Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

父と息子

2020年04月14日 06時03分59秒 | エッセイ
私自身もそうだったが、男の子は友人との間ではともかく、
家では口数が少なくなり、不愛想になる年齢期がある。
特に父親との関係がややこしくなる。
自我が確立してくる高校生、あるいは大学生ほどの年齢になると、
父子の会話はほとんどなくなり、時には激しく言い争うことさえある。
体はすでに父親をしのぐから、父親はその権威のみを
よりどころに従わせようとする。
それがまた反発を招くのだ。
この時父親は、自身がかつてそうであったことを忘れており、
また我が子が口答えできるほど成長したことに気付かない。
                
   何故そうなるのかは知らない。
   単に反抗期。または自我が確立してくると1人の男として
   父親の生き方に疑問を持ち反発する。
   あるいは、母親を巡り父親とはライバル関係になる──
   などともっともらしく語る人もいる。
   だが、いろいろと理屈を並べても、
   「間違いなくこうだ」という理由に行きつかない。

私は末っ子故だったのか、父から大変にかわいがられた。
父は登山やハイキングが好きで、いつも山登りに、キャンプにと連れて行った。
その帰り道、海水浴場で遊んだこともある。
小学3、4年生ごろまでの話である。
だが高校生になると、ほとんど話らしい話をしなくなってしまった。
激しく言い争った記憶はない。知らない間にそうなっていた。

   やがて私は親の手を離れ、独り立ち。
   父はといえば年をとり、病に伏せ、見る間に衰えていった。
   そんな父に私は、自分が優位に立ったことを知る。
   そして、父を憐れむ自分がいることに気付く。
   自身への自信、父への憐れみ──2つの思いが交錯する。
   間もなく父は他界。
   横たえられた父の顔にうっすらとヒゲが見え、
   頬や顎にそっと剃刀を当ててやる。
   父はもう、少しの温もりも、そして悲しみも残していなかった。