【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

空気が読めない/『ライ麦畑でつかまえて』または『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

2009-04-16 18:43:41 | Weblog
 空気しか読まない人は(空気ではない)実体は読まない、ということで、さらに、空気しか読まない人は真空(つまりは宇宙規模のこと)も読めない、ということかな。さて、そんな人の頭の中には何が詰まっているのでしょう。空気?

【ただいま読書中】
ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー 著、 野崎孝 訳、 白水Uブックス、1984年(92年54刷)、806円(税別)

 成績不良でペンシー高校を退学になった主人公が過ごしたクリスマス前後の二日間を描いた作品です。友達と遊びに行き、下らない口げんかをし、一人でホテルに泊まり、売春婦を買って失敗し、酒を飲み、女友達と遊び……それだけです。
 発表当時、1950年代の若者の言葉を活写した、ということでも話題になったそうです。それが正しいかどうか私には確認しようがありませんが、読んでいてずいぶん砕けた口調であることは分かります。ただ、1970年代に読んだ時には、私の実年齢とあまりに近すぎたせいでしょう、あまり感銘を受けませんでした。なんというか「(若者としては)普通の反応じゃないか」という感じでした。

 「若者ことば」と言って私がすぐ思い出すのは『時計じかけのオレンジ』(アントニー・バージェス)です。また、1950年代の青春群像だったら私が想起するのは「ウエストサイドストーリー」。ただ、あちらでは最近のアメリカ映画で満ちあふれている4文字言葉はなかったように私は記憶しています。みなさん(今の基準からは)ずいぶん穏やかに悪態をついています。

 主人公が何をやっても上手くいかない様子を、解説は「若さゆえの未熟」とし、著者は結局精神障害オチとしています。
 ただ、本書で描写されている主人公の様子をまとめてみると……コミュニケーションが苦手・他人はすべてバカだと思っている・数字が苦手・計画性が病的にない・細かいことが非常に気になる・感情のコントロールが苦手(すぐ気分が変わる・すぐカッとなる・感情の振幅が大きい・笑い声が非常に大きい)・体の使い方が下手(すぐに躓く)・集中力欠如・注意散漫……ここまで列挙すると、古典的な精神病というより広汎性発育障害の方ではないか、と私には思えます。ただ、著者が本書を書いた頃にはまだその概念は存在しなかったはずで、だとするとここまで詳細に書けたのはなぜか、とそちらの方が気になります。

【ただいま読書中2】
 昨日日記を書かなかったし、たまには一挙2冊アップをしてみましょう。
キャッチャー・イン・ザ・ライ』J・D・サリンジャー 著、村上春樹 訳、 白水社、2003年、1600円(税別)

 新訳です。
 タイトルを見て、どうも語呂が悪いのが気になります。どうして最初の「ザ」を抜いたのでしょうねえ。あった方が語呂が良いのに。さらに「ライ」と言われると「Rye」よりも「Lie」を私はまず思ってしまいます。日本人だからでしょうねえ。
 文体そのものは昨日の野崎さんのよりやや幼い感じに訳してあります。高校生をやっているふりをしている中学生の一人しゃべり、といった感じ。幼い分、主人公の饒舌ぶりの滑り加減が良い味になっていますが。

 原題は“The catcher in the rye”で、本書に登場する歌のタイトルだそうです。直訳したら「ライ麦畑でつかまえて」じゃなくて「ライ麦畑の捕まえ手」かな。