
木曜日。ネイキッドロフトでマリノスの清さん主催の「新大久保アゲインスト・レイシズム サッカーと愛国―フットボールvsレイシズム―」。在特会の悪行を追い続けるジャーナリストの安田浩一さん、松沢呉一さんに加え、ピクシーとフットボールと旧ユーゴスラビアとその周辺で起こった<ヘイトの現場>を描いた名著『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』の著者・木村元彦さん、元日本代表監督イビチャ・オシムの通訳を務め、旧ユーゴスラビアにも長く滞在されていたジャーナリストの千田善さん、レッズサポーターのフリーライター小田嶋隆さん、そして途中客席からはサッカージャーナリスト、写真家の宇都宮徹壱さん、『アナキストサッカーマニュアル』翻訳者の甘糟智子さんが登場するという豪華なメンバーとなった。

(木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』東京新聞出版社/集英社文庫)

(木村元彦『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』集英社/集英社文庫)

(木村元彦『オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える』集英社インターナショナル)
本編は期間限定で公開されている模様なので今のうちに視聴してみてください。
新大久保 アゲインスト レイシズム サッカーと愛国 -フットボール vs レイシズム-(前編/ust)
新大久保 アゲインスト レイシズム サッカーと愛国 -フットボール vs レイシズム-(後編/ust)
そして司会の清義明さんのブログ。当日話した内容に加えて、おそらく話せなかった(話したかった)と思われる内容ががっつり書かれていますので必読。
くさいものにはフタをしろ!-初心者でもわかる在特会一派とカウンター活動-(清義明のブログ Football is the weapon of the future REDUX)
まずは前提。
サッカーの思想はボーダレスで、日本の片田舎で行なわれているゲームであっても常に「世界」とつながっている。それは背景にカルチャーの違いがあったとしてもボールひとつで「語り合える」共通言語を持っているからで、そこにサッカーの否定でしかないヘイトが入り込む余地はない。
Jリーグのほとんどのクラブには外国人プレーヤーが加入していて、またラグビーほどではないにしても、「日本人」だけで構成されているはずの日本代表には帰化選手が毎回のように参加している。サッカーという共通言語の前で日本人であること、日本である意味はそれほど重くはない。「違いがあること」それがサッカーの「豊かさ」を担保している(音楽だって、映画だって、文学だって同じ事だ)。
スタジアムでモンキーチャントのようなヘイトスピーチ(差別表現)が横行する欧州のシーンや、文字通り血を血で洗うようなヘイトの戦場だった旧ユーゴスラビアと日本の現状は勿論比べ物にはならない。しかし欧州にしてもヘイトスピーチに対する規制はまだ歴史が浅いという。だからこそ近年UEFA、FIFAでは差別反対に関して積極的なPRが行なわれている。
オレたちはゲーム前にテレビに映し出される、その<FIFA Say NO to Racism>という横断幕をどこか絵空事のように見ていないか。
翻ってみれば、直接「差別」という言葉ではなくとも、これまでも我が日本平スタジアム(IAI日本平スタジアム)には「人権」に関するバナーが掲示されていたし、配布物の中にそれに関するチラシもあった。
オレたちはそれを軽くスルーしている。2ちゃんねるあたりではそれを嘲笑するような書き込みも多く見た。
『空気の研究』ではないが<空気と安全はタダ>というのが日本の通り相場だったはずだが、いまやこれに「人権」を加えてもおかしくない。国会議員によって「生活保護」の思想が否定され、毎週のように排外デモが行なわれるこの日本で、生きる権利、平等に生きる権利は、それほど、残念ながら軽く、安っぽい(軽く見られて、安っぽく扱われている、と言うべきか)。
日本のスタジアムではヘイトスピーチ(差別表現)がほとんど見られない。しかし文字通りのヘイト(憎悪)=挑発はサポーターの習い性で、スタジアムでは揉め事がいくらでも起こる。2008年にサポーター同士が直接衝突したレッズ対ガンバ戦や、今年4月に4時間近くサポーターがスタジアムに軟禁されたレッズ対エスパルス戦のように挑発(または誤解)がエスカレートするケースも知っている。おとなしくて、従順な日本のサポーターの間でもヘイゼルやヒルズボロのような悲劇は起らないとも限らない。
一方で、そんな挑発を「ネタ」として、観戦のスパイスにしている事実も否めない。
小田嶋さんが言うように、サポーターはゲーム中だけはヘイトスピーカーなのかもしれない。
その意味でサポーターは挑発(ネタ)のエスカレートに対して自覚的で、スタジアムは高度に空気を読まなければならない空間でもある。「ある程度」の挑発は織り込み済、挑発をネタとして楽しみ、もはやゴール裏同士で挑発し合うことが名物になっているゲームは存在する。いくら2ちゃんねるに醜悪なヘイトスピーチが溢れていようとも、日常的に、スタジアムという現場でサッカー的な思考に触れているJリーグのサポーターは、良くも悪くも空気を読む。つまりある意味でマニア化、蛸壺化しているわけだが、それ故にエスカレートに関して「安全装置」も働くわけだ。
過激なコアサポーターはどのクラブにも一定数いる。Jリーグで最も動員力がありレッズが最も「過激」で「暴力的」であるのは、抱えているサポーターのパイが他クラブよりも巨大で、一般的であるということだろう。一般的になればなるほど、ヘイトの問題は顕在化していく。
ということで、目下の問題は「代表」ということになる。
いや、スタジアムという「現場」に行かない、ネットサポーターというべきか。
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