【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ワークシェアリング

2010-10-15 18:24:38 | Weblog
日本では「残業をしないと食っていけない」と言われていたのに「ワークシェアリングをしよう」なんて不思議な運動が起きています。誰が何の目的でどんなアテがあって言っているんだろう、とわたしには不思議に思えます。限られた“パイ”をシェアしたら共倒れにならないのかな、と。
昔のフランスには「四分の一勤務」という制度があったことはこの前(10月1日)に日記に書いた『ヴェルサイユ宮殿に暮らす』に書いてありましたが(月の1週間だけとか、年間の一つの季節(3箇月)だけ勤務する制度)、さすがにこれでは生活が苦しくて二つ兼務する人がけっこういた、ともあるのですが、ともかく年の1/4あるいは1/2仕事をするだけであとは仕事をしなくても暮らしていけるだけの給料が出ていたわけです。これこそがおフランス流の「ワークシェアリング」でしょうね。

【ただいま読書中】『ゾウの時間ネズミの時間 ──サイズの生物学』本田達雄 著、 中公新書1087、1992年、660円(税別)

最初に結論が書いてあります。「様々な哺乳類で測定してみると、時間は体重の1/4乗(平方根の平方根)に比例する」。つまり、体重が16倍になるとその動物の時間の流れは2倍になる、と考えればつじつまが合うのです。寿命・大人のサイズに成長するまでの時間・日常の活動時間(心拍数、呼吸数、血液が体内を一巡する時間など)すべて、「大きなものはゆっくり、小さなものはすばやく」動いています。
サイズが大きいほど相対的に表面積は小さくなるので、恒温性の点で有利ですし、餓えや渇きにも有利となります。では「大きいことはいいことだ」かと言えば……たしかに進化の過程が進むとその種の最大サイズは拡大傾向がありますが、実は大きさの中央値はあまり変化しません。つまり「大きくなる」ことは「定向進化」ではなくて「種の多様性」なのです。
標準代謝量(絶食状態、暑くも寒くもない状態で安静、での酸素消費量)を比較すると、ネズミからゾウまで、「標準代謝量は体重の3/4乗に比例する」という法則が導かれます。サイズが大きくなっても1kgあたりで比較したら、大きな動物の方がエネルギーを使っていないのです。
面白い計算が載っています。「10トンの藁」があるとします。これを「体重が総計1トンの哺乳動物」が食べたら、種類に関係なく「0.2トンの肉」が新しくでき、「6トンの糞の山」が生じます。ただし、牛(体重500kgが2頭)だと藁を食べ尽くすのに14箇月かかりますが、ウサギ(体重2kgが500匹)だと3箇月です。ついでにこれがイナゴ(体重1gが100万匹)だと、9箇月で藁はなくなり2トン(200万匹)の新しいイナゴと6トンの糞の山が生まれます。
これからの食糧危機に対しては、牛はあきらめてイナゴですね。
体長1mmより大きな生物が生きる世界では「慣性力」が働いていますが、それより小さな生物の世界では慣性力より分子間引力の方が大きく作用します。レイノルズ数がちょうど「1mm」のところで意味が変わるので、生物は環境とのつきあい方をそこで変える、という面白い話が登場します。別に生物は「レイノルズ数」なんて知らないのですが。
身体を大きくするとプロポーションが変わることはガリレオがすでに述べています。四つ足動物の身体を伸ばすと背骨がたわみますが、それは「梁理論」で計算できます。柱を垂直に立ててどんどん延長すると重みで折れますが(座屈すると言います)、その限界も計算できます。これらから「骨の限界の長さは直径の2/3乗に比例する」ことが導き出されます。これは幾何学的相似ではなくて弾性相似です。この弾性相似では長さは重さの1/4乗に比例します。
おや、「1/4乗」って最初に出ましたね。ただ、なぜこの法則が成立するのか、それはまだ解明されていません。
相対性理論では、速度によって時間が伸び縮みしました。そして生物学では、身体の大きさによって時間が伸び縮みしています。これは途方もなく面白い話です。



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