【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ゴスペル・ヴィヴァルディ

2010-10-01 18:40:42 | Weblog
昔のコマーシャルで「夜中にどうしても食べたくなるもの」は何でしたっけ?ではなくて、急にヴィヴァルディの「グロリア」を聞きたくなりました。とりあえず一番手っ取り早いiTunesMusicStoreから適当にダウンロードしました。で、聞きながら口ずさんでいたら「これ、ゴスペルにできる」と気がつきました。もちろん上手く編曲する必要はありそうですが、「Propter Magnam Gloriam Tuam」なんかほとんど手を加えなくてもそのままゴスペル風に歌えそうです。「ジャズ・セバスチャン・バッハ」の向こうを張って「ゴスペル・ルーチョ・ヴィヴァルディ」。実はもう先例があるのかもしれませんけれどね。

【ただいま読書中】『ヴェルサイユ宮殿に暮らす ──優雅で悲惨な宮廷生活』ウィリアム・リッチー・ニュートン 著、 北浦春香 訳、 白水社、2010年、2400円(税別)

ヴェルサイユ宮殿は、はじめはルイ13世が猟のときに一泊する田舎の小さな館に過ぎませんでした。ルイ14世は大きく増改築し(7000万リーヴルかかったと推定されています)、宮廷をヴェルサイユに移転します。宮廷内部は手狭で(なんでも千人以上に対して居室は226しかなかったそうです)、「大共同棟」での共同生活や市中の住居を借りるように住宅手当の支給も行なわれました。いかし、いかに狭くとも「宮廷内に住む」ことは「名誉」でした。そのため、使える手段(寵愛、血縁、友人、請願書、手紙など)すべてを使って人びとは居室の争奪戦を繰り広げました。
食事も現代とは相当趣が違います。給仕が一人一人にサービスする「ロシア式サービス」は19世紀以降のもので、18世紀までは「フランス式」(メインの料理(ポタージュ、アントレ、オードブルなどがそれぞれ数種類ずつ)はすべて同時にテーブルに並べられました。ポタージュ(肉にソースが添えられたもの)の皿が空になるとロティ(ロースト)が出されます。アントレがなくなったらアントルメ、次いでサラダ、果物、タルトやケーキ、もう食卓は豪華絢爛です。当然残り物が大量にでます。それは特定の官僚や使用人のためのものでした。それでも余ったものは小売人(食膳商)に売られて露天で一般人に販売されました(これは官僚の腐敗の温床となります。食品もよく腐っていたそうですが)。財政が逼迫するとこの“無駄遣い”にメスが入れられますが、それに最後まで抵抗したのがマリー=アントワネットだったそうです。そういったおこぼれにあずかれない多くの官僚には食事手当が支給されました。あちこちの居室には台所も設置されましたが、火災の危険がありさらにとても不潔な環境だったそうです。
もともと宮殿の周囲は不衛生な沼地で、ルイ14世は大金をかけて水利工事を行ないました。巨大な貯水池を作り、庭に多くの泉や噴水を工事したのです。しかし排水の悪さから、あたりは悪臭に包まれました。熱病も頻繁に流行します。街路にうずたかく溜まったゴミも悪臭に拍車をかけます。
ルイ14世時代にヴェルサイユには274個の椅子型便器があったそうです(王族専用です)。ルイ15世の私的な居室には水洗トイレが設置されました。使用人はおまるを使います。共同トイレもありますが数は足りず男女別もなく、床下から汚物がしみ出し換気は悪く……ああ、想像したくありません。おかげで隅という隅で立小便が横行、窓からは溲瓶の中身が放り投げられます。わお。
寒い冬には、暖炉やストーブが使われましたが、燃料は主に薪でした(炭は炊事用)。建物の断熱性は悪く暖房効率も悪く、家具が煤で燻されるだけです。さらに暖炉の煙突から雨が入ってきます。無許可で煙突を勝手に設置する(既存のものに接続する)ことが横行し、煙突の断面積はどんどん小さくなり、火災の危険が増します(実際に火事がしょっちゅう起きていたそうです)。
照明は蝋燭でした。予算に従って蝋燭を供給するのは「果物係」(典礼のための小枝や果物の手配も行なっていたことからの名称です)。実入りの良い係だったため、この官職は金で取引されていました。また宮殿内で蝋燭は「貨幣」として通用していました。燃え残りの蝋燭も集められて取引されました。部屋は薄暗く、補助照明としてランプやカンテラ、さらには大きな鏡も用いられました。鏡? 反射光の利用です。大きなフランス窓も採光の面では人気がありましたが、大変高価なもので、さらに冬にはすきま風の嵐でした。
清掃についても状況は悲惨です。宮殿内や街路の掃除の不徹底、下水の詰まり、汲み取り槽の問題などなど……江戸時代に訪日した西洋人が「日本は清潔だ」と驚いたわけが具体的によくわかります。
そうそう、本書の最後は「洗濯」です。ヴェルサイユ宮殿で洗濯をして、どこに干したと思います?
「宮殿に人が住む」ということは、「着飾った貴族たちがうろうろする」ことだけではありません。具体的な「生活」がそこに存在するのです。ただ私は、本書を読む限りヴェルサイユ宮殿に住みたいとは思いませんでしたね。映画のセットや劇場の舞台に住みたいとは思わないのとほぼ同じ理由からですが。



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