【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

フィルター/『マライアおばさん』

2009-04-21 18:42:35 | Weblog
 たばこのフィルターって、結局何のためにあるのでしょう? 口に葉っぱが入らないためだったらもっと短い(それこそ紙1枚分の厚みの)もので必要十分でしょう。煙の成文を吸着させさらに周囲から空気を取り込むことで煙を薄めてマイルドにする機能もあるそうですが、それは、せっかくの美味い酒を水でじゃぶじゃぶ薄めてさらにフィルターを通してから飲む行為と類似のような気がします。愛煙家にとって、フィルターはどんな意味を持っているんでしょうねえ。

【ただいま読書中】
マライアおばさん』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著、 田中薫子 訳、 佐竹美保 絵、徳間書店、2003年、1700円(税別)

 ホラータッチで本書は始まります。
 父親が車ごと海に転落して行方不明となってしまった一家(母親のベティ、兄クリス、そして本書の語り手ミグ)は、父親の義理のおばマライアさんの家で休暇を過ごすことにします。ところがマライアおばさんは、善良で体が不自由な女性なのですが、ことばでは命令をせずに命令をする名人でした。本当は自分でできることも人(ほとんどはベティ)にやらせます。それもまるで恩恵を与えてやっているような態度で。さらに人に良心の呵責を感じさせる名人でもあります。ミグやクリスはそのことに苛つきますが、母親は礼儀正しさのあまり言い返すこともせずに言いなりになっています。町は寂れていました。子どもの姿は無く、住民は姿をほとんど見せず窓から外を見張ってる様子です。ただ、マライアおばさんの子分格の女性が毎日おばさんの家で集会を開きます。全員で13人。ちなみにマライアおばさんの家は13番地。毎晩クリスの部屋には幽霊が出ます。妙に人間っぽい猫がうろつきます。
 やがてクリスは狼に姿を変えられ、ベティはクリスのことを忘れていきます。ミグはあせります。このままでは大変だ、と。さらに狼狩りが行われ……
 本書は(基本的には)ミグが鍵つきの日記帳に書いた日記の体裁で進められますが、ミグは毎日きちんと書くわけではないため、「実際の事件の進行」と「日記に書かれた事件の進行」とが必ずしもパラレルではなく、それが事態を混乱させます。さらに別のことが起きて事件の時系列がさらに混乱します。(ヒントを一つ。マライアおばさんはミグのことをネオミと呼びます。これ、重要な伏線です)
 しかし、こんな「マライアおばさん」は世の中のあちこちに棲息しています(著者は実在の人物をモデルにしたそうですが、私も何人かすぐ思いつきます)。善意の塊で、傷つきやすく、押しつけがましく、人の言うことを聞こうとせず、人や物を自分との関係性の中でだけとらえ、他人を操作する達人。いやもう、このマライアおばさんの“手口”を見ていると、感心します。そういえば何か他人に無理を通すのに、最初にもっと無理を持ち出して「ノー」と言わせてからそこに“値引き”した要求(本来の要求)を持ち出したら、「ノー」と言ったことが心の負い目になっているために「前のよりも相手も妥協したのだから」と合理化して「イエス」と言ってしまう、という心理操作テクニックがありましたっけ。マライアおばさんはさらにその上を行っていますけれど。