徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

キープオン/「世界最速のインディアン」

2008-07-10 06:06:08 | Movie/Theater
世界最速のインディアン
The World's Fastest Indian/2005/ニュージーランド=アメリカ
監督:ロジャー・ドナルドソン
出演:アンソニー・ホプキンス、クリス・ローフォード、アーロン・マーフィー。クリス・ウィリアムズ
<ニュージーランドで年金生活を送る63歳のバートは、21歳のときに出会ったバイク“1920年型インディアン・スカウト”を心底愛していた。手作りで改良を重ねた愛車で、アメリカのユタ州、ボンヌヴィルの大会に出場し、世界最速記録を樹立することがバートの夢だった。苦労の末、旅の資金を調達し、周囲の人々に助けられながら、競技会場に到着した。ところが、インディアンは前代未聞のポンコツ車だと笑われ、出場資格なしと宣告されてしまう…。>
シネフィルイマジカ

シネフィルイマジカで『世界最速のインディアン』。齢63にして、愛車の1920年製インディアンで1000cc以下のオートバイ陸上速度記録を樹立したバート・マンローを熱く描いた作品。
ニュージーランドからスピードの聖地を目指しアメリカを横断するバート。初めてボンヌヴィル塩平原(ボンネビル・ソルトフラッツ/Bonneville Salt Flats)に立ったバートはひとり語り始める。

「デカいことをしたかった。ほかの奴らに出来ないことを。それでここに来た。ここはデカいことが起こる場所だ。陸上のスピード記録はここで作られた。この場所でね。“ブルーバード”を駆ったマルコム・キャンベル、人類初時速483キロ突破。息子のドナルドは563キロで潰れたが、無事生き残った。ジョン・コップもここで時速643キロを達成。偉大な連中だ。ジョージ・イーストンと“サンダーボルト”、ミッキー・トンプソンと“チャレンジャー”……ここは神聖な土地なのだ。その聖地に今立ってる」

雄々しく語られるべき栄光の物語、そして人間がいる場所というのが聖地なのである。バイクとスピード(インディアン)への妄信とも言える深い愛情を、平原の風景と熱い言葉で描くこのシーンは実に美しい。
そしていつの間にか、トラブルに遭いながらも飄々とひとつの夢に向かって突き進むバートを演じるアンソニー・ホプキンスがオシム爺さんのように見えてくる(ナリも似ている)。

「整備不良だ」
「43年乗って俺は生きてる」
「年齢オーバーだ」
「バカ言え。顔にしわはあっても心はまだ18歳だ。走りを見りゃわかる」

残り時間を後ろから数え始めた途端、熱に浮かされたように少年の心を持つ中高年というのはいまどき少なくないが、バートはおそらく何ひとつ変わらないまま少年の心をキープオンし続けた。そして彼は自分の夢と信念を雄々しく(時々説教臭く)語るだけではなく、その夢を実現する優秀なエンジニアでもあった。オシム爺さんぽいでしょ。アンソニー・ホプキンスが脚本に惚れて出演を決めたというのもよくわかる。やっぱり深い愛情と熱い夢は持ち続けておいた方がいい。そのためのちょっとした努力と運さえあれば、変り者だろうが、貧乏だろうが、何とか生きていけるものだろう。

人間の価値は 誰がいつ決めるのだろう
どう生きたなのか どう生きてくのか?(仲井戸麗市

ということで。

そして参考資料。
「バート・マンロー スピードの神に恋した男」(ジョージ・ベッグ/中俣真知子他・訳)

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