コンビニでちょっと買い物をして、たまたまポケットにレジ袋があったからそのしわくちゃの塊を出して「これに入れて下さい」と言ったら、店員にえらい丁寧にお礼を言われてしまい、かえって面映ゆい思いをしてしまいました。でも、お礼を言われてもちろん悪い気はしません。用が済んだレジ袋はまた私のズボンのポケットで次の出番を待っています。
【ただいま読書中】『ノーチラス号の帰還 ──ノーチラス号の冒険(12)』ヴォルフガンク・ホールバイン 著、 平井吉夫 訳、 創元社、2009年、1400円(税別)
「この厚さは何だ」と私は呟きます。このシリーズでは異例の400ページ以上、ほとんど2冊分の分量なのですから。これなら13巻のシリーズにしても良かったのではないか、とさえ思いますが、読んでみてわかりました。これだけのページが本書には必要だったのです。それでも謎解きは駆け足で、よくわからなかい読者がいたかもしれません。
前巻で、ノーチラス号の姉妹艦ヴォータン号が登場しました。そして、それを指揮するのはトラウトマンの息子、権力欲に取り付かれたトマスです。ただ、ここにも大きな謎があります。トラウトマンは2週間前まで自分に息子がいたことを忘れていたのです。(大体このシリーズでは「謎」はすべて伏線なのですが、さてさて、これはどう展開されるのでしょう?)
さらに謎が。トラウトマンにはトマスの行動が逐一わかっています。トマスがドイツに身売りするためにイギリス軍艦などを沈めていること、そして次にはどこでどの船を沈めるのか、までも。
さらにあり得ないことが続きます。トラウトマンが重症となり、医者を捜して上陸した島では、医者の方からノーチラス号にやって来て“未来”を予測してくれるのです。さらにはトラウトマンやシンまで(メモ用紙を見ながら)未来予知をやってのけます。一体何が起きたんだ。マイクたちは混乱します。
そして、驚愕の人物が、登場。そしてすぐに退場。
「こんなの、あり?」と私。
マイクたちは信頼できる舵手で父親がわりとも言えるトラウトマンを失い、さらにヴォータン号と戦うことも禁じられます。理由の説明は一切ないままに。怒りくるうマイクたちにアスタロスは謎めいたことばを伝えます。運命は自分の仕事に手出しをされるのを好まない、と。
そしてノーチラス号は、バミューダトライアングルに引き寄せられます。そして、傷だらけのノーチラス号にさらに傷が増えます。二つ知らせがあります。まずは悪い知らせ。機関が破壊されました。もう一つはもっと悪い知らせ。ノーチラス号は急速に沈没中で、それを止める手段はありません。死ぬような思いをしながらもなんとか生きたまま深海の海底に到着した一同が見たものは…… いやもう、ジェットコースターのようなストーリー展開です。ここまででまだ本の半分に届いていません。このあともこの調子で話が進むとなると、こちらの身が保たないかも、と危惧していると、話が急に大きくなります。これまでもノーチラス号の乗員はいろんな人びとを救ってきました。しかし今回の相手は、アトランティスを滅ぼした元凶なのです。そして、これをなんとかしないと、世界が滅亡するかもしれないのです。
著者は本書の途中から、トマス(トラウトマンの息子)を「トラウトマン」と呼び始めます。これまた伏線ですし、これが何を意味するかはすぐにわかります。では、マイクは? 実は「マイクの存在そのもの」もまた伏線なのですが……これについてはネタバレはしません。読んでください。そして、少年を主人公とした冒険小説の可能性の大きさに、驚いてください。