ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

波止場のエディⅠ 気仙沼2005

2021-02-27 21:38:26 | 波止場のエディ
 波というほどの動きもない穏やかな水面に、赤やオレンジや少しばかりの青の光が映っている。
 リアス式海岸の奥深い湾入の奥の奥、うらぶれた旧市街に囲まれた内湾の、湾口の島へ向かう航路の船着場に、トレンチコートの襟を立てた一人の男がたたずむ。
 「エディ、あなたは、いつもそうね…やさしいけど、冷たい。わたしの気持ちなんてわかろうともしない。」
 港にほど近い、ショット・バーのカウンターに先ほどまで並んで腰掛けて、ウイスキーの薄い水割りのグラスに手をかけたエリカの言葉を反芻していた。
 コートのポケットから吸殻入れを取り出すと、煙草の火をもみ消し、男は、波止場に背を向けて人通りのない街に消えて行く。

注1)船着き場は、当時、もちろん震災前、エースポートと呼ばれた。
注2)このショット・バーは、南町マンボ通りにあったダンヒルだったかもしれない。




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2 コメント

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Unknown (Jun)
2021-03-02 19:58:31
千田さん、懐かしいよ!こんなの書いてたなんて!
ハードボイルドだぜ👍
エディは波止場のバーの片隅で泣いてるぜ!👌
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ありがとう! (千田基嗣)
2021-03-02 23:19:31
junさん、有難う!エディは(人前では)笑わない。(人前で)泣くこともない。夜の波止場で一人きりで、一筋の涙を流すことはあったかもしれない。そして、何かを思い出したように、ふっと唇の端だけで笑う。
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