【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

古典(2)

2010-10-21 18:43:23 | Weblog
昨日の予告で、今日は相対的な古典を取り上げる、としましたが、そこで読み始めたのが『幼年期の終り』(クラーク)でした。これは古手のSFファンにとっては「絶対的な古典」でもあるでしょう。20世紀なかばの本を「古典」と言って良いかどうか、一瞬私は考えますが、本書にはそう呼んで良い価値があると思えます。
ところが読み始めてすぐ「最近読んだぞ」警報が脳内に。「幼年期の終り」で読書リストに検索をかけたら出てきませんでしたが、「幼年期の終わり」で検索をかけたら2年前に読んでいることが判明しました。……く、くやしい。
あまりにくやしいので、読み切っちゃいましたよ。やっぱり面白いなあ。
で、続けて読んだのがこれです。たぶんこれは最近は読んでいないはず。

【ただいま読書中】『海底牧場』アーサー・C・クラーク 著、 高橋泰邦 訳、 1969年、早川書房

かつてのカウボーイに相当する「牧鯨者(ホエール・ボーイ)」であるバーレイは、宇宙航空士のフランクリンの訓練を担当することになります。明らかに異例の事態ですが、バーレイに対して説明は一切ありません。フランクリンは何かの事情で心に深い鬱屈(あるいは傷)を負っていました。しかしそのあまりの優秀さを惜しんだ上層部が、彼の再生への道として「海」を選んだのでした。
ここで印象的なのは、「海」と「宇宙」の相似と相違です。本書発表当時には、そのことをここまで生き生きと描写できた人はあまりいなかったはずです。正しい知識と厚みのある想像力を持つ人だけが、本書のような「宇宙」のイメージを重ね合わせた「深海」の生き生きとした描写ができたのでしょう。何を書いても結局宇宙に通じてしまっただけかもしれませんが。
放牧された鯨の群れと、それを襲う鮫やシャチ、鯨を守ろうとするホエール・ボーイたち。柵が破れプランクトン農場に入り込んでしまった鯨(畑に入り込んで作物をがつがつ食っている牛のような状態です)。マッコウクジラさえ殺す大イカの捕獲作戦。伝説の大海蛇の探索。海底地震。海中での“活劇”が続きます。海の中に退屈は存在しません。
やがてフランクリンは出世してしまいます。牧鯨局の局長に。しかしそれは現場からの引退でした。物語の舞台は海中から地上に移ってしまいます。
本書での鯨は「放牧された食料」です。反捕鯨団体の人が読んだら血相を変えるかもしれません。ただ、鯨の“ライバル”はプランクトンですので、どちらを食べたいか、と選択を迫られたら私は「肉」を選びそうです。で、本書の最後に「その問題」が登場します。「殺生を止めたらどうだろう」と。フランクリンはその対応に追われますが、そこに別の問題が浮上、というか海底で発生します。
そして最後は、やはり「クラーク」です。視線を宇宙と未来に向けて物語は終わる……あるいは、次の物語が始まります。子どもの頃にクラークに出会えて良かった、としみじみ思います。そして、再読することでこれからも何度でも出会えることが楽しみです。


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