【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

血の思い

2009-04-14 18:38:37 | Weblog
 エホバの証人が輸血を受けることを拒否する、と聞いた時に私が思い出したのは「これは私の血、これは私の肉」というキリストの言葉です。エホバの証人はキリストの血や肉(「ヴェニスの商人」の論理を使ったら、血を含んでいるから肉も血と同等に扱ってよいでしょう)は拒否するということなんだろうか、と皮肉に思ったのですがそれはともかく。
 なぜキリストがわざわざ「血や肉」にこだわって言及したかと言えば、おそらくはユダヤ教に対するレジスタンスの表明でしょう。ユダヤ教では、神への捧げもの(生け贄)は灰になるまで焼き尽くすものでした(対して、共同体で分け合う生け贄は、こんがり焼いたら皆で食べるもの)。つまり神の名で「血や肉」を分け合うのは完全に「反ユダヤ教」の態度なのです。さらにキリストは、自ら血を流す状態で神に“捧げられ”ました。念には念を入れて「反ユダヤ教」が表明されています。
 釈迦はヒンズー教に異議を申し立て、選ばれたエリートのバラモンだけが解脱できることを否定しました。キリストも同様に、エリートのラビだけのものだったユダヤ教を否定しようとしたのでしょうか。彼らの思いがまっすぐ現代に伝わっていることを、彼らのために祈ります。

【ただいま読書中】
シュメル ──人類最古の文明』小林登志子 著、 中公新書1818、2005年、940円(税別)

 紀元前3200年頃シュメルの都市ウルクで文字が発明されました。ウルク古拙文字と呼ばれ粘土板にきざまれました(古代中国の文字は紀元前1300~1100年ころの殷)。紀元前2500年頃にはそれまでの表語文字に加えて表意文字が出現し、交ぜ書きも行われます。さらに葦の尖筆が使用されることで楔形文字が誕生しました。文字数は約600だそうです。ちなみに、現在のアルファベットのご先祖さまは紀元前11世紀のフェニキア文字がアラム語に取り入れられて22文字のアルファベットになったものだそうです。

 メソポタミアはティグリスとユーフラテスの二大河川に挟まれていたため、洪水伝説が古くからありました。紀元前3世紀の『バビロニア史』(バビロン市の神官ベロッソス著)には、クロノス神のお告げによって、すべての文書を埋め船に鳥獣を積んだクシストロスの伝説が紹介されています。ちなみに洪水が終わりかけた時に、クシストロスは鳥を三度放しています。「ノアの洪水」のご先祖ですね。それよりさらに1000年前の『ギルガメシュ叙事詩』(アッカド語)にも同様の大洪水伝説がありますし(エア神の助けを借りたのはウトゥナピシュティム)、さらにもっと前、紀元前2000年ころに粘土板に書かれたらしいシュメル語の大洪水伝説が発掘されています。
 主に作られた農作物は大麦で、そこからパン、さらにそこからビールが作られました。ただ、カスが浮いた濁り酒なので、ストローで吸っていたそうです。なんだか悪酔いしそうな予感がします。また農地が塩化しやすかったので、ナツメヤシも多く作られていました(ナツメヤシが塩害に強いことは以前別の本でも紹介されていましたね)。ちなみに乾したナツメヤシの実がデーツ(お好みソースなどの材料)です。
 ハンコも使われていました。それも「転がすハンコ」です。円筒印章と呼ばれ、筒の外側(日本のハンコだったら持つところ)に印面が刻んであってそれを粘土板にころころ転がすものです。これだったらいくら広い粘土板でもどこまででもハンコが押せます(目的は内容の改ざん防止)。正倉院文書に墨書きの上に天皇御璽の朱印が前面にぺたぺた押されたのと、「ハンコを押す」ことの発想(改ざん防止)が同じなのが笑えます。
 シュメルの法典と言えば紀元前18世紀のハンムラビ法典が有名ですが、それより前今から4000年前にウルナント法典があります。これは、殺人と強盗は死罪ですが、傷害は銀で賠償となっています。男奴隷と自由民の女性の結婚も許されており、身分制度がやや緩やかだった様子です。ただ、もちろん身分の差はあって、処女を強姦した場合、その女性が自由民だったら犯人は死罪ですが、女奴隷だったら銀で賠償です。

 この人類最古の文明の跡地が、現在のイラクです。そこにアメリカ(世界で最新の文明)が攻め込んだイラク戦争は、歴史の観点から見ていると、なんだか複雑な気分になってきます。