荒木久子さんの句集『花あかり』に寄せて
雪かきの巫女は天より下りたる
萩うねり波うねりけり鎌倉は
柊の花匂ふ日の茶会かな
冬桜喪中に婚儀整ひて
地震の後鳴かぬ蚯蚓となりにけり
鎌倉の谷戸に集まる大西日
繕うて母の日傘や海の街
七五三首降りて鳩歩きゆき
毛虫焼く女に迷ひなかりけり
雷鳴やベートーヴェン奇数シンフォニー
ふつつかものの私だけど、好きな十句を選ばせて頂いた。
特に、最初の「雪かきの巫女」の句に痺れた。この御句も天より下った句。
あと誤解を招きそうだが、「地震」の句で、怒りや嘆きなど感情の暴走なしに、
これほど静かに純粋に天災を受け止め悲しめたのは初めてかと思う。
結社『あかり』主宰の名取里美先生の序文も泣けた。
名取先生の言葉に、久子さんの一句、一句の中に、亡き杏子先生の香りと調べ。
本当に、本当に、懐かしく拝読した。
私の人生(と貯金)に余裕があれば、高田先生や名取先生の句会にも学びたいという気持ちがあるのだが、夫ニックが元気でチェロが弾けるうちは、一つでも多くの演奏会ができるように営業をまず頑張りたい。姉夏井いつきが、俳句の種まきを頑張っている間は、私も縁の下を支えて働きたい。
だから、時折こういう句集を手に取れる喜びはひとしおだ。
ところで、先月十一日のニックの銀座のコンサートに、藍生の句友がお越し下さった。
一人は巴里之嬬さん。ご夫婦で毎年来て下さる句友の友情。そして今年は、思いがけず素敵な女性が声をおかけ下さった。ワミレスコスメの顧客の心優しい美マダムのお一人かと思ったら、「藍生の……」と名乗られた。藍生誌でなじみあるお名前。「もちろん存じております」とお答えした。「ローゼンさんの演奏会を楽しみにしていました」と女性は続けた。
藍生の大会で叶いかけた、「福原彰美とバッハのガンバソナタを共演する夢」を、コロナで断念せざるを得なかった。
その後、杏子先生から、「中止ではなくて、延期。いつか実現しましょう」とお手紙があった。
その方は、ニックのコンサートが実現しなくて残念、と思って下さった句友のお一人だった。
その夜、私はいつにもまして、あたふたしていた。ニックが唇を切って出血あり、音友との再会あり、遠路はるばるお弟子あり。次女の誕生日を祝う夜で、初孫に会いにNYへ飛ぶ前夜であった。その場で、どれだけ感激したか、泣きたいほど感謝したか、気持ちをお伝え出来なかった。しかも、お名前を忘れてしまった。嗚呼。藍生集を読み返してみてもわからない。
そして今、この十句を選んだ時、チェロの句を見出した。
チェロ背負ふ女紫苑の高く揺れ
もしかして、あの女人は、荒木久子さんだったのではないか。違うかもしれない。違った場合は久子さんにも、来て下さった句友にも失礼になるけど、もしかしたらその方もこれを読んで、連絡してくださるかもしれない。
改めて。本当に、ありがとうございました。心の底からの、愛と感謝をお贈りします。色んな意味で、励まされました。
またお目にかかって、俳句と音楽の話ができたら素晴らしいだろう。来年に希望を繋いで、この日記を書き残すことにする。