ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

波止場のエディ 気仙沼2005 Ⅵ 笑う魚

2021-03-04 21:12:44 | 波止場のエディ

 波止場では、時おり、不思議なものに出合う。
岸壁から、ふと海面を見下ろすと、大きなスズキが一匹、悠々と泳いでいる。じっと、その様子を窺っていると、ふっと、振り返り、ニヤリとわらう。
「魚が笑ったっていうの?冗談でしょ!」
 「いや、エリカ、その魚は、本当に笑った。俺は、嘘はつかない。嘘と下卑た冗談は、趣味じゃない。」
 「洒落たジョークは別、でしょ。」
 「洒落た洒落、じゃ、洒落にならない。」
 「で、その魚、どうしたの?」
 笑った魚は、そのまま、湾の外側へ、悠々と泳いで出て行った。振り返ることなく。

注)冒頭の見出し写真および写真中のコピーは加藤英一氏提供。


(付録)詩集寓話集(2011.1.31所収の詩 2編)

  さかなⅠ

おれは
何でもないさかなだ

種名も科名も
属名も
持たない

固有名詞など以ての外だ

おれは
何でもないさかなだ

人知れず
南の島の海辺を
泳ぎまわる

のうのうと独りで

おれは
何でもないさかなだ

誰もおれを名づけない
誰もおれを分類しない
誰もおれに話しかけない

のうのうと独りだ

おれは
何でもないさかなだ
なまえを持たないさかなだ
単なる一尾のさかなだ

青く透明な海水と
真っ白な砂と
椰子の木と
太陽と
雲と
しか見ない
単なる一尾のさかなだ

  さかな Ⅱ

ぎろりとした目付きの
グロテスクな
愛敬のあるとは言える
奇妙なさかなが
肩ごしに振り返る

さかなに肩が
あるとしての話だが


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