――この“変える”プロセスが、「仏に会ったら仏を殺せ」である。私はそのようにしか考えない。(中略)つまりは、「意味を殺す」である。
「自分」の外側には、強大な「立ちはだかる」とも思えるような「意味を発散するもの」がある。つまりは、「幻想」である。「幻想だから壊してしまっていい」と思うと、「すべては幻想である」という接続パイプによって、なんにもなくなってしまう。もう少し冷静になるべきで、それが「幻想」でしかないのは、それが「こちらを排除する形で存在しているから」である。だから「入る」が必要になる。入って、「自分を排除していた要素」を殺す。「それが仏に会ったら仏を殺せ」である。そんなにめんどうなこととも思えない。>
(橋本治「橋本治という行き方 WHAT A WAY TO GO!」朝日新聞社2005/「自分」を消す」より)
橋本治という行き方 WHAT WAY TO GO!
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<いま日本を代表する「知識人」となった著者の、もっとも重要なエッセンスが凝縮された一冊。9・11、イラク戦争、北朝鮮問題といったトピックを素材に、教養、批評、文化など、いま私たちがものを考えるためのヒントが、ぎっしり詰まった好著。><この国のあり方を少し考えた。どうにもならない構造を抱えてしまった大学、企業、そして日本という社会。この行きづまりの状況において、私たちが生きて行くためのヒントを、著者自らの立っている場所から提示する本格的なエッセイ集。>
登録情報
単行本:234ページ
出版社:朝日新聞社 (2005/6/16)
ISBN-10:4022500387
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