【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

動と静

2011-03-03 18:35:33 | Weblog

 バスケットボールの面白さはいろいろありますが、その根底には「動と静の切り替え」があるように私は思っています。肉体の激しいぶつかり合いや早いパス回し、素早いダッシュやドリブルの「動」のあと、一転息を詰めてのシュートの瞬間、時間は突然その進行を遅くします。プレイヤーは瞬時に自分の心身を「動」から「静」に切り替える必要があるのです。(だから私はダンクシュートがあまり好きではありません。「動と静」ではなくて「動→動」ですから)
 カーリングも「動と静の共存」という点で、見ていて静かな興奮を感じます。勝ちに行くか守るか、それともわざと1点だけ相手に与えて負けるか、といった両チームの戦略がぶつかり合い、氷上ではストーンが戦術的に配置され、しかしそれを投じるには肉体の鍛錬と正確な統制が必要ですし、ブラシで氷をはくのは明らかに重労働です。シンプルなルールでこんなに複雑な展開をする面白いスポーツを考えついた人は、よほどスポーツの真髄がわかっている人なのではないか、と尊敬してしまいます。

【ただいま読書中】『カーリング魂。』小野寺歩 著、 小学館、2007年、1400円(税別)

 トリノ・オリンピックに出発の日、「チーム青森」を青森空港で見送ったのは関係者と地元メディアだけでした。オリンピックで善戦はしたものの、目標としていたメダルは取れず失意で帰国したチームの面々は、成田空港での大歓迎と記者会見に目をぱちくりします。そして2週間後には日本選手権大会。時差ぼけと疲れが抜けない体にむち打って、チームは戦います。予選リーグでは常呂中学校チームに負けたりもしますが、結局優勝。そして著者はチームを離れ、北海道に帰りました。
 カーリング発祥の地は16世紀のスコットランド(だからオリンピックでの入場は、スコットランドに敬意を表してバグパイプの曲で)、カーリングの選手を「カーラー」と呼ぶ、試合直前の運動や精神集中、など今まで知らなかった“舞台裏”も紹介されます。“当事者”ですから、描写に迫力があります。試合の時の一投一投で状況が変わりそれが選手の心身に細かい影響を与えること、そしてそれが相手選手にも影響を与えることもわかります。ものすごく繊細なスポーツです(そもそも「粗雑なスポーツ」なんてものはないでしょうけれど。粗雑な人間が好むスポーツはあるかもしれませんが)。
 ストーンを投げる目標(約30メートル向こう)に対しての許容範囲はセンチメートルあるいはミリメートル単位です。一見すると平らな氷面の細かい凹凸はプレイの進行や温度変化によって変化します。ストーンには個体差があり、それによってもラインが違ってきます。さらに「次の次の読み」。カーリングはよく「氷上のチェス」と言われますが、著者は「氷上のビリヤード」と言います。ビリヤードも「次の次の次(あるいはさらにその先)」を読んで今のショットを決めますから、「チェス」とココロは同じでしょう。
 使うのは頭だけではありません。スウィーピング(ブラシでの“お掃除”)は重労働です。練習では心拍数が200を越えるくらいの負荷をかけることがあるそうです。そしてその直後にストーンを投じる場合には、今度は心身を落ち着かせてミリ単位の精密作業です。切り替えるのが大変だそうです。試合時間は大体2時間半。場合によっては1日に複数回の試合。これは大変です。夏場のトレーニングが重要です。さらにスキップ(チームのキャプテン役)は、相手チームのスキップとの心理戦もしなくてはいけません。
 ソルトレークシティオリンピックから戻った著者は、カーリングホールが新設された青森で「チーム青森」を立ち上げます。しかしそれはゼロからのスタートでした。本人の生活の保障さえない状態で、メンバーも自分で集めなければなりません。周囲に理解はありません(大体こんな場合、「周囲の理解」は、それが一番必要なときには得られなくて、もう特にこれ以上いらなくなった(日本選手権とかで“結果”が出たあと)になってから(過剰に)得られるものですけどね)。あまり詳しく書いてはありませんが、相当悔しい思いもした様子です。
 著者は日本でのカーリングの普及にも熱意を持っているようです。カナダのように全国に500~600もの専用ホールがあるレベルまでは行かなくても、せめて各都道府県にカーリング専用ホールが一つは欲しい、と本書でも述べています。著者も言っていますが、このスポーツ、けっこう日本人向きではないかと思えます。私がこれから体幹を鍛えるのはちょっときついので他力本願モードになりますが、誰かやってみたいと思う人はいませんか?



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